要塞の弱点-5 (諏訪子、早苗)
舞台
守矢神社…妖怪の山にある神社。風神録の舞台。
登場人物
東風谷早苗…守矢神社の巫女。ゆとり世代。一生懸命。
洩矢諏訪子…蛙のような帽子が可愛い、守矢神社の神。神力はそれなりに高いはず。
――諏訪子様、諏訪子様、起きてください。
「んぁ……」
洩矢諏訪子は、揺り起こされて目を開けた。
ちょっとのどが痛い。微妙に鼻声。鼻水が出てるみたい。
垂れてきた鼻水を袖でごしごしして、顔をあげる。
「えと……」
「諏訪子様、体調崩されましたか?」
鋭い早苗に、諏訪子は動揺する。
「……ばんでわはぅの?」
「見ればわかりますよ。もう昼ですし。」
「……え」
驚く諏訪子をよそに、早苗は部屋を出ていって、すぐ戻ってきた。
「ちり紙お使いください。」
「……あいはとう」
ずびー。
まっ黄色な鼻水が出た。
「うわぁ……」
「風邪引くとそういう鼻水になることもありますよ。心配しないでください。」
諏訪子から受け取った鼻紙をゴミ箱に落としながら、早苗が言う。
「暖かくしてくださいね。いまなにか食べるもの持ってきますから。」
早苗はそう言うと、立ち去った。
「……」
部屋にポツンと一人残された。
「……はいじょううらもん。」
呟いてみるけど、濁点がうまく言えない。
小さな吐息はどこかへ吸われていった。
「諏訪子様、うどんでよかったですか?」
「うん」
早苗がお盆を手に部屋に入ってくる。
「早くよくなって貰えると嬉しいので、卵で閉じてみました。」
「ありはとう。」
文机を布団の横に置いて、そこにお盆を置いてくれる。
「いたはきます」
諏訪子は箸を取ると、両手を合わせた。
立ち上る湯気が暖かい。
香りとかはよくわからないし、味もイマイチわからないけど、美味しい。
白いうどんと黄色い卵が、醤油の味で柔らかく入ってくる。
暖かいのが、口から、喉から、お腹の中にするっと入ってきて、体だけじゃなくて、心も温かく弾む。
箸がうどんに吸い寄せられるように鉢に戻っていく。また口にいれる。
気がついたら、夢中で食べている自分がいて、びっくりする。
昨日ご飯あんまり食べてなかったからかな。
もぐもぐ。
ふと鼻に違和感。
暖かい湯気が刺激して鼻水が出てきたみたい。気にせず食べようと思ってすする。
それでもちょっと垂れてるのは、袖で拭く。
やっぱりおいしい。
しかも、たっぷり作ってくれて、満腹になるまで食べて、食べきった。
空になったうどんのどんぶりの分、自分が温かくなったんだなあ。
そう思いながら、諏訪子は箸を置いた。
「あいはと。」
「いえいえ、諏訪子様のためなので。心配しないでくださいね。」
早苗は手早く食器を片付けて文机をどかした。
暖かいのをたっぷり食べたからか、ちょっと眠くなってきた。
「ふわぁ……」
思わずあくびが出た。
「諏訪子様、もう少し寝てますか?」
「うん。」
「お皿、お下げしますね。」
早苗が部屋を出ていくのをぼんやり眺めながら、諏訪子は布団に横になる。
「そんばわうくばるとおもわなかったはぁ」
でも。
なんか嬉しいかも。
そんなことを思って、思わず頬が緩む。
また垂れてきた鼻水を袖でごしごし拭うと、諏訪子はころっと寝返りをうった。