表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/24

普通の魔法使い-1 (霊夢、魔理沙)

舞台

博麗神社…幻想郷の端に建つ神社。


人物

霊夢…博麗神社の巫女。勘が鋭い。

魔理沙…普通の魔法使い。魔法の森に家を持っている。


博麗神社の社殿の引き戸が勢いよく開け放たれる。

部屋の中へ冷たい風が吹き込んだ。


「……」


引き戸が音を立てて閉まった。






たっぷり二時間後、再び引き戸が開く。

博麗霊夢(はくれいれいむ)―博麗神社の巫女―は、しぶしぶ箒を取って庭に出た。


「いくら立春過ぎたって、寒いったらありゃしないわ」


ぶつくさ文句をいいながら、庭を掃く。とはいえ、冬真っ盛り―ここ数日は和らいできたが―の庭に落ち葉などなく、その点は冬に感謝しなくてはいけない、などと考えながら、箒を動かす。


流石、何年も毎日やっているだけあって、体に染み付いた掃除の所作は無駄がない。

庭をくまなく掃き清めると、集めた落ち葉や小枝―今日は小枝しかないわね―を鎮守の森に掃き出す方に移る。


と、そのとき、視界の端にもう一本箒が入った。

「魔理沙かしら?」

霊夢は、お茶の葉残りを気にしながら掃き掃除を再開した。



上空。

案の定、箒に跨がった魔法少女がホバリングしている。

少女は、箒を縁側の方に向けて、振り向かない巫女に対して口だけで呟く。


「霊夢は気づいてないけど、今日も来たぜ――




「危ない!」





霊夢の叫びが響くのと、魔理沙の意識が途絶えるのと、どちらが早かっただろうか。


博麗の勘に間違いはない。

霊夢は考える前に身を翻し、重力に従う魔理沙を視界に納める。



この距離なら――


考えない。


――踏み込みを入れたステップ。


二歩で落下点に入る。

傍目にはワープしたようにしか見えないが、本人は至って真面目に走り出しただけである。主人公特権。




目を回した魔理沙を両腕でキャッチ。

「……思ったより軽いのね」


なんだか顔が赤い。魔理沙の額に額を当てると、熱い感覚。

「熱、ね……あいてっ」

込められた魔力が切れて、魔理沙の箒が霊夢の脳天を突いた。






魔理沙は、不意に意識を取り戻した。朝だか昼だかわからない。

「……見知った天井だぜ……」

どう見ても博麗神社である。


炬燵には霊夢がいる。巫女なのに茶ばかり飲んで暇している。

「馬鹿言わない。気分は?」

「……大丈夫だぜ」


「声、ガラガラじゃない。熱もあるでしょ?」

「……大丈夫だぜ……うぇっ」


突然、腹から強烈な痛みが上がってきた。

キリキリと胸を締め付け、喉を締め付け――


「吐くなら外!」

霊夢に体を持ち上げられるのを感じながら、胃から口の高速道路が開通式を迎えた。







浅い眠りは、また違和感で断ち切られた。


「……ぅ」


胸の奥から何かが上がってくる。


何かが何かを締め付けるような感覚。ざらっと流れ込む焦燥。浮き出る涙。

思わず、じっとりと張り付いた前髪を掻き上げた。


喉がヤツに侵食される前に声を絞り出す。


「霊夢……」

「バカは黙って寝てなさい」

こたつから、振り向きもせず霊夢の声が飛んでくる。


「……吐くぜ」

「厠まで行って吐いて」

やはり振り返らない霊夢の背中に、自分でも驚くほど弱々しい声が出る。


「……無理だぜ……」

「……しょうがないわね」


霊夢は縁側に出ると、何か金属質の音を立てた。


「……?」

嫌な予感。


「吐くなら、この中ね。」

霊夢が目の前に差し出した灰白色。



「……」

「あんたの家から持ってきたバケツ。博麗の勘に間違いはないのよ」


それはご丁寧にどうも―その言葉は、奥から上がってきた酸っぱいヤツに飲み込まれ、涙を引き出し、頭の中身も全部まとめて、口から出ていった。





夜になった。

霊夢の寝巻きから自分の寝巻きに着替えた魔理沙に、霊夢が縁側の外から声をかける。

「おかゆ食べるなら食べてて。魔理沙の家から布団、回収するから。寝てるといいわ」

「……病人扱いは勘弁だぜ」

「朝に気を失って、昼に何度も吐いて、夜には弱々しく布団に収まる分際で何を言うのかしら?」


今日一日で自分が晒した醜態が、鮮やかに思い出された。


「……大丈夫だぜ」

「そればっかりだわね。その調子で、無理に動いてたわね。魔法かしら?」


「……」

――図星だぜ――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ