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第十七話 高速飛翔体 その6

ノリオは小川艦長の命令に驚いた。


「えっ!?あの……、僕は高校の時に野球部だったと言っても……」


「分かっている。ずっと補欠で公式戦に出たことはなく、三年生の時の最後の練習試合で一打席だけ代打で出ただけなんだろ?」


「小川艦長!そんなことまで知っているんですか!?」


「航宙自衛隊では、新入隊員の過去については徹底的に調べる。いきなり、操艦を任せることもあるのだからな。君はずっと補欠だったと言っても練習はサボらずにずっと参加していたのだろ?」


「は、はい、そうです。下手でしたが野球は好きでしたから」


「試合に出られないと、練習をさぼるようになり、野球その物が嫌いになってしまうこともある。でも、君は今でも野球を好きだと言えるのだろう?」


「はい、大好きです!」


ノリオはハッキリと答えた。


「ならば、それでいい。今回はホームランを打てと言っているわけではないのだ。この『しなの』というバットに標的アルファというボールを当てるだけでいいのだ」


「はい、了解しました」


ノリオを自分の前の床からせり上がった操縦桿を握った。


ノリオが現実に「しなの」を操艦するのは初めてだが、仮想現実での訓練では何度もしたことがあるので戸惑いは少なかった。


ノリオは練習試合での最初で最後になった一打席のことを思い出していた。


(あの時は、バットにかすりもしない三球三振だった。今回は、小川艦長の期待に応えなければ……、だけど、当てたとしても『しなの』の受けるダメージが予想より大きかったら?)


ノリオの内心を小川艦長は推察したのか、生徒に格言を教える教師のように言った。


「ノリオ、当たり前ではあるが、自衛隊においては責任は『命令された方』ではなく『命令した方』に責任がある。『しなの』がどんな損害を受けようとも、すべては私の責任だ。気楽にやれ!」


「了解しました!」


ノリオは気合いを入れた。


モニターの「しなの」に向かって来ている標的アルファを見た。


ノリオの目には標的アルファがスピードが段々と落ちていき、止まったように見えた。


(おお!一流のバッターは『ボールが止まって見える』と聞くけど、ついに僕もその境地に……)


ノリオの歓喜を断ち切るように観測長が報告した。


「標的アルファ、完全に停止しました。標的アルファの機関のエネルギー反応消失。機関を完全停止しています」


「止まっただと?どういうことだ?」


小川艦長の疑問に答えられる者は、艦橋にはいなかった。


その代わりのように通信長が報告した。


「大江戸星系軌道警備奉行所所属大型宇宙警備船『吉宗』より入電。今の『事故』について説明するそうです」

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