永遠の違和感-3 (文、優曇華、三月精)
舞台
永遠亭…迷いの竹林にある屋敷。永琳、輝夜が寝込んでいる。
人物
文…新聞屋。記事の裏付けのなさに定評がある。
鈴仙・優曇華院・イナバ…月のウサギ。永遠亭の薬師見習い。
サニーミルク…妖精。活発な性格。イタズラ好き。
ルナチャイルド…妖精。クールだけどドジっ娘。
スターサファイア…妖精。イタズラ好きだけど飽きっぽい。
今日の空は雪模様だ。朝から雪が降る。
そんな中、視界の悪さをものともせず飛ぶ少女が一人。
「永遠亭、突撃取材!目指せ発行部数、大躍進!」
文々。新聞を発行する天狗、射命丸文は、昨日耳にした妙な噂を確かめに、永遠亭を目指している。
「まあ、……わざわざこんなに天気の悪い日に出向かなくても、良いんだけどね……」
普段の取材が、弾幕を掻い潜ってのことが多いので、雪ぐらいは気にならない。
それでも、身体が大事な新聞屋にとって、風邪は怖い。
……でも、スクープは鮮度が命ね。
文は更に、ぐん、と加速した。幻想郷最速の称号は伊達じゃない。
永遠亭上空にたどり着いた文は、ふっと肩の雪を払った。
さて、中に入ろうかしら。どこから――
何か嫌な予感がして、文はその場から飛び退く。
一瞬前まで文がいた空間を、弾丸が切り裂いた。
「取材ならお断りよ。お師匠様は今は応対できないわ。帰りなさい。」
「これはこれは。うどんげさん。親切な応対ありがとうございます。」
屋敷から飛び出してきた鈴仙・優曇華院・イナバに対し、頭上から慇懃な礼をする文。
そして地上に降り立つと、屋敷をビシッと指差して宣言した。
「ふん!永遠亭、診療休止!これは一大事件!必ずやその秘密、調べあげて見せる!」
「何が調べあげる、よ。捏造でしょう。スペルカード、『幻朧月睨』!」
「幻想郷最速に弾丸なんて遅いねぇ!」
永遠亭上空に派手な弾幕が展開される。
スペルカードの激しい応酬。
弾丸を利用した高速弾幕に対し、自身の素早さで互角に戦う文。攻めきれないのも事実だが、いい勝負だ。
たまたま通りがかった妖精が時おり観戦し、時には横入りしては去っていく。
「小賢しいわね。諦めて帰りなさい!」
「ずいぶんと厳しい取材拒否ですね。大金でも隠し持ってるのですか?」
軽口を叩き合いながら、二人は弾幕を打ち合う。
「きゃっ!」
通りかかったルナチャイルド―音を消す程度の能力をもつ妖精―が被弾した。
「やったわね!参戦よ!」
「えいえいおー!」
ルナチャイルドの親友、サニーミルクとスターサファイアが参戦する。
弾丸ばかりだった弾幕を“同じ”方向に、大きな球やレーザーが飛んでいく。
「あややややー、これは大変ですねー。」
実は被弾した玉は優曇華の弾だが、そのあたりはあまり気にしていない。
要は楽しければいいのだ。
約5分後。
文の姿は既に消えていた。帰って記事を書き始めたのだ。
三月精たちも消えていた。飽きただけ。
優曇華は、大きくため息をつくと、永遠亭の中に戻る。
マスクを着けようとして箱に手を伸ばす。
指先が空を切った。
「……ん?」
そこにあるはずの『消毒済』の箱がない。
優曇華は、自身の能力―波長を操る程度の能力―を発動し、周囲を観察する。
部屋の隅に、オレンジがかった金髪が見えた。
つかつかと歩み寄ると、その金髪を握り、ぐっと引っ張る。
「きゃーみうかったー」
「少しは反省しなさい」
ツーサイドアップの髪の毛で吊り下げられたサニーミルクをぶらぶらさせながら、周囲を更に観察する。
障子に映った影が転んだ。音はしていない。
「……」
障子を開けると、側頭部を押さえるルナチャイルド。
「ルナ、みーつけた!」
「サニー、やっぱり無理があるってば」
「え~?」
「能力が効かないじゃん。ほら」
優曇華は、なんだか頭が痛くなってきた。
サニーミルクの能力「光を操る程度の能力」と、ルナチャイルドの「音を消す程度の能力」は、優曇華にはすぐに見破れる。この妖精たちもわかってやっているのだ。
「……隠したものを返しなさい」
「え~」「え~」
「散符『真実の月』」
「きゃー」「きゃー」
悪びれる様子のない妖精たちに至近距離で弾幕を当てると、優曇華は、ため息をついた。
縁側で湯飲みを傾けるスターサファイアと目があった。
「……えへへ」
「……あなたも早く出ていきなさい。」
「はーい」
三匹の妖精は、縁側から飛び立った。
優曇華は、またため息を吐くと、障子を閉めた。
マスクを探さねば。