要塞の弱点-4 (諏訪子、早苗)
舞台
守矢神社…妖怪の山の山頂に、湖ごと外界から移ってきた神社。
登場人物
東風谷早苗…守矢神社の巫女。ゆとり世代。一応現人神でもある。
洩矢諏訪子…幼き外見や蛙を彷彿とさせる帽子が可愛いが、守矢神社の神。
八坂神奈子…守矢神社の神。尊大な態度故に多くの信仰を集めている。
「食欲ないなぁ……秋終わったからかなぁ……」
洩矢諏訪子―守矢神社の幼い方の神―は、箸を置いた。
お腹はすいてるのに、食べる気がしない。
「あれ、諏訪子様、もういいですか?」
東風谷早苗―守矢神社の緑色の巫女―が諏訪子の顔を覗き込む。
諏訪子はひらひらと手を動かして早苗の視線を遮った。
「うん。お腹すいてない訳じゃないけど、心配ないから。」
トレードマークの目付き帽子(生き物だよ!)を被ると、席を立った。そのまま縁側から空中に出る。
「人里で神奈子と交代してくるね。またあとで。」
「あ、はい。お気をつけて。」
早苗が手を振って見送り、諏訪子はひょいと飛び上がった。
『ケロちゃんや、あまり無理をするでないぞ。』
帽子が、飛ぶ諏訪子の脳内に語りかける。
『大丈夫だってば。このぐらいの体調不良、神力で一発だもん。』
諏訪子もテレパシーで返す。
『左様、だが、其れをすぐにはせぬのには理由があるのだろう?』
『……』
『……ケロちゃんがずっと小さい頃から見ているワシには、全てお見通しというものじゃ。』
『……余計なお世話だもん……』
諏訪子は口を尖らせた。
帽子は話し続ける。
『神社のため、早苗のため、神奈子のため、幻想郷のため、今は貴重な神力を、無闇に使いたくないんじゃろ。』
『……なんで分かるの?』
『何度も言ってるじゃろ、ケロちゃんがちっちゃかった頃から見てるんじゃ。』
『……ケロちゃんて呼ばないでよ』
『それはできない相談だの。』
『……』
『好きにするがよい。本当に倒れてもまさか病気ごときにやられるまいて。ほほ。』
諏訪子は帽子を無視することに決めて、人里の門を潜った。
「諏訪子の様子が?へぇ、珍しいこともあるもんだねぇ。」
諏訪子と交代して守矢神社に戻ってきた八坂神奈子―守矢の守護神―は、遅めの昼食を食べながら、興味なさげに言った。
「諏訪子様がご飯を残されるなんて、珍しいことです。そう思われませんか?」
早苗は畳み掛ける。身を乗り出さんばかりに主張するが、神奈子はいつも通りの口調のまま。
「諏訪子は大丈夫だ。心配するな。」
「でも。」
「諏訪子はそんなに弱い子じゃない。早苗も知っているように、な。」
「……はい。」
きっぱりと言われると、早苗は引き下がるしかなかった。
年始の厄除け祈願も終わった睦月中旬は、人里に建てた守矢神社の副社務所を訪れる人も少ない。
諏訪子は、人里の子供たちや妖精たちとあや取りをしながら、いつ来るとも知れない参拝客を待っている。
「かなこさまはきびしいから、すわこさまのほうがいいよね。」
「ねー」「ね~」
「そんなこというとおこるよー」
「すわこさまおこらないもん」
「ないしょね、ないしょ!」
「いったらめっ!」
三歳ぐらいの幼子に指を突きつけられながら、ふと諏訪子は思った。
大分懐かれているけど、神奈子ほど尊敬されてないんじゃないか。
「言わないよ、そんなこと。はい約束、指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます」
「あい!」
幼子の指はちょっとしっとりしていた。まだ指しゃぶりが消えない子かな、と思いつつ、諏訪子はあや取りを指に絡めた。
「あ、かめつくってー」
「かえるさん!かえぅさんがいい!」
「ぼく、ほうきつくれるよ。かして!」
「え、かえるさんじゃなきゃやだ!」
「ふたりあやとりやろ!」
あやとりに目を輝かせて群がった子供たちの真ん中に座ると、諏訪子は見回して言った。
「順番にやろっか。喧嘩しないでね?」
「あい!」
諏訪子はまたあや取りをしながら、思った。
やっぱり神奈子みたいなカリスマが足りないみたいだけど……どうしたらいいのかな?