古道具屋の推察-1 (香霖堂、ヤマメ)
舞台
香霖堂…魔法の森の入り口にある古道具屋。
登場人物
森近霖之助…香霖堂の店主。道具の名前と用途が判る程度の能力。
ヤマメ…地底への入り口付近に住む土蜘蛛。
冬の香霖堂には、時折、予期せぬ来訪者がある。
香霖堂の主人、森近霖之助は、朝の訪れとともに、店の方に出てきたところ、ストーブの前の文机に見慣れない少女がいるのに気がついた。
「誰だい?」
「あら、お邪魔してます。」
茶色のふんわりしたスカートに、黄色のリボン様のアクセント。セミロングの髪を赤黒いリボンで纏めた少女は、驚く霖之助に、優雅に一礼する。
「黒谷ヤマメ、地底に住む土蜘蛛よ。能力は、病気、主に感染症を操る程度の能力。貴方の日記、勝手に面白く読んだわ。」
「おいおい、勝手に上がり込んで、酷いじゃぁないかい。」
「鍵を掛けない方が悪いでしょう?」
悪びれもせず微笑むヤマメに、霖之助は肩を落とす。
「普段から魔理沙とか霊夢とかが上がり込んでいるからね。朝からだとは思わなかったけれど」
「気になることがあってね」
ヤマメは、また日記に目を滑らせた。
「いいだろう?……幻想郷は、皆の寿命が長いから、掻い摘んで話すと、歴史が無いんだ。全ての出来事は、最近の、つまり『今』というわけだ。僕がここでこうして書き留めることで、始めて『今』が歴史に――」
得意気に語り始めた霖之助の目線を遮るように、日記のノートと、挟んであった新聞記事が差し出される。
「概念の話じゃあ無くてね。これだよ、これ。」
「ああ、永遠亭の診療休止の新聞と、新しい風邪が出始めた頃の日記だね。関係がありそうだと思って挟んだままにしているんだ。」
「何か知っているんじゃないか?」
「さあ、誰が僕を紹介したんだい?」
霖之助の目が光り、鋭い視線を受けたヤマメはすっと目を細めた。
「誰だっていいだろう?まあ、ネズミから聞いたんだ。」
「ナズーリンか。命蓮寺について聞いたりしているかい?」
「さあね。小傘とぬえが罹ったみたいだよ」
「やはり、といった所だね。」
霖之助が両手の指を立てる。
「これまでの感染者。僕の回りだと、村人。主に子供だね。大人の感染者は少数で、小さな子供がいる家庭が多い。」
指を一本折る。
「それから、妖精。三月精やチルノ、といった力のある妖精の方が感染が多い。ただ、力のない妖精は誰も数を数えたことがないし、そもそも風邪を引くのかどうかも不透明ではある。」
指をまた折る。
「妖怪。先程ヤマメから聞いたぬえと小傘、それから下級妖怪、ルーミア。紅魔館の妹、フランドール・スカーレット。図書館の魔女、パチュリー・ノーレッジ。真偽は定かではないが、いたずらウサギ、てゐ。妖怪の山では、河童や天狗の一部にも広まっているようだ。」
指が次々と折られ、立てられていく。
「幻想郷には多い、神々。今のところは諏訪子以外は聞いたことはない。」
霖之助は、半分聞き流し始めたヤマメを指差す。
「最後に、人間。少なすぎてよくわからないが、ここ数日、魔理沙も霊夢も来ていないから、可能性はあるわけだ。」
「それで?」
やる気の無さそうな声のヤマメに対し、霖之助の勢いは止まらない。
「そして今朝の君の襲来。朝御飯はいかがかな?」
「そうね。頂くわ。」
「あいにく、白いご飯に漬け菜しかないんだ。」
「構わないでしょう?」
「どうして疑問形なんだ……」
霖之助は、二人分の飯をよそり、漬け物と共にヤマメの前に出す。
「ありがとうさん」
「それで、だ。今回の風邪について少し考察を加えてみようかと思う。」
霖之助は、躊躇なく食べ始めたヤマメに対し、語り出した。




