第二十五話 サクラコ その2
「カイくん、何なの?えっ!?『しなの』のみんなに謝りたい?大丈夫よ。私の方から謝っておいたし、悪気はなかったって、みんな分かっているわ」
「あの、サクラコさん、質問があります」
「何かしら?ノリオくん」
「サクラコさんは、A式推進機改とお話ができるのですか?」
「もうっ!ノリオくん!そんな可愛くない名前でカイくんのことを呼ばないでって、言ってあるでしょ!?」
「あっ、すいません」
サクラコは少し怒ってほっぺたをふくらませた顔をノリオに向けた。
その表情はとても可愛らしく、ノリオは思わず見とれてしまった。
「ノリオくん、質問に答えるけど、私はカイくんとお話をしているわけじゃないわ」
「でも、意思の疎通ができているように見えますが?」
「うーん、何て言えばいいかな?ノリオくんは犬とか猫とかペットを飼ったことはあるの?」
「いいえ、一緒に住んでいた祖父がペットを飼うのが嫌いでしたので」
「じゃあ、ペットの犬や猫に話し掛けている人は見た目ことがある?」
「それは、あります」
「あれは、もちろん、ペットと会話をしているわけじゃないわ。でも、何となく、ペットの気持ちが分かるのよ。カイくんと私もそれと同じようなものよ。それで、ノブヨおば様」
サクラコは小川艦長に顔を向けた。
「カイくんが言葉だけでなくて、具体的にお詫びをしたいって」
「具体的にとは……何をするのだ?」
「この『しなの』を押してあげるって」
「しなの」のすぐ後ろに小型宇宙艇が移動した。
地上を走る車両に例えれば、大型トラックの後ろに原付バイクがあるような光景である。
A式推進機にはロケットエンジンのような噴射口は無い。
どうやって推進しているかは謎である。
燃焼ガスなどを噴射していないので、真後ろにいても安全である。
「サクラコ、許可を出しておいて今さら何だが、カイくんだけに任せて大丈夫か?この『しなの』は普通のA式推進機を十二基搭載していて、最低三基同時に起動させないと『しなの』は動かないんだ。それをカイくん一基だけとは……」
「大丈夫よ。ノブヨおば様、『しなの』の推進機は全部止めて、カイくんは自分一基だけで平気だって言っているわ。とても力持ちさんなんだって、カイくんは嘘をつくような子じゃないわ」
「分かった。カイくんの性能も確かめたいからな。機関長、全推進機停止。サクラコ、カイくんに『しなの』を押させろ」
「了解しました。カイくん、許可が出たわ。初めはゆっくりと押して、徐々にスピードを上げるのよ」
小型宇宙艇が『しなの』を押し始めた。
ゆっくりと「しなの」は動き始めた。
これでカイくんは普通のA式推進機の三倍の推進力があることが分かった。
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