第百話 ニュー・フロンティアでの暴動 その7
仮想現実装置の仕組みそのものは、インターネットで公開されている。
その製造に必要な部品は、地球人類社会では普通に安価に流通している。
官公庁・軍隊・大企業などでの訓練用に使用されている高度な仮想現実装置は専門の業者でなければ製造できない。
しかし、初歩的な機能を限定された仮想現実装置なら、素人でも部品を組み立てて製造可能で、一般的な趣味である。
ネット上の通販サイトで中古の部品が流通している。
それを次世代のメンバーが購入したのだ。
例えば、地球のネット市場で流通している商品をニュー・フロンティアの住民が購入するには普通は次のような方法になる。
惑星の地上にある自宅の端末から有線でネットで注文する。
その注文したデータは有線で軌道エレベーターの先端部分にある宇宙港に届く。
宇宙港には「データ輸送用宇宙船」が待機している。
星系を結んでいる「リング」は電波を通さないため、物理的に「データ」を宇宙船で運ばなければならない。
データ輸送用宇宙船は、受け取ったデータを船内の記録媒体に蓄積して、リングを通って送付先の太陽系で電波として発信する。
こうして地球のネット通販市場にアクセスできるのだ。
地球で発送された荷物は、宇宙船でニュー・フロンティア星系に運ばれ、軌道エレベーターの先端にある宇宙港で下ろされる。
ここで荷物は、検査を受ける。
ニュー・フロンティア星系だけでなく、どこの星系でもやっていることで、違法薬物はもちろん、検疫のために他の星系の動植物園の持ち込みは制限されているからだ。
検査官は、荷物の中身が機械の部品であることが当然分かる。
しかし、それが「仮想現実装置の部品」であることは分からないのだ。
検査官は、ニュー・フロンティア星系への移民第一世代であり、仮想現実を拒否したためである。
もちろん、人間である検査官をサポートするための人工知能はあるのだが、「仮想現実装置の部品は合法」であるため、人工知能は検査官には警告しないのだ。
そして、仮想現実装置の部品がニュー・フロンティアの社会の新世代の若者たちの間に密かに浸透した。
そして、仮想現実装置を組み立てた。
初歩的な仮想現実装置の外見は、パソコンとほとんど同じである。
親の目がある自宅で堂々と組み立てる若者もいた。
親の世代は、「仮想現実装置は大きな機械だ」というイメージがあるので分からなかったのだ。
さすがに、仮想現実装置を使用する時は、深夜に自室でこっそりと楽しんだ。
しかし、それだけでは我慢できない若者が増えていった。
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