病に染まりし魔の館-3 (レミリア、美鈴)
舞台
紅魔館…三日月湖のほとりに建つ、レンガ造りの洋館。
登場人物
美鈴…紅魔館の門番。
咲夜…紅魔館のメイド長。
レミリア…幼き吸血鬼。
フラン(妹様)…レミリアの妹。
パチュリー(パチェ)…紅魔館地下の大図書館に住む魔女。
私は、レミリア様がお服を着替えなさる間、廊下で待機します。
あんな大見得を切ってしまった以上、失敗は許されません。
うう、手のひらに汗が……
妖精メイドから今のパチュリー様と妹様のご様子を聞き、必要な準備を指示します。
「……美鈴。」
部屋の扉が開き、咲夜さんが出てきました。
「何故、そのような暴挙に出るのか知りたい所だけれど……いぇ、愚問だったわね。」
咲夜さんは首を振り、事務的な口調になって続けます。
「わかっていると思うけれど、食事の時間にはお連れすること。長くて午後一杯ね。もうすぐ出てくるから、よろしく頼みました。」
「了解しました。」
咲夜さんは本当に事務的に去っていきました。
なんと言うか……切り替えの早い人です。そのぐらいさばさばしていないとメイド長など務まらない、というのもあるんでしょうか?
再びドアが開いて、レミリア様が登場します。
「待たせたわ。行きましょう。」
「はい、お嬢様。」
地下、大図書館への階段に、私の足音とレミリア様の軽い足音が響きます。シンクロして不思議な反響がします。
レミリア様、先程までのフリルの服ではなく、飾りの少ないシンプルな装いになっています。
動きやすいように、袖も絞ったものになっていますね。
「美鈴。」
私の少し前を行くお嬢様が、振り返らず立ち止まらず言います。
「はい。」
「何故――」
刹那、空気が凍りました。
「――私のために嘘をついたの?」
私の息が、足が、一切の動きが止まったのがわかります。
お嬢様は、自然な足取りで階段を下り続けます。
そして、階段の最後の段を降り切って、そこにたたずみます。
「本当に『気』を操って感染を防げるなら、フランには移らなかったはずでしょう?貴女が付いているのよ。」
「だから知りたい。何故、あなたは私のために嘘をついたの?」
レミリア様の小さい背中が、私に問いかけます。
気圧されて、私の口が開きます。
「それは……それは、お嬢様が、パチュリー様が、妹様が、私の守るべき館の主、だからです。」
もう何を言っているのか自分ではわかりません。
口からでる言葉が、勝手に。
お嬢様は、私の返事に満足したのか不満だったのか、廊下に足を踏み出しました。
私もその後を追って、階段を降ります。
二人分の、先程とは違う足音が鳴ります。
片方は軽い足音で、絨毯の廊下。
片方は硬い足音で、大理石の階段。
私がようやく階段を降りきったとき、お嬢様がふっと息を吐きます。
すると、先程までの重苦しい、束縛されるような感覚がどこかへ消えていきました。
「美鈴、試して悪かったわ。最高の従者ね。」
「えっ」
「魔力を出して威圧したのも謝るわ。少し思い付きだったの。」
……私、試されていたのですね。
答えられなかったら従者失格でした。なんという瀬戸際だったんでしょう。
仕事をする前から、どっと疲れが来ました。
「さて、一応パチュリーに会う前に聞いておきたいのだけれど。」
レミリア様のすぐ後ろに再び追い付いた私に、レミリア様が話しかけます。
「『気』を操れば感染は防げる、というのは?」
「半分正しいです。感染を完全に防げるわけではありませんが、かかった場合の症状を軽減することは可能です。」
「パチェに比べて、フランの症状が軽い理由は?」
「私が『気』を操った結果もありますし、パチュリー様の方がそもそもお体が虚弱というのもあると思います。」
「この風邪はどこから来たと思う?」
「……門番の身では館から離れたことはわかりませんが、今年は妖精の間でも風邪のような症状が見られます。ここ数日……一週間ぐらいは泥棒魔法使いも姿を見ませんし、外でも流行しているのではないでしょうか。」
「何故、私のために嘘をついたの?」
「お嬢様もパチュリー様も妹様も、私にとっては、守るべき館の主ですので。」
「正解ではないわね。紅魔館の主人は私一人よ。」
レミリア様は、大図書館の扉に手を掛け、言葉を紡ぎます。
「パチェは紅魔館の客人にして、主人と旧知の仲。フランは主人の妹にして、唯一の親族。」
「はい。」
「丁重に遇すること。粗相の無いように。」
「かしこまりました。」
私の返答に満足したのか、レミリア様は大きな扉を開けました。




