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第十三話 高速飛翔体 その2

「標的アルファの破壊を許可する!総員戦闘配置!砲術長!全兵装使用自由!射撃任す!」


「了解!」


小川艦長の命令で艦橋に配置された人員が動き出した。


ノリオは艦橋にいるよう小川艦長から命じられているが、艦橋に持ち場は無いので実質的には傍観者に過ぎなかった。


ノリオが「しなの」艦内の状況を表示するモニターを見ると、全兵装の準備が整った。


主砲、副砲、近接防御火器の準備が完了した。


跳躍暦百五十年の宇宙戦闘鑑には、西暦のSF映画などで空想されたレーザー砲やビーム砲などは装備されていない。


実体弾を火薬で発射する火砲がメインウェポンである。


その理由は跳躍暦初期に大江戸星系の小惑星帯で、宇宙船用推進機自動製造無人工場が発見されたことにある。


それも「リング」と同じく「宇宙人の置き土産」と推測されている。


その工場で製造されている推進機は地球人類が製造した物より遥かに高性能で、跳躍暦百五十年現在でも地球人類はそれを超える性能の推進機を製造できていない。


そのため地球人類の宇宙船は一部の技術試験船を除けばすべて「異星人の置き土産」推進機を装備している。


異星人・ALIENの推進機なので「A式推進機」と呼ばれている。


ところが、その「A式推進機」を装備した宇宙船は不具合を起こしてレーザーやビームが発射できなくなるのだ。


理由はいまだに不明だが「A式推進機」を装備した宇宙船では火砲のみが発射可能なため、地球人類の宇宙戦闘艦は、地球の海だけで軍艦が活動した第二次世界大戦頃に先祖帰りしたように火砲をメインウェポンとしている。


砲術長は一番射程距離の長い主砲を標的アルファに向けて発射した。


第二次世界大戦の頃の地球の海で活動していた戦艦ならば、目標に対して砲撃と弾着観測を繰り返して命中するまで何度も砲撃するのが普通であった。


しかし、跳躍暦百五十年の最新の軍事技術による観測装置と射撃管制装置により初弾命中は当たり前になっている。


標的アルファは高速ではあるが、一定の進路と速度を維持しているため、むしろ命中させやすい相手であった。


砲術長も艦長も艦橋にいる士官たちも初弾命中を確信していた。


仮想現実によって宇宙戦闘艦の射撃訓練をしたノリオも同様であった。


「えっ!そんな馬鹿な!」


モニターで射撃の結果を見たノリオは思わず大声を出していた。


「ハズれた!標的アルファが急速に減速したからだ!でも、こんな減速は小型艇に載せられる推進機の性能では不可能のはずだ!まさか!大江戸星系では新たな『異星人の置き土産』が発見されていたのか!?」

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