始めは、確かこんな感じ
__それはほんの気まぐれだった
その日はとてもとても暇で退屈で
元々"退屈"が嫌いな俺は何か面白いものは無いものか、と辺りを漂っていた
そんなフラフラと辺りを見回す俺の耳に聞こえてきたのは、ある夫婦の声だった
まだ出来たばかりなのだろう
そんなにまだ膨らんでいない母親らしき女のお腹を、父親らしき男がキラキラした目で眺め、優しくさすり何か語りかけている
そんな父親らしき男と自分のお腹を愛おしそうに見つめ、幸せそうに微笑んでいる女
俺は目が覚めた時既に宙を漂っていたから、"母親"や"父親"がどんなものかよく分からない
知識として知ってはいるが、ただそれだけだ
それ以上のことは知らない
それがなんだか、むかついた
その時、唐突に思いついた
『知らないのなら、
知るためにこの夫婦を観察すればいい』
この時俺がこの夫婦を見つけなければ
何かまた違った結末になったのだろうか
まぁ、今となっては詮無きこと
考えても仕方ない
どうせ今更、何も変わらないのだ
それならばただ今は、
あの夫婦を その子供たちを 懐かしもう
そう、これは
ほんの気まぐれで起こした俺の行動のせいで
本来人に見えるはずのない俺のことを
見えるようになってしまった
双子の子供と、何も見えない子供の母親の物語
「おや、そこの人 今暇かい?
……へぇ、なら是非とも聞いていっとくれよ
なぁに、ちょっとした昔話さ
そんなに時間は取らせないよ?
…え? どんな話かって? そうだなぁ……
誰かにとっては一瞬で、
誰かにとっては永遠の
__そんな、
そんな愛おしくも、哀しき物語り、かな__」