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旋灯奇談

旋灯奇談  第十一話  お代理様

作者: 東陣正則


   第十一話  お代理様


 周囲を白漆喰の築地塀で囲われた冥星学園高校は、鉄筋に建て替えられた本校舎を除けば、後はどれも二階もしくは三階屋の古びた木造瓦葺きの建物で、表通りに面した講堂などは、まるで温泉街の湯殿と見紛う外観をしている。この一見して高校のイメージとは程遠い校舎群だけでなく、校則やカリキュラムの面でも、冥星学園は異彩を放っている。

 たとえばこんな制度がある。冥星学園では自主欠席が認められるのだ。

 生徒教師ともに、月に一度、一日だけだが、公認で授業を休むことができる。登校はしなければならないが、授業に出ずに自由に過ごして良い。図書館で本を読むのもよし、食堂に併設された喫茶部でボーッとするもよし、許可は必要だが、他のクラスの授業に顔を出すこともできる。この制度のお陰で、授業中というのに、喫茶部でかち合わせた教師と生徒が、コーヒー片手に雑談に興じるという光景が見られたりする。

 さらに学園の特筆すべき特徴をもう一つ。

 以前にも述べたことだが、創設者の収集した品々が学内の至る所に展示され、あまた学園が博物館のごとき様相を呈しているということだ。絵画彫刻工芸品から、家電製品に各種制服、鉄道模型に玩具、古文書、各地の民俗資料と、ありとあらゆるものが展示されている。その中には、冥星学園の名を知らしめた怪異現象の元になったものもいくつかある。第七話で登場した逆さ鏡もその一つ。

 今回の話は、常設で展示されている、ある物品を巡っての騒動と、その顛末である。


 怪異現象を引き起こす物の代表格は何と言っても人形だろう。学園内にも様々な人形が展示されている。等身大のものだけでも、ありふれたマネキンや球体関節人形から、蝋人形、企業のマスコット人形、二足歩行のロボット、時代衣装を着た侍人形、見世物小屋で使われた生人形、医療用の人体模型などなど。目録だけでノート数冊分はあり、その大半は学園地下の倉庫に収蔵されたままになっている。

 様々な人形の中で、取り分け学内の女生徒に人気なのが、保健室の入り口横、ガラスケースに納められた、『お代理様』と呼ばれる身の丈六十センチほどの人形である。矢絣の小袖にエビ茶色の行燈袴、髪はお下げを背に垂らし、足元は黒の革靴、洋傘を手にしたその姿は、いかにもハイカラさん。明治期の女学生姿の人形である。収集年月日は明治四十五年。冥星学園に付随して、女子師範学校が設立された年に寄贈されたものだ。

 展示台に近寄り、お代理様のガラスケースを覗くと、あることが分かる。

 右側面のガラスが引き戸よろしくスライドして開け閉めのできる構造なのだが、良く見ると、その引き戸の中、ガラスケースの内側に南京錠がぶら下がっている。これは異なこと。密閉されたガラスケースで唯一開閉可能な場所に、内側から鍵が掛かっている。さらに目を凝らすと、お代理様の傘を持つ手に鍵が握られている。

 そう、お代理様は、自身でガラスケースを開けて出入りをする。

 何のために……、

 お代理様は、欠席している女生徒に成りすまして、授業を受けるのである。

『お代理』という名前の由来がここにある。お代理様は欠席届を出し忘れた女生徒を見つけると、顔も、服装も、声も、身のこなしも、もちろん身長や体型もそっくり丸ごと当人に化けて、一日学園生活を送るのだ。

 当然のこと、お代理様が生徒に成りすましている間は、ガラスケースの中は空になる。だから、お代理様が外にお出ましになっているというのは自明のことだが、誰に化けているかは分からない。それはそれは見事な化けっぷりで、お代理様の外出が明るみに出るのは、成りすまされた当人が休み明けに学校に登校してから。病欠したのに出席簿が欠席になっていない、あるいは受けたことのないテストの点数が発表される、描いてもいない絵が残っている、といった風にして判明する。

 ただ成りすまされても心配はない。お代理様は、品行方正成績優秀にしてスポーツ万能、話も雄弁闊達で、楽器や絵筆も見事に操り、おまけに英語とフランス語も堪能ときている。稀に見る優等生、非の打ち所のない鏡のような生徒なのだ。だからクラスの女子で、いつになく先生の質問にテキパキと答えたり、スポーツで得点を重ねたりすると、クラス中の視線が「あなた、お代理様でしょ」と、冷やかすような視線に変わる。先生までが「ハイ、お代理様よく出来ました」などと、冗談を飛ばす。

 お代理様がお出ましになるのは年に三〜四回なので、期待を込めて欠席届を出さずにいても、お代理様が身代わりを務めてくれることはまずない。

 この摩訶不思議なお代理様とは、いったい何者なのか。

 実は、このハイカラ人形が学園に寄贈された年の春、一人の美貌の少女が学園に入学している。その少女は心臓に疾患を抱え、晴れ着を着て出席した入学式のその日に、帰らぬ人となった。息を引き取る直前、少女は漏らした。一日でいいから学園生活を送ってみたかったと。その少女の祈りにも似た想いがハイカラ人形に乗り移り、学園を休んだ生徒に成り代わって授業を受けさせることに繋がったのでは、とそう学内関係者は理解している。

 なお当たり前だが、お代理様が代理を務めるのは女生徒だけである。

 そんなこともあって、学園の女生徒たちは、自主的にお代理当番なるものを決め、お代理様がケースを留守にした日をカレンダーに記録するようになった。そして休み明けに登校してきた女生徒は、いの一番にケースの下に吊るしたノートを捲って、自分の休んだ日にお代理様がお出ましになっていないかをチェック。当学園女子に連綿と続く習わしである。お代理様が女生徒に成り代わるようになって、はや九十余年。お代理様は、冥星学園高校女子学生のシンボルとなっていた。

 

 そして昨日、久々にお代理様がお出ましになった。

 ところがだ。なんと、今まで女生徒の代理を滞りなく務めていたお代理様が、問題を起こしたのである。

 今朝、病気で欠席していた二年五組の猪俣由香が登校すると、自分の机の上に黄色いイエローカードが貼られていた。これは学則に反した生徒に謹慎室で自習することを命じるカードである。由香にとっては身に覚えのない事で、自分が欠席している間に、お代理様が何か不祥事でも起こしたのかと級友に尋ねた。すると昨日、由香が教室にスマホを持ち込み、着信音で授業を中断させたという。午前と午後にそれぞれ一回、計二度も。

 自由な校風の冥星学園ではあるが、ことケータイ・スマホ等の持ち込みに関しては厳しい規定を設けている。教室にモバイル類を持ち込むのは、ご法度で、授業中は電源を切り、廊下の専用ロッカーに収納しなければならない。学期内にこの違反を二度繰り返すと、レッドカードが出されて自宅謹慎。累積五度で退学処分となる。

 まさかと思った。

 慌てて由香は担任の先生に弁明した。昨日の自分は病欠である。その証拠にと、病院の診察カードを取り出し、更にはスマホの通信履歴を見せて、授業のあった時間に着信がなかったことを示す。担任教師は教頭と相談のうえ、由香を不問とし、無事由香は午後からの授業に復帰した。級友たちは、お代理様は明治の女の子、モバイルの扱いに慣れていないのよと、笑って慰めてくれた。

 一応笑い話で事なきを得た。

 が、それから一週間後のこと、またもや、お代理様が不祥事を起こすことに。

 身代わりの対象となったのは、二年一組の江坂菜知。

 江坂は先に述べた一日休養日に、トイレでタバコを吸っているところを、用を足しにきた先生に見咎められる。学内には成人式を終えて大人の仲間入りをした生徒も何人か在籍しており、その年嵩の生徒たちは、特別に喫煙室での喫煙が認められている。しかし菜知はまだ十七歳。学園は法律で決められた未成年の飲酒喫煙、違法な薬物の利用には厳罰でもって対処している。即、レッドカードが菜知に突きつけられた。

 休み明けの菜知は、登校して仰天する。

 自分が喫煙して自宅謹慎、『まさか!』である。

 菜知の家は禁煙外来も設ける内科のクリニック。菜知は自分が喫煙をするわけがない、これはお代理様の仕業に違いないと主張した。

 学園側は当惑したが、今後女子生徒は欠席の際忘れずに届けを出すようにと通達して、菜知の処分を取り消した。

 しかしである。スマホの件に続いて今回の喫煙騒ぎ。今まで品行方正を貫いてきたお代理様が、宗旨替え、心変わりをしたのだろうか。

 女子生徒たちは噂した。きっと真面目一本やりのお嬢様でいることに飽きて、羽目を外したくなったのよと。もっとも、このことによって、お代理様の人気は以前にも増して上がることになる。完全無欠のお代理様が人間味を増したように受け取られたのだ。ただこの二件続いた不祥事によって、女生徒たちの欠席届けの出し忘れは激減した。もし自分が不在の間にお代理様が取り返しの付かないことをして、それが自分の責任にされたら一大事だからだ。

 ところが、その大変なこと、一大事が起きたのである。

 ネットを通して、ある噂が広がる。ケースの中にましますお代理様のお腹が膨らんでいるのではないか、というのだ。つまりは妊娠。

 休み時間、お代理さまの前は女生徒で黒山の人だかりとなった。確かに下腹部がかすかに膨らんでいるように見える。保健担当の先生、五人の子持ち、少子化時代の鏡のような真中先生が、「膨らみが分かるくらいだから、妊娠三カ月、いや四カ月くらいかしらね」と、当たり前のように言ってのけた。

『お代理様が妊娠』、これは、あることを示唆している。つまり、自分たちが気づくよりも前から、お代理様が羽目を外していたのではないかということだ。

 少なくとも妊娠したであろう三〜四カ月前から……、

 この妊娠騒ぎが一部の生徒を慌てさせた。わざわざ説明する間でもないが、妊娠したということは、お代理様が欠席した女生徒に代わって、学内の男子とコトに及んだということだからだ。

 お代理様が懐妊したであろう時期に無断欠席をした女生徒、なかでも彼氏のいる女生徒たちが疑心暗鬼に陥る。

 自分の知らぬ間に彼氏が偽の自分とそういう関係を結んだのだとしたら。もちろん今までそういう関係にあった二人なら問題ないのかもしれないが、未だステディな関係の二人の場合は問題アリアリで、女生徒とその彼氏の間に微妙な隙間風が吹き、問い詰めても彼がしらばっくれるのと言って、別れるカップルも出てくる始末である。

 さらにひと月が経過。お代理様のお腹は、明らかに先月よりもプックリ。その下腹部だけが膨らんだ姿は、もう誰が見てもそう見なさざるを得ない。

 ここに至って、生徒会長を務める三年の水内早苗女史が、学内総会で問題提起を行った。

 今回はお代理様という人形ですが、これがもし実際の生徒であった場合はどうなるのでしょう。近い将来同様の事態が起きる可能性は高い。今のうちに皆でこの学内妊娠の問題を考えておかなければならないのでは、と。

 今の高校ならどこでも起きる問題なのに、それが正面切って議論されたという話は、まずもって耳にしない。生徒手帳の校則欄にも、この問題については一切触れられていない。問題を表面に出したくない大人たちの思惑で事が納められ、ほとんど場合、当事者の自主的な退学でお茶を濁しているのが現状である。誕生した命と母体を守り、学業を続けながら出産と子育てを行う権利を保障する制度、それを早急に整備する必要があるのではと、水内女史は声を強めて呼び掛けた。

 学校関係者だけでなく保護者も出席する総会での問題提起、それも真っ向勝負のストレートな提言に、各人あっけに取られ、やがて喧々諤々の議論が沸き起こった。

 当然この問題提起には、生徒間の性交渉を学園が認めるのか、という含みもある。

 生徒同士の性交渉のみならず、視点を広げれば、生徒と社会人の間に子供が誕生した場合はどうなのか。一昔前の保守的な学校なら、即退学させて幕引きを図ったろうが、すでに世は二十一世紀に入って久しい。アメリカのように高校生の出産が日常茶飯の社会では、学業を続けられるよう学内に託児所を設けるケースも増えている。しかし今の日本では、まだそこまでの理解は保護者から得られないだろう。余りに未来を先取りし過ぎると、それは学園の内と外に軋轢を生じさせるだけで、逆に制度の改革を足止めさせかねない。現実的に、どの程度の制度設計が妥当か。

 学園のオーナー、教師、生徒、保護者、さらには教育や保健衛生の専門家にも参加してもらい、一緒くたになっての議論が開始された。

 水内女史が呼び掛けを行った学内総会が十月半ばのこと。その後催された学園祭やバザーなどのイベント、並びに日々のクラス会での議題にも、今回の懐妊問題が最優先の課題として組み込まれた。

 その間にも、お代理様のお腹は着々と膨らみ、間もなく臨月。

 果たして人形が子供を生むということが有り得るのか。もし本当に子供が生まれ、その子が自分と似た顔をしていたら、その男子生徒はどうするだろう……、

 皆が喧しく意見を交わす。

 興味本位無責任な発言も見られたが、概ね懐妊問題の話し合いは建設的に進み、三年生が卒業を間近に控えた桃の花もほころぶ弥生三月雛の日和。一つの結論が導き出された。いかなる状況での懐妊も、学園は等しく受け入れ、生まれ出ずる命を可能な限り支援するという大原則がである。

 問題提起から半年に満たない時間での迅速なる意見の集約であった。この稀に見る速やかな対応は、学園の代表、木崎総長が積極的に動いてくれたことに依っている。

 宗教人であることを誇りとする現総長は、保護者やOB会の面々に語りかけた。

 今の世相をかんがみるに、不幸にも望まれない子供を授かることはある。その生まれ出ずる命を尊び、感謝してこの世に在らしめる制度を整えることは、宗教人のみならず、人としての勤め。当学園は御仏の心を体現することを理想としている。葬式仏教が蔓延する昨今、宗教とは本来人の生と死の双方に携わるもの。なにとぞ、この喫緊の課題を各自各友、切にご検討願いたいと。

 おそらくは日本の高校としては類稀な校則のお披露目が、卒業式を目前に控えた学内総会で行われた。生徒会長の水内女史が挨拶のために壇上に立つ。女史は校則制定に至る経緯を簡単に説明した後、聴衆に向かって大きく腕を広げた。

「皆さん、制度というものは絵に描いた餅ではありません、使ってこその制度。どうぞ後輩の皆さん、大いにこの校則の恩恵に預かってください。本当なら私が一番乗りをしたかったんだけど、私の彼、避妊が上手なのよねえ」とそう言い放って、学友並びに後輩たちをどっと笑わせた。


 すでに新年度も始まり、新入生の姿が学園内の風景にも馴染み始めた四月半ば。

 部活で登校した生徒たちは、ガラスケースの中のお代理様の腕の中に、産着にくるまわれた赤ちゃんの姿を見た。心なしか、お代理様の顔がハイカラさんを卒業して、落ち着いた慈母の風貌を湛えている。

 その日、太市は新聞部の部長、早乙女美継を見舞いに近くの総合病院に足を運んだ。早乙女部長は、新学期早々に敢行した盛り場での潜入取材中に、ヤクザに絡まれた女子高生を救出しようとして足を骨折。女子高生をバイクに乗せて逃走中に転倒したのだ。

 太市が病室に入ると、カミツキガメとあだ名される怒り肩のゴツイ姉御が、脚を吊るした状態でベッドに横になっていた。が、そこはさすがに剣道部の副部長も務める猛者、横になったままブルワーカーで筋トレに励んでいる。

 それはさておき、なんと部長がピンクの花柄のパジャマを着ている。

「笑うな、無理やり妹に着せられたんだ」

 笑いを堪える太市に、ブルワーカーを脇に置いた部長が、不快な虫でも見るようにパジャマの襟を手で叩いた。

 で、本日太市が病室を訪れたのは何のためか。

 見舞いは二の次、実は特集号の号外の発行を部長に提案するためである。

 冥星新報は電子版のデイリーニュースと、年六回発行の特集号で構成され、前回の特集号は、『祝、ベイビー法』のタイトルで、春休みに入る直前に発行されている。内容は、お代理様騒動の勃発以来、年を跨ぐ形で取材を続けていた『高校生の愛と性』。毎年恒例の大特集である。もちろん太市も担当部分の記事を執筆、任務を全うしている。

 ちなみに三月に制定された新しい校則の正式名称は、『妊娠並びに出産育児と学業の両立を目指す諸般の取り決め』、通称『活き活き学内出産の約束』である。

 ベイビー法に祝福されるように、無事、お代理様も出産。これで昨年から続く騒動も一件落着、気分も新たに学内一同、新しい学期を迎えている。ところが、この新鮮な気分に棹を差すように、太市が部長に号外の発行を迫った。内容は、ベイビー法の制定にまつわる疑惑である。

 実は太市は、特集とは別枠で、お代理様の騒動を調べてきた。腑に落ちない点があったからだが、独自の取材で見えてきたのは、新しい校則制定の裏に隠されていた事実である。

 すでに記事の草稿は部長にメールで送ってある。

 部長が枕元に置いてあったノートパソコンを引き寄せ、号外の企画書を画面に呼び出す。タイトルは『お代理様騒動の真相に迫る』、発行予定は五月の連休明けとなっている。

 内容を復唱するように記事の文面に目を落とす美継部長に、太市が問い掛けた。

「どうだろう部長、ゴールデンウィークの休みボケを覚ますのに、またとない号外だと思

うんだけど」

 傅くようにじっと部長の反応を見守る太市に、部長が記事を睨みつけたまま答えない。口元を引き絞った顔は、考え込んでいるというよりも、対応に苦慮している風に見える。

 今回、太市が書き下ろした記事は、物議を醸すであろう内容、一種の暴露物である。だから部長が記事の評価を即答できないのも分かるが……。

 太市が重ねて意見を求めると、部長が重い口を開いた。

「確かに目は覚める、しかし内容がな……」

 疑問符をつけるような部長の口ぶりに、太市が声を高めた。

「事実を伝えるのが新聞の役目でしょう」


 号外を発行を提案したくなるほどのネタ、お代理様騒動の隠された事実とは何か。

 当初から太市は、今回のお代理様の妊娠騒動に、抜き難い違和感を感じていた。

 まずは突然のお代理様の素行不良である。ほとんどの生徒は、お代理様が長年の品行方正に飽きて羽目を外したのだと考えた。しかし長きに渡って続けた身の律し方が、そんな簡単に変わるものか。ハイカラ人形とはいえ、お代理様は貞淑な明治の娘。スマホの持込みや喫煙ならまだしも、性的な部分にまで一気に素行の乱れが及ぶとは考え難い。もし先の二つの規則違反の発覚なしに突然懐妊の指摘があったとしたら、どうだろう。おそらく誰も懐妊など、何を寝ぼけたことと一笑に付したに違いない。

 関連するが、人形の腹が少し膨らんでいたからといって、果たしてそこから妊娠という結論が導き出せるものか。

 お代理様が妊娠していると聞いて、太市も直ぐに保健室の前に走った。しかしあの時見た印象では、お代理様のお腹は、少し食べ過ぎた程度の微妙な膨らみでしかなかった。衣服のたるみとさして変わらない。断じて懐妊と断定できるような膨らみではなかった。

 お代理様懐妊の情報は、ツイッターを通して学内に広まった。情報の出どころは不明だが、言い出しっぺの人物は、どういう根拠で、あの膨らみを懐妊と断じたのか。もちろんその後、お代理様の体型が、妊娠としか思えない状態になったのは確かだ。しかしお代理様は変身ができる。人形から人へ、それもどんな人にも自在に。自分の姿を自由に変えられるということは、変えないことも出来るということだろう。お腹の膨らみ程度、コントロールできないはずがない。

 このことを、どう考えれば良いのか。

 お代理様の本体に触れた者は人形の霊に取り憑かれると噂されているため、誰もケースをこじ開けてまで、お代理様のお腹を確かめはしない。それに開けようとしても、ガラスケースは内側からカギが掛けられ、開けることができない。そんな状況で、あのお腹の膨らみを、人形本体の膨らみかどうか、誰がどうやって確かめたというのだ。

 冥星学園に在籍していると、怪異現象を当たり前と思うようになる。だから人形の妊娠という突飛な出来事を、皆が疑いを持たず自然に受け入れてしまったきらいがある。しかし、もしあの膨らみが人形本体の変形ではなかったとしたら、それは何を意味することになるのだろう。

 疑問が高じるなか、太市は、ある策を巡らせた。お代理様の入ったガラスケースの数カ所に、こっそりと髪の毛を貼り付けたのだ。

 そして様子を窺うこと一週間、毛が外れた。

 周囲に人のいないことを確認した上で、太市はガラスのケースを入念にチェック、そして発見した。お代理様の入ったガラスケースは、土台部分の羽根木を横にずらすと、上のケースだけがスポッと持ち上がるのだ。

 お代理様に敬意を表して、服を捲るような無粋な真似はしなかった。しかし確信を持って言える。お代理様の腹部の膨らみは、誰かが詰め物でもして膨らましているということだ。では誰が何のために……。

 そのことを考え始めたある日、太市は駅のホームで、見知った顔の女生徒三人が、並んでベンチに座っているのを目撃した。楽しそうにお喋りをしている。一人はいわずと知れた生徒会長、三年の水内早苗女史。しかし残りの二人が思い出せない。何となく気になり、部室に戻って全校生徒の載ったアルバムのページを捲る。そして心臓が高鳴る。残りの二人は、二年五組の猪俣由香と、二年一組の江坂菜知。お代理さまのせいでイエローカードとレッドカードを喰った二人だ。つまり三人とも、今回のお代理さまの妊娠騒動に大きく関わった生徒だということ。学年もクラスもバラバラの三人が、仲良くお喋りをしていた。これを出来すぎた偶然と考えて良いのか。

 予感はあった。調べると直ぐに、それは判明。三人は小学生の時から隣町の水泳教室に通う幼なじみだった。そこまで分かれば、後のことは簡単に推測が付く。

 猪俣は自分が欠席していたことを病院の診察券を見せて証明した。その病院とは江坂クリニック、江坂菜知の実家だ。子供時代からの旧知の仲なら、偽の診察券くらいは調達してもらえるだろう。カルテを偽造するわけではないのだから。

 猪俣の行動をさらえば、おそらくはこう。人に見られないように朝一番に登校すると、猪俣は、お代理様をケースから取り出し、人目につかない場所に隠した。そうしておいて、スマホをカバンに入れたまま授業に出席、示し合わせた誰かから、授業中の自分に電話をかけてもらう。もちろんその時のスマホは、普段使っているものと別のものだ。そして翌日、病欠明けの振りをして登校、スマホの件で驚き、イエローカードの犯人を、お代理様に違いないと先生に申し立てる。

 次は江坂菜知。彼女も猪俣の場合と同じく、お代理様をケースから取り出し、お出ましの状態を装った上で、ワザと喫煙のレッドカードを受ける。猪俣のケースと違って難しいのは、自身が欠席していたことを、どう証明するかだ。

 高校生でありながらモデルの仕事をしている江坂は、学校を休んだ理由を予定外の撮影が入ったためと説明している。将来芸能界に進むと公言している江坂が、学業よりも仕事を優先するのは当たり前で、実際、江坂は学校を欠席、撮影に専念していた。担任がスタジオに問い合わせたので間違いない。では誰が江坂に成り替わって煙草を吸ったか。

 実は、江坂には双子と見間違うほどそっくりの従妹がいた。

 こういうことだ。江坂はその日、従妹に身代りを頼んでスタジオに入った。学校に登校したのは従妹である。ただいくら顔や体型が似ている従妹とはいえ、右も左も分からない学校で、見知らぬ級友と話を交わせば、正体は直ぐにバレてしまう。ところがその心配はなかった。例の冥星学園独自の校則である。月に一度授業に出ないで済む制度、これを利用すれば、クラスの面々と顔を会わせなくても済む。そしてタバコを吸ってレッドカードを出してもらい、それを翌日登校した江坂本人が、お代理様の仕業ですと言い訳する。

 いったい猪俣と江坂は、何のために、こんな手間のかかる芝居をしたのだろう。

 考え得ることは只一つ、お代理さまの品行方正のイメージを覆すことだ。

 この二人の狂言を伏線として、ひと月後、こっそりとケースの中のお代理様を取り出し、腹を脹らませたうえで元に戻す。そして、「すわ、妊娠か!」と噂を流布する。後は、お代理様のお腹を少しずつ膨らませ、妊娠問題への関心を高めていけば準備万端。成り行きを見計らった上で、真打ち、生徒会長の水内の登場である。

 女史による『ベイビー法』の問題提起で幸いだったのは、話題の発端が人形の妊娠だったことだ。これがもし本物の女生徒の妊娠がきっかけとなって議論が巻き起こっていたとしたらどうか。今の日本では、まだまだ高校生の妊娠は好奇の目に曝される。当事者として議論にも巻き込まれるし、風紀を取り正したがる人たちの攻撃の矢面にも立たされる。近所に嫌な噂が広がることもあるだろう。それが、妊娠したのが人形だったことで、全くといって良いほど興味本位の波風が立たなかった。

 議論は冷静かつ順当すぎるほどの速さで進んだ。まるで最初から筋書きでもあったかのように……。

 そこまでの流れを辿って言えるのは、今回のお代理様の妊娠に端を発する騒動が、最初から仕組まれたものだったのではということだ。そう考えれば全て納得がいく。

 では誰がこの計略を仕組んだのか。校規の制定に迅速だった総長の関与も考えられるが、学校側が積極的にこの手の規則を制定するとは考え難い。推測するに、策士と目される生徒会長の水内の仕業ではないか。なぜなら、水内は一年生で代議員に立候補した当初から、この問題を自身の公約に掲げていたからだ。

 おそらくは卒業して学園を去る前に、彼女は何としても自分の公約を実現したかった。そして策を練った。腐心したのは議論が建設的に進む土壌をどう作るか、問題提起のきっかけをどう演出するかだろう。人は事態が切迫しないと、なかなか本気で議論を進めないものだ。しかし、だからと言って実際に生徒が妊娠するのを待っている訳にもいかない。それに先にも言ったように、本当に生徒が妊娠したら、逆に、冷静に議論の出来ない可能性が高い。考えた末に彼女が練り上げたのが、今回の計画である。

 入念な準備の上、旧知の仲間を誘って一芝居打つ。もちろん学園トップの総長を含め、学校側にも根回しを行い了解を取った上でだ。

 

 自分の掴んだ特ダネのどこに問題があるとばかりに、太市が部長を見返した。

 その視線を正面で受け止めると、部長が言下に断じた。

「推測の部分が多すぎる。プライバシーの問題が関わってくる以上、関係者全員の行動に裏が取れない限り、部として公表することはできない。特ダネ以前の問題だ」

 なんと、ばっさり切り捨て御免。

 太市としては、部長からそれなりの評価をもらえるものと踏んでいた。それがこれでは門前払いではないか。しかし貴重な睡眠時間を削ってまで情報集めに奔走、掴み取ったネタだ。はいそうですかと頷けるはずもない。予想外の展開にエアポケットに落ち込んだ頭をブルッと振ると、太市は憮然とした表情で言い返した。

「三人とも、こちらからの質問状を無視、取材を受け付けないんだから仕方ないでしょ。でもこの件は限りなく黒。学園は運命共同体で、ほかの生徒の知る権利を考えれば、当人たちの了承がなくとも、この情報は報道に値すると思います」

 全てに裏が取れていないのは承知している。だからこそ『真相に迫る』というタイトルにしたのだ。それに完璧な真実など、この世にはない。伝えることに意味があるなら、それは迅速に報道すべき。そう考えての号外だ。

 一歩も引かぬ構えの太市に、部長が髪をパシッと後ろに払った。

「じゃあ聞く、もし推測が間違っていた場合は、どう責任を取る」

 ドスの効いた声に、「それは……」と一瞬太市が怯む。

 スキを突くように部長が畳みかけた。

「この記事は、猪俣・江坂の両人が校則違反を犯したと断定している。しかし、たとえ限りなくクロであろうが、学校や団体といった公ではなく、対象が個人の場合は、百パーセントの確証がない限り公表はできない。尊重すべきは個人の人権、ダメなものはダメだ」

 頭ごなしの否定である。しかしこれで太市も開き直った。

「分かったよ部長。なら連中がやった手を使わせてもらう。噂を流す。コレだけ状況証拠が揃ってるんだ。後は放っておいても、皆が三人から事実を引き出してくれるさ」

 いつもなら腰砕けで意見を引っ込める太市が、顔を赤らめ突っ撥ねる。

 その助っ人部員の思わぬ強弁に、部長がイラつくように髪を掻き回した。

「あのな、私が言いたいのは、取れていない裏の向こうに、大切な事実が残されている可能性があるということだ、分からないか」

「これ以上の真実がどこに……」

 言い返しつつ、太市はオヤッと眉を潜めた。

 武道家でもある美継部長は、絶対に相手よりも先に視線を外すことはない。常在戦場、何をやるにも真剣勝負。その部長が太市から視線を逸らせたのに気づいたのだ。

 その瞬間、太市の背に僅かではあるが電流が走った。もしかして、と思ったのだ。

 今回の取材で太市が唯一引っ掛かった点があるとすれば、それは生徒会長の水元が、こちらの問いかけを無視したことだ。水元が学内で圧倒的な支持を集めてきたのは、彼女の弁舌の上手さや実行力と共に、彼女の人間味を皆が信頼しているからだ。敵対する相手を論破する時でも、彼女は絶対に相手の逃げ道を塞がない。つねに人に対する気遣いを忘れない包容力を持ち合わせているのだ。政治というものが、人を惹きつけ味方を増やす競争だとすれば、彼女はその達人だった。その若くして練達の域に達した彼女が、質問にゼロ回答というのが解せなかった。いつもの女史なら、切り返しのジョークの一つや二つ、投げて寄こすのが当たり前。

 制定されて分かったのは、ベイビー法が、わが校生徒の誰もが誇りに思える自慢の校則だということだ。たとえその実現に多少の裏工作が行われていたとして、誰もそれを咎めたりはしない。笑って実はこうだったのと裏話を披露しても、大丈夫なはずなのに……。

 片棒を担がせた級友の立場を慮って、シラを切っているのだろうか。きっとそうに違いないと、生徒会長の連れない態度を自分に納得させてきたが……。

 先ほどまでとは打って変わって、太市が控えめな調子で部長に伺いを立てた。

「部長、それって、僕が気づいてない事があるってこと?」

 しばし無言で眉の付け根を叩いていた部長が、溜め息と共に口を開いた。

「私が思うに、君が今回の件に気づいたことの方が、よほど事件だよ」

「それってどういうことですか」

 思わず太市が声を尖らせる。そのムッとした顔の太市を視線の端に置くと、部長は手にしたブルワーカーを気合一発左右から押し縮めた。とても女性とは思えない強力である。

 二度ほど怒りをぶちまけるように腕を動かすと、部長が正面から太市を見据えた。

「私の話を聞いて納得したら、噂を流すのを止めると約束するな」

 重しの乗せた部長の声に、むろんと太市も背筋を伸ばす。

 それを見て、ようやく部長も腹が決まったのだろう、重い棺の蓋でも開けるように、そのことを話し始めた。やがて太市が瞬きを忘れたように目を見開く。それは太市が全く掴んでいなかった、今回のお代理様を巡る騒動の紛れもない真相だった。


 太市は、妊娠騒動を画策した人物として、生徒会長を含め女生徒三人を取り上げた。しかし実際にはもっと多数の女生徒が……、否、今回の計画には、全校の女子並びに卒業生の一部、更には複数の女性教諭までが関わっていた。

 猪俣美香のスマホに電話を入れたのは、その日法事を理由に学校を欠席した後輩の女子であり、江坂菜知のいとこが学内でまごつかないよう案内役を務めたのは、同じ日に自主休講を申し入れた三年の某女子。そして、お代理様が妊娠したように見せかけるべく人形に細工を施したのは、美術部の顧問の女性教諭で、部員の女性徒たちも助手を買って出ている。

 そういった個別の役割を果たした人物もさることながら、学内の女生徒全員の参加による懐妊騒動の盛り上がりこそが、今回の計画の一番のポイントだった。学長を始めとする学園首脳部が、あれだけ迅速かつ積極的に新しい校規の制定に動いたのは、現役の女生徒全員の署名嘆願書が提出されたからこそだった。

 長きに渡り望まない妊娠によって女生徒はいつも犠牲を払わされてきた。その現状を変えようと必死になって皆が動いた。もちろん女生徒全員をまとめ、学校側を交渉のテーブルに引き出した水元女史の統率力も賞賛に値する。しかし女史の交渉を支えたのは、つまるところ全女生徒という後ろ盾以外の何ものでもない。

 今回の計画では、男子生徒ならびに一般の男性教諭は、完全にカヤの外に置かれた。この問題に関して、女性陣は徹頭徹尾、男性側を信用してなかったということだ。

 信じられないとばかりに首を振る太市に、本題はこれからと部長が指を立てた。

「まだある、今回の計画が練られた切っ掛けとなる本当の理由がな」

 今回の騒動、女生徒のアイドルであるお代理さまの評判を貶めてまで、皆が必死になって、新しい校則を学校側に制定させたいと願わしめた理由があったのだ。

 ある女生徒が、昨年の秋口に病気療養の名目で休学した。

 生来心臓が弱く二十代半ばまで生きられればいいという病弱の女子である。その彼女が、ある人を好きになり身籠ってしまった。普通なら皆で祝福してあげる場面だが、その相手というのが実は当学園の教諭。いくら先進的で懐の広い冥星学園でも、教員と生徒、それも未成年の生徒との性的な関係を認めることは有り得ない。

 妊娠した彼女が相談を持ちかけたのが、生徒会長の水元だった。

 生徒会長も含め数人で対応が練られた。彼女は病気によって二年遅れて入学している。そのため現在十七歳。婚姻を結ぶこと自体は、法的に問題ない。

 彼女の希望は、子供を生み、かつ学校を退学せずに卒業し終えることだ。そして卒業した段階で正式に結婚する。

 子供の父親となる相手の教諭は、直ぐにでも結婚していいと、辞職も覚悟で事態を受け留めてくれている。しかし彼女は、結婚するのは卒業後にして欲しいと、その点に関しては頑と譲らない。卒業するまで二人の関係を伏せることが、相手の教諭に迷惑を掛けず、かつ自分も学業を全うしうる最善の方法と考えているのだ。そのために子供が生まれても当面は私生児として育てるつもりで、その覚悟はできていると、彼女は毅然とした口調で言い切った。

 彼女が命のリスクを犯しても子供を生みたいと考えるのは、自身の子供に恵まれるチャンスが、あと何回もないだろうと自覚しているからだ。また学業を続けることに拘るのも、肉体の不備を克服しつつ苦労してようやく入学したからである。

 周りからみれば欲張りに見えるかもしれないが、彼女の人生は限られている。その中で出来るだけのことをしたいと、彼女は願っている。

 生徒会長の水元を始め、相談に乗った友人たちも、彼女の考えを理解した。

 そして、どこまでやれるか分からないが、学業を続けながら、子供を生み、かつ子育てもできるような新しい仕組みを学内に作ってもらえるよう、学園側に働きかけてみると約束した。それが結果として女生徒全員を巻き込む形での行動となった。これが今回のお代理様騒動の真の筋書きである。

 

 話を聞き終え、太市は声が出なかった。自分を含め、男子生徒がつんぼ桟敷に置かれていたことに多少の憤りを感じないこともなかったが、やはりこの問題に関する男子と女子の意識の深さの違いを思い知らされた感がする。

 何を言っていいか分からない。今自分が言えることと言いえば……。

「どう、その彼女、無事出産できそうなの」

 気遣うような太市の問いかけに、部長が強面の顔を緩めた。

「昨日生まれたよ。母子ともに無事。二千グラムを切る未熟児なので、いま新生児用の集中治療室に入っている」

 言って部長が視線を窓の外、対面の病棟に向ける。

 それを見て太市がまさかと目を丸くした。

「え、なに、この病院なの」

「東館六階、産科の病棟だ。入院前の検診で病院を訪れた際に、風船のようなおなかで私を見舞いに来てくれた。無事に産まれてくれて心底ほっとしている」

 母子のいる産科病棟を眺める部長の顔が、初めて女性らしい柔和な笑み浮かべた。

 部長の視線が病棟から、病院の正門に移る。

「あれを」と、部長がエラの張った顎を振った。

 病院の門を抜けて若い女性が三人、東館に向かっている。

 一人は卒業した生徒会長の水元。手に花束を抱えている。後ろの二人は猪俣と江坂。きっと彼女の出産を祝うためにやってきたのだ。遠くから見ても笑顔が顔に溢れている。出産は女にとっての戦争、そんな言い回しが昔からなされてきた。その勝利を祝う笑顔だ。

 男としての一抹の寂しさを払うように、太市は立ち上がって窓を開けた。

 春本番の穏やかな風が病室に流れこむ。その春咲きの花々の甘い蜜の匂いを含んだ風に乗って、産科病棟からだろう赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。


 読んで下さった方へ。本当にありがとう。十一話で区切りとしましたが、本連作は基本的に一話ずつ独立して読める形で、書き下ろしています。いずれまた、新しいエピソードを重ねていきたいと考えていますので、ご縁がありましたら、どうぞ。なお近々、旧作の掲載を予定しています。タイトルは『星草物語』。ジャンルはSF色の強いハイファンタジー。資源エネルギー問題をテーマに据えたロードムービーのような旅物語です。七月末頃から掲載を始め、日掲で半年かけて年内に完結。娯楽性の乏しい地味で暗くて長~いお話ですが、忍耐力に溢れ、暇を持て余している方、よろしければお付き合いください。

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