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王女と浪者

作者: 田中 友仁葉

……あれから何日経っただろう。


戦争が終わり、奴隷解放宣言が出たおかげで僕の背中にある奴隷の証である焼印も意味を持たないものとなった。


しかし、財産も居場所も失った僕は墓から這い出たゾンビのように理由も当てもなくウロウロするしかない。


お金を稼ぐため仕事を探しても元奴隷という身分から門前払いされ、夜に寝床を探していると持っていない金目当ての不良から暴力を受ける。


……もう僕には居場所なんてないのだろうか。


……そうだ、それならせめて子どもの頃から憧れていたレトナーク。 入国自体は手続きさえすれば誰でも入れるけど、巨人が住んでいるから危ないって止められてたっけ。


でも、行った人はみんな口を揃えて『美しい国だった』と言っていた。


……死に場所くらいは自分で選ばせてほしい。


その一心で僕は国を出ることを決意した。


*****


数日後、一方レトナークの王宮。


「王女さま。 もう国民の皆さんにも顔出ししましょうよ」


「いやよ。 そしたら街中自由に遊びに行けないじゃない」


「でも王女さまも良い年ですし、女王様国王様にばかり頼るのも……あっ! 逃げないでください!!」


……

…………


王女が城を飛び出て数分後、国門の前で突然立ち止まったのをメイドは気がついた。


「……ん?」


「はぁ……はぁ……王女さまぁ!?」


「ねえ、カトレア。 これって……」


王女は屈んで地面を指差すと、カトレアと呼ばれたメイドも釣られるようにそこをじっと見た。


そこには自分たちの100分の1くらいの大きさしかないであろう少年が倒れている様子があった。


「……小人かな?」


「……リルビアの逃亡奴隷のようですね。 しかしリルビアは戦争に勝って管理下においたのち奴隷解放宣言を行わせたので、逃亡奴隷と言うのは少し語弊がありますが」


「……小人さーん、起きてるのー?」


王女は少年の体を指先で突こうとすると、メイドは慌てて止めに入った。


「い、いけませんよ!? 小人国家の人間は少しでも力加減を間違えたら潰れてしまいます! ましてや相手は弱っている少年なんですから……」


「大丈夫よ。 別に力入れるわけじゃないし」


そう言うと王女は少年の体を持ち上げると、手のひらの上に乗せた。


「……生きてるかな?」


「ええ、浅いですがまだ呼吸はしていますね」


「……ねえカトレア」


「……まずは王宮に帰りましょう。 王女が言えば小人の一人や二人、城に入れても問題ないと思います」


王女はカトレアに頷くと、少年を落とさないように気をつけながら王宮に戻っていった。


*****


「大丈夫かな……」


「ええ。 大きさの違う私たちでは何もできませんけど、召喚妖精に治療を任せてますから大丈夫なはずです。 しかし王女さまが心配なさるなんて珍しいですね」


「だって、多分私の国と戦争したからこうなったんでしょう? 軍隊ならともかく一般市民まで酷い目に合わせてたのを見ると……」


「それが戦争ですよ。 王女さま」


王女は一瞬黙ると「分かってる」と一言返し、クッションの上で眠る少年の側に頬杖をついた。


「この子、起きたらこのあとどうするの?」


「そうですね。 残念ですが密入国者の様だったので王宮で裁きます。 場合によっては元敵国のスパイと判断して捕虜にするか、もしくは死刑ですかね」


「っ……そんな」


「そもそも密入国自体が罪ですから、仕方ないです」


王女はそれを聞くと、頬杖を折って顎を腕の上に乗せた。


「ねえカトレア」


「ダメです」


「まだ何も言ってないじゃない!」


「言ってなくてもわかります。 少年を我が国で管理したいとかなんとか言うつもりでしょう? 巨人国家の人間と小人国家の人間が共生するのは、元奴隷として軽蔑されながらリルビアに住むよりも遥かに難しいと思います」


確かに、あのとき王女が指の一関節ほどしかない大きさの少年に気づけたのは本当に偶然のことだった。


もしあのまま気がつかなかったら、そのままプチッといってたかもしれない。


「……ねえカトレア。 レトナークからリルビアまでってどのくらいの距離?」


「門を出て不可侵領域を歩いて10歩くらいですね」


「小人換算では?」


「えっと……森とかあるので徒歩20分くらいだと思います」


それを聞いた王女は不敵な笑みを浮かべると、少年の体をツンツンと突っついた。


*****


数分後


「……ん、ぅぅ」


「あ、気がついた?」


「っ!? うわあああああっ!?」


「ご、ごめん。 驚かすつもりはなかったんだけど……。 体は大丈夫?」


少年は甘い香りがする息と一緒に王女の言葉を全身に浴びると、傷跡に貼られた絆創膏や、近くにいる身の丈……より半メートルほど大きい妖精が心配そうにしているのを見て事態を理解した。


「……大丈夫です、ありがとうございます。 助けてくれたのに叫んですいません……」


「気にしないで。 私が勝手にしたことだから……ところで、どうしてレトナークに?」


「……あ、その。 ……言いにくいことではあるのですが」


王女は少年から奴隷解放宣言で居場所と財産を失って放浪していたこと、レトナークが美しい場所で最期に見たいと思ったこと、入国したのはいいもののそこで力尽きたことを聞くと頷いた。


「……死に場所にレトナークかぁ」


「す、すいません……」


「いいのいいの。 でも綺麗な場所だと思ってくれて嬉しいな」


「あ……いや、それがまだ国の景色見れてなくて……。 着いたのも夜遅くだったので」


王女はそれを聞くと苦笑を浮かべ、ベッド代わりにしていたクッションごと少年を持ち上げると、国中を一望できるテラスに出た。


「どう?」


「……すごい。 夢見てるみたいです。 とても綺麗で美しいですね」


レンガや石でできた壁にコントラストが美しくどれもこれもが宮殿の様に見える。 その近くには港が活気付く青い海が爽やかな風を運び、まさに自然と融合した生活が見えていた。


「……でも、ここ妙に高くないですか? 他の高い建物も全部下にありますし」


「まあ王宮だからねー」


「なるほど。 ……ええっ!?」


「こら、ちょっと暴れないで!! 落ちるでしょ!?」


……

…………


部屋に戻り、改めて話をした。


「……申し訳ありません! 助けていただけたのが王女さまだったなんて……」


何度も頭を下げる少年に王女は笑いながら断りを入れた。


「いいって私王女らしくないし、もう気にしないで。 でも、密入国したのは本当だし、それは裁かないとね」


「……はい」


「よし、じゃあ有罪。 これから君にはこの城で働いてもらうから」


「……はい。 えっ!?」


いろいろ言いたいことがある少年だったが、言わす間も無く王女は続けた。


「まあ言いたいことはあると思うけど、お腹すいただろうしお風呂も入りたいだろうし、話はそれからね」


「え、ええええっ!?」


王女は戸惑う少年を無視して、摘み上げると部屋をあとにした。

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