第二十話 説明 その3
跳躍暦百五十年現在、地球の日本列島に住む日本人の人口は新大江戸への移民による人口流出により約八千万人となっており、新大江戸に住む日本人は人口流入と現地の出生率が高いことから約二億人となっている。
人口比では完全に逆転しているのだ。
たが、現在でも日本本国が政治的・経済的主導権を握っている。
その理由は、高度な技術を必要とする工業製品、特に人工知能搭載のロボットの製造は、地球の衛星軌道にある工業コロニーが独占しているからだ。
跳躍暦百五十年現在では農業・漁業には人口知能搭載のロボットが不可欠になっている。
元々農業・漁業は古代より多くの人手を必用とし、西暦の二十世紀頃から徐々に一部の作業が機械に置き換わっていたが、跳躍暦百五十年現在では完全に機械に置き換わっている。
人間は自宅にいたままで農業用・漁業用ロボットに指示を出すだけになった。
新大江戸における農業・漁業従事者には「引きこもり」が多い。
「引きこもり」という言葉は、西暦の二十一世紀では負のイメージを持つ言葉だったが、現代では単に「在宅で仕事をする人」を意味する言葉になっている。
付加価値としてのブランドや趣味として敢えて手作業で農業・漁業をする人もいるが少数である。
新大江戸においては大規模工場の建設は、日本政府により禁止されている。
表向きの理由は「新大江戸の環境保護」のためだが、本当の理由は「日本本国抜きでは新大江戸の産業が成り立たないようにするため」である。
それを不満に思う新大江戸の地方自治体は、日本政府に何度も「大規模工場建設の禁止」の緩和を求めているが、日本政府は表向きの理由を盾に拒否している。
それが原因で、日本本国と植民地の新大江戸が対立が激しくなっている……、と言えるほど話は単純ではない。
ロボット生産を日本本国に独占されても、新大江戸は新大江戸米・新大江戸鯨などの輸出で経済的に豊かであり、多くの住民は不満に思っていない。
日本本国に対して不満を持っているのは、ほとんどが新大江戸上層部の知的エリートである。
新大江戸の住民が一致団結して日本本国に不満を持たないようにした日本国植民省の巧みな行政の結果でもある。
それに、大江戸星系の小惑星帯にある「異星人の置き土産」であるA式推進機の自動製造無人工場の管理を新大江戸に任せたのも不満をやわらげる理由になっている。
宇宙船の推進機である無人工場の管理を任せたのは破格の待遇に見えるが、それには理由がある。
無人工場には中に入る方法も外部から操作する方法も見つかっていない。
工場から定期的に搬出されるA式推進機を地球人類は受け取っているだけなのだ。
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