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超常現象研究部の活動記録  作者: 飛鷹 樹
10/14

玄海からのお詫び

3人から4人へ増えた部室の様子を表現しました。

「何っつーか、汚い部室っスね。」


超常現象研究部の部室へ初めて入った彼、玄海の開口一番がそれである。

まるで荷物を置くだけに使われていたであろう粗末な生徒用の椅子が3脚しか置かれていない準備室を見た玄海は本心から、この言葉を発した。


玄海との件から翌日の昼休み。

珍しく部室へ昼休みに集まるよう超常現象研究部の部員である仙太郎と綾、そして入部届けすらまだ書いていない玄海に声をかけたのだ。

新入部員候補の玄海が部室へ入っているのが嬉しいのか、宇佐は昼休みが始まり間もなく経っていない集まったばかりの玄海に、昼食前という事を忘れているのかお菓子を食べさせようとしている。


(ウサのオモチャが増えたか。まぁ、その分のんびり俺は出来るんだが・・・。)


その様子を見ながら、仙太郎は壁に掛かっている黄ばみ気味の薄汚れた時計へチラリと視線を移した。


「お、遅れてごめんなさい。授業が少し長引いてしまって・・・。」


ガラガラと部室の戸が開いた音に無意識で視線を向けると、そこには息を乱して来た綾の姿があった。

走った時に出来る風による空気抵抗のせいか、綾の前髪には所々ハネている部分がある。


「英語の先生は、話が好きだからね。遅くなるのは仕方ないよ、アヤちゃん。」


隣のクラスが昼休み前に英語だったのは仙太郎も知っていた。

何故なら、廊下側に1番近い仙太郎の耳に英語教師の陽気な発音が届いていたからだ。

宇佐の綾へのフォローに、仙太郎も綾の遅刻を仕方ないと思っているのか「急いで来てくれたのは十分わかるよ。」と不器用なフォローを綾にする。

「こんにちは。アヤさん!」と言い、玄海は綾へと敬礼にも似た立派な一礼をした。両手を太股へ付け、頭から腰を30度綺麗に曲げている。まるで教科書の見本のようだと仙太郎は玄海を感心して見つめた。


昨日(さくじつ)はご迷惑をアヤさんだけでなく、センタローさんやウサさんにもおかけして本当にすみませんでした!これ、ほんのお詫びの気持ちっス!受け取って下さいっス!」


そう言い、玄海は持参して来た半透明ではない白いナイロン袋をボンヤリと見つめていた仙太郎へ手渡した。

受け取ると確認するように、袋の中を仙太郎は覗き「こ、これは・・・」と驚きながら玄海を見た。


「ねぇ、なーにー?ねぇー?センちゃーん。みーせーてー!」


宇佐は子どものように、仙太郎の周りをチョロチョロしながら仙太郎が持つ白いナイロン袋の中身を知ろうと「うーん・・・」と唸りながら爪先立ちをして中を覗こうとする。


「お詫びの気持ちにしてはスゴ過ぎる!今まで学校生活で1度もお目にかかれずに、ただの噂話程度でしか聞いた事なかった。」


いつもより興奮気味に話す仙太郎に宇佐と綾は興味深そうに玄海から受け取った白いナイロン袋を食い入るように見つめた。

餌を貰う前の仔猫のように宇佐は仙太郎に「ねぇー。なーにー?」と言い続けている。

普段の仙太郎ならばまとわりつく宇佐をうざがるが、今の仙太郎はまるで袋に魂を吸われたように白いナイロン袋を見ている。


「い、いいか・・・ウサ。絶対に大声を出すなよ!絶対に出すなよ!!」


仙太郎に言われ、宇佐は自分の両手を口へ当てコクコクと頷いた。

そして綾には、自分の側へ寄るようにジェスチャーをした。

持っていた袋を自分の腰の位置まで少し下げると、餌に釣られる動物のように綾と宇佐は中を覗き込んだ。

宇佐からは甘いミルク菓子のような匂いが、綾からは花のようなふんわりとしたお香の匂いが左右からそれぞれした。

だが、今の仙太郎にはそのような事はどうでも良かった。


袋の中にはパンが3つ入っていた。

1つはコロッケらしき揚げ物2つと焼きそばが一緒に40cmほどの長く柔らかいバケットに挟まっている惣菜パン。

別の2つはバターの芳香な香りが特徴の一見すると普通に見えるメロンパン。


「へへっ、それぞれ1日15個限定。男子に人気の黒豚カレーコロッケ&神戸牛メンチカツ乗せ焼きそばパンと、女子に人気の夕張メロンクリーム入りの高級塩バターメロンパンっス!」


玄海は照れ臭そうに笑いながら、誤魔化すかのように「遠慮なく食べて下さいっス。」と仙太郎達へ食べるよう促した。


「スゴーい!ゲンちゃん、良いの?本当に食べて良いの?」


「これらは購買のパンの中で500円以上の高い値段なんじゃ・・・。いくらしたんだ?少しでも払うよ。」


キャッキャッと喜ぶ宇佐の近くで仙太郎は自分の制服から財布を取り出した。


「ちょっ・・・やめて下さいっス。払われたらオレが恥ずかしいっス。払っていただく為に、それらのパンを休み時間にダッシュして買ったんじゃないんス。オレからのけじめの品でもあるんス。」


「・・・わかった。ゲンカイ、君の気持ちを理解出来ずに気分を悪くさせてごめん。有り難くいただくよ。」


玄海の気持ちを嬉しく改めて感じながら、仙太郎は財布を再びポケットへと入れた。

玄海と仙太郎が話しているわずか数分の間に、いつの間にか宇佐は背もたれが付いていないパイプ椅子を出し玄海へ座るように促した。


「それ、どこから持ってきたんだ?見た目が調理室の椅子によく似ているんだが・・・。」


「今朝、顧問の先生に椅子を1つ貰いたいと言ったらこれを渡された。」


宇佐の準備の良さに感心しながら、仙太郎は「ふーん」と言いながら自分の座り慣れている椅子へ座ると、続くように玄海は宇佐が持って来たパイプ椅子へ「なんかスンマセン。」と申し訳なさそうな顔をしながら仙太郎の隣へ座った。


「ご飯はみんなで食べなくちゃね♪あ、アヤちゃん、あたしのメロンパンちょーだい。」


宇佐はそう言って仙太郎達と向かい合うように少し離れた場所に椅子を置き直して座り、短い小さな幼さの残る片手を綾へ向けた。

綾は微笑みながら「はい。」と言い宇佐へ渡すと、宇佐の隣へ静かに座った。

仙太郎達3人は膝の上に、今日のお昼として食べるつもりで持参した個性的なお弁当箱の隣に玄海の買ったパンを並べた。飲み物は椅子の空いているスペースに各々置いている。玄海は購買で買ったホットドッグと高菜パン、小型の紙パックであるコーヒー牛乳を膝の上へ置いた。


「えへへ♪それでは、みんな揃って・・・いただきます!」


宇佐のご機嫌な挨拶と合掌の仕草に誘われるように、各々食事の挨拶を唱え楽しい食事が始まった。

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