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古道具屋の推察-2 (香霖堂、ヤマメ)

舞台/登場人物

前回と変わらず

「さて、今回の罹患者の共通点は何だろうか。」


霖之助(りんのすけ)―香霖堂の主人―は、漬け菜を噛む珍しい客人に得意気に語りだした。


ヤマメの方は大した興味を持っていないのだが、霖之助は気にしない。


「まず、誰でも考えることとして、この風邪が普段の風邪と同種の場合。」

霖之助は、一本指を立てる。


「普段の風邪は、人間にしか流行しない。これは、妖怪は病にかかりにくく、その代わりに心因性の病にかかりやすい、といった周知の事実に起因するね。ちなみに僕は人間と妖怪の中間だから、両方の病になりにくいということだ。」


霖之助は、少し言葉を切る。


「妖怪と人間と、両方に流行するような風邪は今のところないと言っていい。しかも、神が感染するような風邪など聞いたことがない。ここから導かれることは何か。」


机に手のひらを乗せて力説する。


「この風邪は、毎年流行るような普通のものではない、ということだ。これは、ヤマメがここへ来たことでも裏付けられる。」


自分の名前が出たのに反応して、ヤマメは食べる手を止めた。


「そうね」


「ヤマメは、ここに来て、『気になることがあって』と言い、この病の話題を持ち出した。つまり、今回の病は、ヤマメがこれまで扱ったことの無い部類、全くの新種であるということ、また、ヤマメが把握できない部分があるということを証明しているだろう。」


少し言葉を切って、襟を直す。


「観察力だけはあるのねぇ。」

ヤマメの言葉に、霖之助は誇らしげに胸を張る。


「古道具屋は、観察力が売り物だからね。僕の能力とも関係があるんだ。そもそも――」

「続きは?」

ヤマメは手をヒラヒラと振る。


霖之助は咳払いをしてまた口を開いた。


「さて。次に考えられることは、普通の風邪が、体の丈夫さに関係して感染するか決まるということ。」


二本目の指が立てられる。


「普通の風邪は、体の弱い人間、抵抗力の低い人間に伝染していくね。今回の場合が伝染性かどうかはわからないけれど、全域で一斉に発生したものでは無いようだから、伝染性に近いと仮定して話を進めようか。」


つまり、と霖之助は、口の端で笑う。


「今回の場合は、種族を越えて伝染している。種族を越えて何か尺度となるもの。それは、『実力』しかない。つまり、この風邪は、実力と関係しているのではないかということ、これもすぐに否定される。」


「今回の場合、実力の無いものから順に感染しているようには、どうも見えない。パチュリーやフランドールが熱を出して小悪魔や咲夜がピンピンしているなんておかしいだろう?」


別にヤマメは答える気もないのだが、霖之助は語りを続行する。


「もちろん、もちろんだ。普通の風邪だって、体が丈夫でない人全員がひくわけじゃあない。しかし、今回の場合は、その一般的な法則を見いだすのが極めて困難なぐらいなんだ。つまり。」


先程から掲げられていた指が下ろされる。


「実力の無いものから感染する――この仮定は間違いだ。」


再び、今度は三本の指が立てられる。


「しかしだ。人間、妖怪、神、これらの共通した尺度が『実力』であることに間違いは無いだろう。スペルカード戦も、格闘型の対戦形式も、安全の範囲内で『実力』を見せ合い、それを競う。」


「魔力、霊力、神力、その他の力、精神力、美的感覚、思考力、直観。全ての持ちうる力の総合が『実力』であり、幻想郷という秩序を維持している基幹もまた、『実力』であることは認めざるを得ない。」


霖之助は、湯飲みを傾けて喉を潤す。


「さて、――」

食べるものが無くなったヤマメが、言葉を紡ぐ霖之助を遮る。

「結論は?もう出ているんでしょう?」


「何故、うちに来る客人は皆、結論を急ぐんだい……」


霖之助は残念そうな声を出すが、ヤマメはそれを無視して、手で促す。


「結論としてはだな……」

肩を落とした霖之助だが、語りのテンポは落ちない。


その代わりに、店のどこかで時計が時報をのんびり告げた。

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