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古道具屋の推察-3 (香霖堂、ヤマメ)

「結論から言うとだな、今回の場合は、『身体のポテンシャルに対し、実力が高い』というのが感染条件なのではないかと推測できる。」


霖之助は、語りを続ける。


「これまで感染してきたのは、程度の差はあれ、そのような特徴を持っていると思わないかい?」


指を立てる。


「特異な現象から考えることにしよう。神が罹った例として、諏訪子が挙げられるね。諏訪子、神奈子、半分は神である早苗、三人を比較してみよう。」


空中に三つの丸を描く。


「実力面では、諏訪子と神奈子がかなりの実力を誇っていて、早苗はそこには及ばないといった所だ。一方、身体のポテンシャル、つまり体の潜在的能力としては、神奈子が一番高く、早苗は普通、諏訪子はあまり無さそうだというのも事実だ。精神はともかく、体は幼いからね。ここで仮定を思い出してみよう。」


文机に指を落とす。


「身体のポテンシャルに対し、実力が高い。この条件に照らして一番かかりやすいのは諏訪子だ、というのは厳然たる事実ということさ。」


ヤマメが食べ終えた食器を下げ、ストーブに乗るヤカンに水を足しながら。


「妖怪に移ろう。紅魔館に着目すると、罹ったのはパチュリーとフランドール。罹っていないのは、咲夜、美鈴、レミリア。妖精メイドは、妖怪じゃないからあとに回してもいいだろう。」


「身体のポテンシャルについてだけれども、パチュリーは喘息を持っていると聞いたことがある。喘息によって体の能力は下がっているはずだ。病は体を蝕む、と言うだろう?つまり、パチュリーはあの魔力と知恵を持っていながら、身体のポテンシャルが他に比べて低いんだ。


「次に、フランドール。こちらは、持っている実力が途方もなく強いパターンだと考えられる。彼女の能力、『ありとあらゆるモノを破壊する程度の能力』は、あの胡散臭い妖怪少女―紫―に匹敵しうる規格外だから、あの小さい体と釣り合いが取れないんだろうね。」


その辺にあった湯飲みを2つ、机の上に並べる。


「一方で、咲夜や美鈴について考えると、両方とも実力がそこまで高いわけではないし、特に美鈴は持ち合わせている能力ゆえに、強い肉体を持っているに違いない。ほら、仮定はここでも成立する。」


湯気の立ち始めたヤカンから急須に、湯が流れ込み、ほうじ茶の香りが広がる。


「ルーミアとその回りにしたって、博麗のリボンで封印されているルーミアだけが罹ったのに、リグルやミスティアは元気そうだから、ここでも確かに成立しているね。」


ほうじ茶が湯飲みに注がれる。当然のようにヤマメは片方を取ると、霖之助に質問をぶつける。


「妖精については?」

「いい着眼点だね。チルノや三月精は、妖精にとってはあり得ない程の実力を兼ね備えているから、罹っておかしくない。特に、ルナチャイルドはあの胡散臭いのに『最も妖怪に近い』と言わせた猛者だからね。」


「それはそうかもね。村の子供たちについてはどう説明するかしら?」

「そんな幽香みたいな口調で話されるとなぁ……」

霖之助は自分の湯飲みから一口飲むと、ふう、と息を吐いた。


「子供、というのに特有な特徴として、今後の成長の可能性を秘めている、ということが言える。子供は放っておいても成長していく。」


霖之助は立ち上がり、書棚から一冊の本―物理学基礎―を抜き出し、中央付近のページを開いた。


「この本は、物理、つまり物の(ことわり)を説く本なんだ。様々な現象や観測、実験の結果を基に世界の真理であるところの、『定理』や『法則』を見いだす学問だね。」


「その一つ、エネルギー保存則、という法則があり、『他から孤立した系のエネルギーの総量は変化しない』らしい。人間の内なる力は、もちろん他人と相互に融通することもできるが、子供たちが誰かからエネルギーをもらっているわけでは無いだろう。」


「つまり子供は、あらかじめ、将来成長した時に持っているエネルギーを、内に秘めているということがわかる。彼らは、あの小さい体に、たくさんのエネルギーを保存しているということだ。いきおい、今回の病にかかりやすい、ということも言えるんだ。」





満足げに語りきった霖之助に、ヤマメは妖しげな目を向けた。

「ふぅん、それじゃあ、小傘は?」


霖之助は、それは当然だ、という顔をして言う。

「それは、小傘もまた、身体のポテンシャルに対して実力があるんじゃぁ無いのかい?」


ヤマメの目は霖之助を捉えて離さない。

「そうは見えないけれど?むしろ弱いようにしか見えないけれどね。」


「いや、それはそうだが、説明はつくと思うんだ。……体は別に普通、……でも実力はそんなに高くないのか……ぬえと一緒にいるからかな……墓地、に原因が……?でもともかく、説明はつけられると思うな。」


「永遠亭については?何でも治せるんでしょう?」


「……お手上げ、の印じゃないかな。新種の病気だとしたら……いや、どんな病にも聞く薬が効かないわけがないし……」


考え始めた霖之助に、ヤマメは追い討ちをかける。

「あらそう?私の回りでも、キスメってご存じ?」


「ああ、あのつるべ落としの妖怪かな?噂には聞いているよ。見かけのわりにあまり強くなかった、と霊夢が言っていたね。」


間髪いれず、ヤマメが止めを指した。

「キスメも罹ったのよ。少し考え直した方がいいんじゃないかしら。」


「な、なんだってー!?」

崩れ落ちる霖之助の前に、日記帳と新聞記事が差し出された。霖之助は、震える手でそれらを受け取った。


「噂通り、うんちくが長いのは癖なのね。面白かったわ。参考にはならなかったけど。」


「容赦ないね……うーん」

額に手を当てて唸る霖之助を置いて、ヤマメは扉を開けた。


ベルがからんからんと鳴る。


「次も面白い話を待っているわ。またね。」

「どうしてウチの客は、時間ばかり奪って帰るんだい?」


返事は、再び鳴ったベルとドアの閉まる音だった。

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