第二十四話 サクラコ その1
日本国航宙自衛隊宇宙護衛艦「しなの」の「艦橋」は、正式には「戦闘指揮所」と呼ばれている。
地球の海などを航行している水上戦闘艦には、甲板上の塔のような構造物に「艦橋」があり、船体内に「戦闘指揮所」がある。
西暦の二十世紀頃に日本で流行したアニメに登場した架空の宇宙戦艦では水上戦闘艦をモデルとしていたので、塔のような艦橋があったが、跳躍暦百五十年の現実に存在する宇宙護衛艦「しなの」には塔のような艦橋は無い、と言うよりステルス効果を考慮しているため船体の外側にほとんど突起物は無い。
「しなの」はのっぺりとした長い筒のような外見をしていて、船体内に戦闘指揮所がある。
航宙自衛隊で宇宙護衛艦の戦闘指揮所のことを艦橋とも言うのは慣例で正式な規定ではない。
……と航宙自衛隊の基礎教育で習ったことをノリオ・大原は、「しなの」の戦闘指揮所で小川艦長の右側の椅子に座って思い出していた。
(戦闘指揮所あるいは艦橋は部外者は立ち入り禁止だけど、この作業をするには彼女が必要だもんな)
ノリオは小川艦長を挟んで反対側に座る少女を見た。
小川艦長の親戚の十七歳の美少女であるサクラコ・小川であった。
艦長席に座る小川艦長が命令した。
「これより、A式推進機改の当艦への積み替え作業を始める。サクラコ頼む」
「もう!ノブヨおば様!A式推進機改なんて名前でカイくんを呼ばないで!ちゃんとカイくんと呼んでよ!」
「いや、だがな、サクラコ、その名前で呼ぶのは抵抗が……」
「カイくんって呼んでよくれなきゃ、おば様に協力してあげない。私はおば様の部下じゃないんだから強制的に命令はできないんだよね?」
サクラコはイタズラっぽい笑顔を小川艦長に向けた。
「分かった。カイくんの積み替え作業を始める。サクラコ頼む」
「了解しました!小川艦長!」
サクラコはウィンクをしながら敬礼した。
戦闘指揮所の前方の壁全部を占める大きなモニターには 、「しなの」から少し離れた宙域に浮かぶ警備船「吉宗」が映っていた。
「吉宗」の小型艇格納庫の扉が開いた。
「カイくん、格納庫から出るのよ」
サクラコは手に持っているレバーにマイクにするように話し掛けた。
格納庫から小型艇が出てきた。
「カイくん、さっき説明した通り、私が今乗っているお船の格納庫に入るのよ。ゆっくりと歩いてこっちに来てね。走ったら駄目だからね。カイくんは走るのが凄く速いから、ぶつかったら他の人がケガしちゃうんだからね」
ゆっくりと小型艇は「しなの」に近づいて来た。
「しなの」の格納庫の直前で小型艇は突然止まって動かなくなった。
「ん?どうしたの?カイくん、いきなり止まったりして?」
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