要塞の弱点-6 (諏訪子、早苗)
舞台
守矢神社…妖怪の山にある神社。
登場人物
東風谷早苗…守矢神社の巫女。
洩矢諏訪子…守矢神社の神。
すやすや眠る諏訪子のそばを、はたきを持った早苗が通りかかった。
「……こうやって見てると、諏訪子様、なんだか、子供みたいですね。」
枕に顔を半分埋めて、規則正しい寝息を立てる諏訪子。
その横顔を眺めていたら、ふと袖が光っているのに気づいた。
「……?」
つついてみると、固い感触。
「……なんだろう?」
「……んぅ……」
諏訪子が身じろぎすると、袖がすっと視界から出ていった。
早苗は目で追う。
袖は顔の真ん中に当てられると、ぐしぐしと鼻水を拭いた。
「……あぅ……」
「……なるほど。そうだったんですね」
ベタッと鼻水が付いた袖のむこうで、諏訪子が瞬きをする。
覗き込む早苗と、至近距離で目が合った。
「さなえ?」
「あれ、起こすつもりはありませんでしたけど」
諏訪子は、早苗から目を外してキョロキョロする。
「諏訪子様、お着替えしましょう?」
「……いいよ、はいじょうう」
「でも、袖が。」
「……そで?」
諏訪子は早苗の袖に目をやる。
いつも通り、肩と脇が出しっぱなしだ。
「だから袖ですよー。」
諏訪子は不思議そうに自分の袖に目をやった。
てかてか光っている。
「……あれ」
「鼻水乾いちゃったんですね。頬にも光ってますよ。」
「……むぅ」
早苗は、鼻紙で諏訪子の頬を拭く。意外とこびりついて取れない。
取れてないけど、また鼻水がたらーっとなる感触。
「……わぅ……はぅ……」
「鼻かみます?」
「……うん」
ずびー。
差し出された鼻紙を押し当てる。
ちょっと回りに垂れちゃったぶんは、袖で拭こうとして――
――白い紙が割り込んだ。
「汚いから、袖で拭かないでくださいね。諏訪子様。
優しく諭す声。思わず頷いてしまう。
「うん」
早苗は、さっきの鼻紙を諏訪子の手から取って言う。
「まだ黄色いですね。そのうち治りますよ」
「……」
「あ、そうだ、寝起きだからなにか飲みますか?持ってきますね、ゆっくりしててください。」
そう言って早苗の緑の髪が縁側に去る。
それを見送りながら諏訪子はふと思った。
別に、神力を使えば、このぐらいの風邪は、すぐ治せる。
でも、早苗がこんなに頑張って看病してくれてるし、なんか、このまま回復するのを待っててもいいかな。
神力勿体ないし。大事だもん。早苗だって、看病しようとしてるから、少しぐらい早苗に甘えて過ごしても、バチは当たらないもん。うん。正当。
そう思ったら、しばらくは早苗にこうやって、看病されるのもいいな、と思って。
えへへ。ふふ、へへへ。
ちょっと垂れ始めた鼻水を袖で拭こうとする。
固いざらざらな表面が鼻の下に当たって、擦れて痛い。
そういえばさっき、早苗がなんか言ってたなぁ。
――鼻水乾いちゃったんですね――
「……あぇ?きはえは?」
着替えだけじゃなく、頬の鼻水もそのままだ。
「……」
……相変わらず気の利かない早苗である。