『超常現象研究部』の初依頼
少し長くなりました。
会話のテンポに注意して内容を進ませているつもりです。
「何か『超常現象研究部』らしい依頼でもあれば、やりながら周りにこの部をアピール出来るのになぁ。」
「・・・。」
宇佐の何気ない一言に綾は何かを迷っているような顔をして下を向いた。
「アヤ、どうした?」
仙太郎がそれに気付き綾へ声をかけた。
「仙太郎君、実は私・・・」
膝上でスカートの裾を手で弄りながら綾は口ごもり、やがて遠慮がちにだが話始めた。
「私、最近何かに家までつけられているんです。」
「えっ?ええええ!あ、アヤちゃん大丈夫なの?け、警察は?ポリスマンには!?」
心配そうに宇佐は早口で捲し立てながら綾を見つめた。
仙太郎は、ややうつむき静かに綾の話に集中している。
「その・・・何に後をつけられているかわからないし、被害もないから警察へ言おうにも言えなくて。」
「ふーむ・・・。アヤちゃん、質問!後をつけられ始めたのは、いつくらい前から?」
宇佐は、まるで探偵のように綾へ質問をする。
「もう、1週間くらい前になるかしら?」
綾は宇佐からの質問へ申し訳ない顔をしながらだが答えていく。
「アヤちゃんの家は、この高校の近くにあるお寺なんだよね?」
「うん。普通に歩いたら、だいたい徒歩で20分くらいかしら。」
「ふむふむ、意外と長めな距離だね。・・・ん?普通に?」
「ええ。普通に歩けば20分くらい。近道をすれば15分よ。」
真面目に帰り道を歩くタイプに見える綾だが、意外と近道という短い帰路を使うようだ。
質問していた宇佐も予想だにしない情報を知ってしまい驚いている。
「アヤちゃんって、近道をして帰るタイプの子だったの?そ、その近道はどこを通っているの?」
「私の使う近道は家の裏にある歩道公園の側の少し大きな墓地よ。そこを横切るの。」
「ひえええ!!アヤちゃん、怖くないの?私だったら怖くて近道より普通の道で帰るよ。」
青ざめている宇佐に対し、綾は苦笑をこぼしながら続ける。
「実家がお寺だからか、お墓には行き慣れていて怖いと思った事はあまりないの。」
宇佐は涙目になりながらも一生懸命、綾の話を聞いている。
「何かにつけられている、と気付くのはお墓を近道として使った時から私の家までなの。その間に何度か振り返ってもいなくて、でも気配は感じて・・・。」
「何だか話を聞いていると段々お化けのストーカーみたいだよ~。」
「俺らは『超常現象研究部』だろ。」
しばし無言だった仙太郎が2人へポツリと呟くように言う。
「超常現象とは、オカルトも含まれている。お化けのストーカー。アヤには少し不謹慎だけど、俺らの依頼に合っているな。」
「お化けのストーカーを調べる。うん!『超常現象研究部』の初めての依頼にしては十分だね。」
めんどくさそうな仙太郎と解決する意欲を表す宇佐。
「ウサちゃん、仙太郎君・・・ごめんなさい。新入部員の勧誘をしないといけない大事な時に私の話なんかをして。」
まるで悪い事をした子どもが親に叱られているように綾は頭を仙太郎達へ下げた。
「何で謝るのアヤちゃん。私達は友達だよ。友達が困っていたら助けてあげたいし助けたい。ね、センちゃん?」
綾の両手を握りながら、宇佐は真剣な顔で綾を見つめた後に仙太郎へ顔を向けた。
仙太郎は無言で座って床を見ている。
綾は宇佐からの言葉を聞き顔を少し上げた。
宇佐からの言葉が嬉しかったのか、目尻が涙で滲んでいる。
「仙太郎君は、もしかして迷惑だった?もし、そうだったらごめんなさい。私の話は無かった事に・・・。」
「アヤ違うよ。そうじゃない。」
無言の仙太郎に不安を感じ謝りだす綾へ、仙太郎は急いで否定の言葉を放った。
「そうじゃないんだ。ただ、君の話を俺なりに頭でまとめていただけなんだ。」
仙太郎は背中を椅子へ預け、天井をぼんやりと見上げた。
「センちゃんも微妙にやる気を出しているみたいだし、アヤちゃんの依頼を『超常現象研究部』で解決します!」
「でも・・・わ、私なんかの悩みを依頼として解決してもらうなんて、やっぱり何だか悪いよ。」
宇佐の言葉に、綾は嬉しさと遠慮の混じった様子で更に下を向き、まるで全身を丸めるように前のめり気味になりながら小声で言う。
「俺はウサに賛成だ。」
「仙太郎君まで・・・。」
宇佐の言葉に同意をした仙太郎に、顔を少し上げ罪悪感により困ったような顔になる綾。
「アヤは『友達として悩みを解決したい』と俺らが言えば、きっと遠慮をして話は進まないでいるだろう。でも『超常現象研究部としての依頼解決する為の行動』ならばアヤの遠慮は多少は減り、話も進みやすくなるはずだ。」
「確かに!」
仙太郎の思考に宇佐は納得したように頷いた。
「アヤちゃん、どうする?」
「えっと・・・どう、って?」
宇佐は綾を改めて見つめて、確認するように聞く。
「私達は今、こう話しているけどアヤちゃんからの意見は聞いてないよ。アヤちゃんに無理強いをさせてしまって、強制的に依頼としてこの話をすすめたくないの。アヤちゃんからの友達としての助けか『超常現象研究部』としての依頼かを聞いて私達は動きたいの。」
「ウサちゃん・・・。」
宇佐の意見はもっともだ。
綾もそう思ったのだろう。
その証拠に綾は考えながらも、どこか嬉しそうな様子だ。
「そうね。友達としてだったら遠慮しちゃうけど、部活の依頼としてなら他人行儀にも感じるけど、少しは気が楽かも。」
「それじゃあ・・・。」
綾は気が楽になったように顔を緩ませると、宇佐は次の言葉を早く聞きたがるようにキラキラした表情で綾を見つめた。
「私の今お話した依頼を解決して下さい。」
「了解です。」
「了解です。」
仙太郎と宇佐は息ピッタリにハモり、嬉しそうに答えた。