第二話 選択と結果
ノリオはモニターに映る十二個のリングを見ながら迷っていた。
便宜上リングには一番から十二番までの番号がつけられている。
宇宙護衛艦「しなの」の目的地は、新大江戸星系となっている。
新大江戸星系は、日本が主導して植民・開拓した星系である。
「艦長、もし一回目で新大江戸に行けなかったら、どうなるのですか?」
「すぐに太陽系に戻って、またリングを選んでくぐる。『当たり』が出るまでやる。これは他の星系に行く場合には常識だ。ノリオ・小川二等宙士、決断したまえ」
「了解しました。艦長」
(二等宙士に過ぎない僕が何で、どのリングをくぐるかの選択をしなきゃならないんだ?いや、理由は分かっているんだけど)
どのリングをくぐれば、どの星系に行けるかは、まったく法則性は無い。
例えば、一番のリングを選んだ宇宙船が、新大江戸星系に到着したとしても、次に一番のリングを選んだ宇宙船がニュー・フロンティア星系(アメリカ合衆国が主導で植民・開拓した星系)に到着するということは当たり前に起きている。
地球人類が、リングを利用した過去百五十年のデータを集計し、最新のスーパー・コンピューターで計算したが「法則性は無い」という結論が出ている。
そのためリングの選択については完全に「運任せ」になっている。
どこの国の軍用宇宙船でも民間宇宙船でも、新人の乗組員に「ビキナーズラック」を期待してリングを選択させるのだ。
(……ということを航宙自衛隊に入隊して記憶促進装置で覚えさせられたから忘れようとしても忘れられないのだけども。受験勉強に記憶促進装置が使えればな……。もちろん、『学生の内は記憶力を鍛えるのも勉強』とされているから使用が禁止されているのは分かるけど……。でも、僕は『くじ運』悪いからな。席替えの時も学級委員長を決めるくじ引きの時も『ハズレ』ばかり……おっと!早く、どのリングにするか決めないと!)
「三番のリングにします」
ノリオは口を開いた。
(何となく三番にしただけなんだけど、理由を艦長に聞かれたら、どうしよう?)
ノリオが悩む必要は無く、小川艦長は航宙長に三番のリングに向かう指示を出しただけだった。
「大原二等宙士、もし、この一回で新大江戸星系に跳躍できたら、私の親戚の娘とデートさせてやるぞ」
「艦長の親戚ですか?」
「そうだ。新大江戸星系に住んでいて、年齢は君の一つ下の十七歳、周りから私によく似ていると言われている」
(艦長に似ているとは、かなりの美少女なんだろうな。だけどデートは期待できないな。『ビキナーズラック』でも一回で目的地に『跳躍』できる確率は、宝くじで一等が当たる確率と同じなんだものな)
小川艦長の表情と口調からジョークを言っているだけだと、ノリオは分かっていた。
三番のリングをくぐって宇宙護衛艦「しなの」は「跳躍」した。
航宙長が現在位置を小川艦長に報告した。
報告を聞くと、小川艦長は数秒だけ考え込んで、ゆっくりと顔をノリオに向けた。
「ノリオ・大原二等宙士、このノブヨ・小川、艦長として、いったん口に出したことは無かったことにはしない。約束通りデートをさせてやろう」
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