永遠の違和感-2 (慧音、てゐ)
舞台 永遠亭…迷いの竹林にある屋敷。
登場人物
妹紅…不死の薬を飲んだ貴族。本来は人里に住んでいる。
慧音…人里に住むハクタク。寺子屋の先生。
てゐ…永遠亭に住み着いたウサギ。イタズラ好き。
上白沢慧音―人里の守護者―は、迷いの竹林に足を向けた。
日はすでに傾いて、夕闇迫る中、竹林を歩く。雪が冷たい。
「……妹紅はどこをほっつき歩いてるんだろうな。」
もう四日も帰ってきていない。帰ってこないことは珍しくないが、こんなに長い間呼びにいかなかったのは久しぶりである。
「……とはいえ、寺子屋も年の暮れは忙しかったし……」
迷いの竹林を迷いなく抜けて、永遠亭にたどり着いた。
「月の賢者あるいは月の姫、妹紅を見ていないか?」
戸を叩いて声をかけたが、返答がない。
「……?」
慧音は、一瞬ためらったが、思いきって引き戸を開けた。
廊下に突っ伏すウサギと目があった。
因幡てゐ。永遠亭に住み着くウサギの妖怪(神か?)である。
「……ゲホゲホ、何の用?ゲホゲホ」
「……因幡の白兎。どうして廊下に臥せってるんだ」
「ゲホゲホ、風邪引いたのにうどんに追い出された。」
「いつものイタズラのせいだな。自業自得だ。」
「うぅ……厳しい……」
「寺子屋の先生を舐めるなよ?」
てゐは、がっくりとうつ伏せになった。
「それでだ。妹紅は居ないか?」
「……奥で熱出して寝てるよ……ゲホゲホ」
「そうか。世話になった。」
慧音はそれだけ言うと、奥に入っていった。
「……やっぱり、助けてもらえないか……」
全身の力を抜いた。床の冷たさが気持ちいい。頭が重い。眠い。寒気もする。
「……うぅ」
てゐの目がゆっくりと閉じた。
普段、幻想郷の病院としても機能している永遠亭。診療室として使われている部屋の障子を開けると、中には鈴仙が居た。マスクに白衣の完全防御体制をとっている。
「ウドンゲ、妹紅は居るか?」
「今は奥の部屋で寝ていますが、体調がかなり悪そうです。あと、お師匠様のお体にも異変があるので、気を付けてください。」
鈴仙は一気にそう言うと、『消毒』とあるビンから液体をとり、うがいを始めた。
慧音は『消毒済』の箱からマスクを一枚取り、部屋から出ながら背後の鈴仙に呼び掛けた。
長いウサ耳が、ぴっと慧音に向く。
「ありがとう。妹紅は連れて帰る。それから、てゐも連れて帰るから、輝夜と永琳によろしく頼んだ。」
「え?」
障子がすっと閉じた。
「……消毒薬渡した方がいい……?」
障子の人影は既に消えていた。
……知らない天井だ……
てゐはだるい体をぐっと起こした。冷たい空気がふっと布団に流れ込む。
布団に寝かされている。服は……いつものではなく、ニンジン柄のパジャマだ。
汗をかいたのか、背中がじっとり冷たい。手足もなんだか重くて、鉛になったようだ。
なんだかめまいがしてきて、てゐは再び布団に倒れ込んだ。
「……」
枕元に置かれたコップが目についた。
手を伸ばそうとするけど、腕が重くて、届かない。
「いつもだったらイタズラなんかしてるのに……げほげほ」
ガサガサな声だ。なんだか悲しくなってくる。
意を決して手を伸ばしたら、なにか薄いものに触れた。
「……?」
メモ書き、だろうか。目の前に持ってきてみる。
――安静にするように。何かあったら玄関の横の部屋に居るから聞きに来ること。慧音――
「……なんだ、ゲホゲホ……いいやつじゃねえか……」
確かに、耳を澄ますと、子供の声がたくさん聞こえる。
てゐは、コップの水を飲み干そうとして半分布団にこぼし、また倒れ込んで目を閉じた。