第十四話 高速飛翔体 その3
「ノリオ、戦闘中だ。騒ぐな」
「申し訳ありません。艦長」
ノリオは小川艦長に頭を下げた。
「だが、ノリオの言うとおりだろう。あんな急減速は『異星人の置き土産』でもなければ不可能だ」
細川副長が発言した。
「艦長、あれが新たに発見された『異星人の置き土産』だとしたら明らかに違法です。発見された『異星人の置き土産』はすべて国連に報告する義務がありますから」
「副長、便乗している植民省の皆様方は、この状況を知っているのか?」
「いいえ、『所属不明の小型宇宙船が接近している』とだけ報告してあります」
「そうか、詳細を知らせるのはすべてが終わってからにしよう。余計な心配をかける必要はないし。下手に知らせて『無傷であれを確保しろ』なんて無茶を言われたらたまらん」
「では、そのようにします」
小川艦長と細川副長は共犯者の笑みを交わした。
「標的アルファ、再加速しました!本艦に向けて最接近して来ます!」
観測長の報告を受けて、小川艦長は命令した。
「本艦の操艦・兵装使用のコントロールを私に集中させろ!私が単独でやる!」
跳躍暦百五十年の宇宙戦闘艦は一人で操艦・兵装使用が可能である。
艦長一人が砲術長・航宙長・観測長などを兼ねることも可能であるが、どこの国の宇宙軍でも、それは行われていない。
なぜなら、艦長一人にかかる負担が大きくなるし、専門の砲術長などが乗艦していることで人員に余裕を持たせたいからである。
民間の大型宇宙貨物船などでは人件費節約のために、船長を含めて乗組員が三名だけで、三交代制で運用しているところがほとんどである。
しかし、「軍隊」においては、人員が「負傷」「戦死」することを前提に想定しているため宇宙戦闘艦では乗組員に余裕を持たせているのだ。
余談ではあるが、自衛隊が「軍隊」であるかどうかの西暦の二十世紀以来の議論は、日本国内ではずっと続いている。
だが、「国連軍」への参加は憲法上問題はないとされている。
艦長席の前に大気圏内戦闘機のような操縦桿が床からせり上がった。
これから小川艦長は、宇宙護衛艦「しなの」を大気圏内戦闘機のように操るのだ。
航宙長や砲術長の仕事を奪うような形になるが、標的アルファに対応するには小川艦長単独で操るのが効果的だと分かるため誰からも文句は出なかった。
小川艦長は、第二次世界大戦の海戦で洋上の軍艦が航空機にしたように標的アルファに対して弾幕を張った。
しかし、標的アルファは慣性の法則を無視するような……いや、本当に慣性の法則を無視した機動をして弾幕をすべて避けた。
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