End of the Overture
「むやみに首を突っ込まない!今回は俺が居たから良かったけど・・・。」
「・・ごめんなさい。」
バスジャックを片付けた後、俺達は近くの喫茶店に来ていた。
『俺がアシストしていたんだ。危ないはずが無い・・。』
「氷上は黙ってて。」
『はい。』
音ヶ崎さんの前ではカミサマ(本名は氷上稲葉というらしいけど俺にはカミサマと呼ばれたいらしい。)もただの人だ。いや、もう人じゃないな・・・
「ちゃんと聞いてるのか!矢車!」
「は、はい!」
「全く、これだからお前らは・・。」
『・・俺が居たから大丈夫だし、そもそもお前が来る事も予言済みだったし・・』
「何か言ったか?!」
『なんでも~。』
カミサマは少しいじけているようだ。
「まあいい。無事で良かった。」
「ホントすいませんでした!」
「もういいよ。・・一年前と何も変わらないな、矢車は。」
「あ、俺と音ヶ崎さんと会ってもう一年になるんですね。」
「あの頃のお前はお前で・・。」
「あ、あはは・・・」
正直、苦笑するしかない。あの頃の自分を思い出しながら俺は思った。
一年前・・・
「こ、此処は何処だ?何で俺はこんなとこに?」
目が覚めると、俺は見知らぬ空間に居た。周りは真っ黒、まるで視界が暗転したかの様な
、けれど・・・
「自分の体は見える・・目が見えなくなった訳じゃないな。」
しっかりと自分の手は目の前にあるし、下をみれば足だって見える。どうやら今の俺の服装は裸足に私服、寝る時の格好の様だ。
「どういうことだよ?」
『教えてあげよう。』
「?!」
声に振り向くと、其処には黒い洋服を着た男が一人立っていた。
「いつから其処に・・此処は何処だ?!何のために俺を此処に連れてきた?!」
『君に与えに来たのさ。君は“この才能”を受け取る権利があるからね。』
「才能?何の事だ!おい!!」
『今に分かるさ、今にね・・・』
「はっ!い、今のは、夢?」
気が付くといつもの部屋、布団の上だ。
「元仁〜、朝よ〜!」
「! ああ、分かってるよ!」
下の階から、母さんの声がする。
「何だったんだよ、アレ。・・・!」
ぼやきながら寝ぼけ眼で、ふと何気なく自分の手を見てみた。すると・・
「光ってる・・?ウソだろ・・?」
自分の右手が白く光っていた。
「何なんだよ、一体・・」
学校帰り、十分位の歩きの帰り道、俺はずっと右手、それと今朝の夢の事を考えていた。
(結局、あの後何も起きなかった。けど、なら一体あの夢、それにあの光は・・?)
そんな時だった。
「やあ、悩み事の様だね。」
「!!」
突然の声に顔をあげると、そこには、
「誰ですか?僕に一体何の用が・・?」
「いや、急に話し掛けてごめん。俺は音ヶ崎空。宜しくね。」
「音ヶ崎・・さん・・ですか?知り合いじゃないですよね?」
そこには、一人の男の人。そう、音ヶ崎さんが立っていたのだ。
「で、音ヶ崎さん。俺に何の用ですか?」
「ああ、それなんだけれどね。」
そう言うと、目の前の彼、音ヶ崎さんは携帯を取り出しながら言った。
「君、変な夢見なかった?黒服の男が出てくる夢。」
「!!」
「その様子だと図星だね。・・流石氷上、百発百中だな。」
「な、何で分かったんですか?」
すると、彼は急に真剣になって言った。
「真面目に聞いて欲しい。実は今君の体に、俗に言う“超能力”が宿っている。」
「ちょ、超能力?!」
余りにも突拍子な言葉だった。
「ちょ、超能力ってつまり・・・」
「そう。念動力、発火能力、記憶再生、etcetc・・・、そういった超能力と似たような物だよ。厳密には少し違うけどね。」
「そんな物が何で俺に・・。」
「君が見た夢の、黒服の男の所為だよ。奴は他人にこの超能力、“才能”を与える能力を持っているんだ。」
「“才能”・・・。」
「君にはその資格が有った。“才能”は誰にでも適合する訳じゃない。君にはその素質があったんだ。」
「でも、どうして俺なんかに・・」
「いや、違う。むしろ“君だから”なんだよ。」
「?!」
「奴は何も善意で君に才能を与えたんじゃない。むしろ悪意に塗れてるよ。」
「!どういう事ですか!」
「才能の力は強大だ。特に君のは特別な物だ。その気になれば町一つ半日で潰せる。あいつは、君がそんな強大な力に溺れて理性を失うのが見たいだけだ。特に君はまだ未成年で精神の変動が一番激しい時期だしね。」
「そんな・・・。」
「さて、俺達が来たのはそんな“望んでいなかった才能開花者”を導く為だ。無論、強制はしないよ。ただし、暴れた瞬間、俺は君を“敵”としてみなす。」
その時、彼の右手が光り始める、しかも俺とは比べ物にならない位の輝きで。
「才能名“My best friend is truth《我が最愛の友は真理なり》”。」
そう言って、彼が右手を横にあったポールに手をかざした。すると、
ベギッッ!!
という耳触りな音と共に、真っ直ぐだったポールが触った部分で九十度に一瞬で折れた。
「あ、あなたも・・」
「そう。俺も才能開花者。」
その時、説明し難い恐怖が俺を襲った。超能力を持っていると言われた時の高揚が一気に冷めた。
そして、冷静になると同時に、ふと疑問が浮かんだ。
「あの、さっき“俺達”って言いませんでした?他にも仲間がいるんですか?」
「ん?ああ、居るぞ。今此処に。」
「は?」
すると、彼はさっき取り出した携帯を俺の手に置いた。
「?」
『やあ、ハローハロー!』
「け、携帯が喋った?!」
すると、彼は言った。
「そいつは氷上稲葉。昔死んだ才能開花者なんだが、今は色々あってその携帯に取り憑いてる。」
「へ?ゆ、幽霊?!」
『幽霊とは人聞きの悪い。以後、俺の事はカミサマと呼べ!』
「へ?あ、はい。分かりました。カミサマ。」
『よろしい。』
「調子に乗るなよ、氷上。」
『い、いいじゃん別に。俺の勝手だろ!』
「ま、兎に角色々言いたい事はあるんだけど要点だけ言うね。俺達の仲間になるか?」
「仲間・・。」
その時、俺は全てを知った。自分の力が人々を殺しかねない事。歯止めが効かなくなるかもしれない事。そして・・・
「音ヶ崎さん。さっき、俺の才能は特別って言いましたよね?」
「ん?ああ。並の才能よりは余裕で強いな。」
「なら・・・」
もしこの自分の力を上手く使えば・・・
「俺は音ヶ崎さん達の仲間になります!そして、その力に溺れた才能開花者とやらをぶっ飛ばしてやりますよ!!」
どんな悪人でも倒せるって事だ。
「へえー、中々イイじゃん。・・・よし、決めた。お前にその携帯貸してやるよ。」
「え」
『え』
「ソイツの才能は“あらゆる真実を知る事ができる才能”だ。上手く使えよ。」
「いや、俺この人よく知らないんですけど」
『いや、俺こいつにこき使われたくはないんですけど』
「んじゃ、頑張ってね〜。」
「ちょ、待ってください!」
『おい!ちょっと待ちやがれ!』
そのまま、走り去って行く音ヶ崎さんを俺(と携帯の中のカミサマ)は必死に追いかけた・・・。
「懐かしいですね。」
あの後、カミサマの才能で逃げるルートを特定して捕まえるという裏技を使い何とか捕まえた。
「本当だよ。もう一年か・・・。」
あれから何度も何度も犯罪者や、才能開花者を倒してきた。たが、いっこうにあの“黒服の男”は現れない。一体何処にいるのだろうか?
「なあ、そろそろ家帰らなくていいのか?」
「え?・・うわ!もうこんな時間だ!音ヶ崎さん、今日は有難うございました。」
「んじゃねー。」
「それでは、また!」
そう言って、俺は喫茶店を飛び出した。
「いやー、今日は一日中疲れたなー。」
音ヶ崎さんと別れた後、家に着き食事、風呂と済ませて、今は自分の部屋で布団のうえでゴロゴロしていた。
『さあ、予言の時間だぞ。シャキッとしろ。』
「お、いい予言がでると良いなー。」
『よし、行くぞ・・・おい待て、何だよこれ、マジかよ・・』
「ん?どうしたのカミサマ?」
俺も気になって予言の内容を見てみる。
「な、何だよこれ、嘘だろ・・・」
それは余りに唐突で、恐ろしい内容だった。
【午後九時二十分現在、黒服の男、“カイン”が赤城ニセ宅に侵入、その後、町外れの廃工場に誘拐し、その後何も起きなければ、廃工場到着三十分後、赤城ニセは死亡する。】