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第十六話 高速飛翔体 その5

それから数分間、宇宙護衛艦「しなの」と標的アルファの戦闘は続いた。


標的アルファが「しなの」に体当たりしようとするのを小川艦長の操艦技術でギリギリで避けるのを何度も繰り返した。


観測長が標的アルファの分析結果を報告した。


「艦長、標的アルファにはやはり生命反応はありません。無人のようです」


「そうか、ならば多少はムチャをしても構わないな。ノリオ、君は野球は好きか?」


ノリオは小川艦長の唐突な質問に戸惑いながらも答えた。


「は、はい。野球は好きです。一応高校では野球部でしたから」


「そうか、機会があれば乗組員のレクリエーションとして仮想現実訓練室で野球をしよう。仮想現実では歴史的建造物として保存されている甲子園球場で試合をするのも可能だ。バットでボールをぶったたくのは私は大好きだ」


副長であるツグオ・細川二等宙佐が話に割り込んだ。


「艦長、ひょっとして、この『しなの』をバットにして、標的アルファを打つつもりじゃないじゃないでしょうね?」


「副長、よく分かったな」


「おやめください。乗組員が負傷して、『しなの』の船体がダメージを受けます」


「艦首の部分で標的アルファを打つつもりだ。艦首には主砲が集中していて元々無人だ。乗組員に被害は出ない」


「艦首主砲が損傷すれば修理のため最低半年は『しなの』はドック入りすることになります。宇宙護衛艦一隻が半年間行動不能になるのは、我が国の防衛計画に多大な影響を与えます」


「『しなの』の兵装では標的アルファを撃墜するのは不可能だ。今のところ回避しているが、このままでは体当たりを喰らうのは時間の問題だ。最悪の場合、『しなの』は撃沈されて、乗組員全員殉職してしまう。それよりはマシだろう?」


「分かりました。艦長のお考えを支持します」


「ありがとう、副長。総員衝撃に備えろ!」


小川艦長は『しなの』をホームランバッターがバットをフルスイングするように操艦した。


「しなの」の艦首が標的アルファとぶつかって野球のボールのように打たれると、モニターを見ている乗組員は誰もが思った。


だが、標的アルファはギリギリで回避した。


「何だと!?」


小川艦長は驚いた。


三度同じことを繰り返したが、三度とも標的アルファは回避した。


「空振り三振、バッターアウトだな。私の行動パターンが読まれている?それなら……、ノリオ、君がピンチヒッターだ!」


「え?あの……、どういう意味でしょうか?」


「君が『しなの』を操艦して、標的アルファを打つんだ」



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船渠はDockなので、ドッ「グ」ではなくドッ「ク」です。
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