第十話 リングの授業 その3
十二個の円環状の物体で構成される「リング」が、十二個の恒星系に一瞬で跳躍できる装置であると「旅行者」から聞いた時、カグヤ・ベースでは最初は信じられず。
後に、それが事実だと分かって狂喜乱舞した。
しかも、十二個の恒星系には、それぞれ最低一つは地球人類がそのまま住める惑星があることも分かった。
地球では先進国による宇宙開発は進んでいたが、火星をテラフォーミングして人が住めるようになるには百年以上かかるとされており、十二個以上の居住可能惑星が手には入ったことは僥倖であった。
しかし、カグヤ・ベースでは当然疑問を持った。
「書籍との対価としては釣り合わないのでは?」
それについて「旅行者」に質問したところ。
「『置き土産』だとでも思ってくれ、こっちは本を読むのに忙しい」
「リング」の使用方法の通信を最期にして、「旅行者」は太陽系から去って行った。
地球人類側では、「旅行者」が持っているはずの未知の科学技術や宇宙の神秘についての情報も得たかったのだが、それを尋ねる前に「旅行者」は太陽系から旅立ってしまった。
その年が西暦最後の年となり、跳躍暦元年となった。
今年が跳躍暦百五十年になるが、「旅行者」が地球人類が接触した唯一の異星人となっている。
「旅行者」が、どんな異星人だったのか議論が続いているが、当然結論は出ていない。
「リング」を手に入れた日本政府は、「リング」を自国で独占するのは早々に諦めた。
他の先進国すべてを敵に回してしまうからだ。
日本政府は「リング」を国際連合の管轄とした。
それと引き換えに、日本は念願の常任理事国入りを果たした。
「リング」を通る宇宙船からは、国際連合は通行料を徴収することになり、各国からの拠出金で運営されていた国際連合は安定した財源を得て機能が強化された。
月の近辺に設置された「リング」を使い始めると、跳躍する先の恒星系が不規則であることが分かった。
地球人類は「リング」の使い勝手の悪さに戸惑ったが、「旅行者」から教えられた使用法は「リング」を宇宙船でくぐり抜けることだけであり、「リング」の操作のための端末などは無かった。
「リング」その物を調べたが外側はただの合金であり、中身はX線には映らなかった。
「リング」の中身に「跳躍」のための装置があると推定したが、下手に「リング」を壊して故障してしまうと、二度と直せない可能性が高いので、それ以上の調査は行われていない。
地球人類は「リング」の使い勝手の悪さに不満を持ちながらも、十二個の恒星系に植民し、恒星間貿易をしている。
「……ここまでは一番常識で地球人ならば誰もが知っていることだ。ノリオ、これから『リング』についての『秘密』をキミに教える」
小川艦長は真剣な顔をノリオに向けた。
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