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第十五話 高速飛翔体 その4

ノリオは標的アルファが弾幕をすべて避けて、「しなの」に接近して来るのをモニターで見て、こう思った。


(まるで第二次世界大戦に地球の海で行われた戦艦対航空機の戦いみたいだな)


ノリオはミリタリーマニアではないが、航宙自衛隊の仮想現実での訓練の中には過去の戦争を体験するものもあった。


(第二次世界大戦では巨大な戦艦が小さな航空機に撃沈されたけど、跳躍暦百五十年の宇宙空間における戦闘では、それは有り得ないとされているのに!)


かつて、SF映画などで空想された「宇宙戦闘機」は、跳躍暦百五十年では「役に立たない」とされているため開発・製造は行われていない。


なぜなら、地球の大気圏内を飛ぶ航空機が洋上を航行する戦艦に対して優位だった理由は、速度が桁違いだったからである。


洋上を航行する軍艦の速度は時速にして五十キロぐらいなのに、西暦の1930年代始めの航空機で二百キロを軽く超えるのである。


だが、宇宙空間では条件が異なる。


巨大な宇宙戦闘艦は小型の宇宙戦闘機よりも遥かに出力の大きな推進機を積むことができるので、宇宙戦闘艦の方が桁違いに速いのだ。


それで、宇宙では大艦巨砲主義が復活した。


巨大な船体に巨大な砲を搭載した戦略兵器である「宇宙戦艦」を建造・保有できる先進国……国連の常任理事国である日本・アメリカ・ロシア・イギリス・フランス・中国が、地球人類の生存圏である太陽系を含めた十三の恒星系を軍事的に支配しているのだ。


(『しなの』の全長は三千メートル。これがワシントン宇宙軍軍縮条約で定められた宇宙戦艦の上限になっている。ロシアや中国なんかは全長四万メートルの宇宙戦艦なんて計画していたからな。軍事費の増大を避けることと軍事的緊張の緩和のためにワシントン条約が締結されたんだ)


ノリオは危機的状況にあるが、何もすることがないので、航宙自衛隊に入隊してから学習したことを思い出していた。


(これが仮想現実を使った訓練の弊害かな?仮想現実がリアル過ぎて、現実に危機感が持てなくなることがあると言うけど)


標的アルファが「しなの」の至近距離を通過した。


しかし、標的アルファは「しなの」に対して何も攻撃することはなく、いったん遠ざかり、再び「しなの」に接近して来た。


「艦長、お見事です!標的アルファが、当艦に体当たりしようとしたのを間一髪で回避しましたな!」


観測長の言葉に、ノリオは自分たちが危機的状況にあるのをようやく実感した。

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