第十一話 リングの授業 その4
「ノリオ、今回、君は一回で目的地である大江戸星系へのリングを選ぶことができたが、そのようなことができる人間を『ラッキーパーソン』と呼び。裏では各陣営による激しい争奪戦の対象になっている」
「小川先生、ラッキーパーソンって……、僕はたまたま当たっただけで……」
「今までの統計によると、一回目で当てた人間は、次回からもずっと高確率で当たるようになるんだ。例外は無い」
「何で、そんなことになるんですか?」
「分からん!としか言いようがない。過去に『ラッキーパーソン』になった人間は性別・国籍・民族・人種・経歴すべてバラバラで同じパターンというのは無い。だが、リングと同じく『何でそうなるか』は分からなくても、使うことに問題はない」
「……あの、小川先生、質問なんですけど?」
「ん?何だ?」
「僕がラッキーパーソンなら、国連と対立している陣営から誘拐されたりしないのですか?」
「大変良い質問だ。実際に過去には、そういう事例があった。誘拐されて『洗脳』されたり、『殺害』されてしまうなんてこともあったのだ」
ノリオは急に室内の温度が下がったように身体を震わせた。
「ああ、安心しろ。そんなことがあったのはリングを使い始めた初期の頃の百年以上前の話だ。洗脳をしてしまうとラッキーパーソンとしての能力を失ってしまうことが判明しているし、貴重なラッキーパーソンを殺害してしまうなど、全人類にとっての損失だ。それで、今では各陣営は裏で紳士協定を結んでいる」
「紳士協定?」
「紳士協定の内容は『強制的にラッキーパーソンが今現在所属している陣営から引き抜いたりはしない』だ。言い替えるとラッキーパーソンが本人の自由意志で所属陣営を変えるのはOKということだ。だから、ノリオ、新大江戸星系の惑星新大江戸に降りた時には、気をつけろよ。前にも言ったが、サクラコは間違いなく君に結婚を申し込んで、君を新大江戸陣営に引き入れようとするだろう」
「地球の日本本国と宇宙植民地である新大江戸の関係は別に悪くないのでは?」
「その通りだ。だが、どちらも自分の方が有利になるカードを握ろうとする。惑星新大江戸に着くまでは、まだ日数がある。それまで、君はここでサクラコへの対処法を訓練……」
室内を緊急のアラームが鳴り響いた。
艦橋からの艦内通話を小川艦長は受けた。
『こちら副長です。艦長、未確認の高速飛翔体が当艦と交差する軌道を接近中です』
「分かった。すぐ艦橋に行く。ノリオ、君も一緒に行くぞ」
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