カーテンコール、幕は上がった
お久しぶりですね、灰狐です。
……特に語ることもないので、本編へどうぞ。
「なんか……思ってたよりスゴいな……。」
璃々がキラキラと目を輝かせながら言う。
おい、お前色々と忘れてないか?
俺達、殺されるかもしれないんだぞ?
まあ璃々の興奮もわからない事はないがな。
「まあ、確かに凄いなこりゃ。」
「うん……なんか、映画の世界みたい……。」
俺とニセの視線の先には映画やゲームなどで見る豪華絢爛という言葉が相応しいパーティー会場が広がっていた。
天井に輝くシャンデリア、幾つもの丸テーブルの上に置かれた豪勢な料理、挙げ句には乾杯用の飲み物を招待客へと渡す従業員など、まさしくこれぞパーティー会場といった光景だ。
実際俺達も飲み物を既に貰っている。(未成年なので当然中身はジュースだが)
と、その時
「お客様、少しお時間よろしいでしょうか?」
従業員の一人が声をかけてきた。
「あ、はい。なんでしょう?」
俺が応えると、
「……僕だ、音ヶ崎だ。」
「音ヶ崎さん?!」
顔は全く別人の物だが、その従業員の声色は紛れも無く音ヶ崎さんだった。
恐らく才能で容姿を変えて、この会場を監視しているのだろう。
「……前も言った通り、恐らく君達は襲撃される。それはいいね?」
「……カミサマは?」
俺はずっと思っていた疑問を口にした。
「アイツは今単独行動中。アイツによると坂間田……君達の学校の学園長は才能開花者だ、よってカミサマが見えてしまう。だから今は身を潜めてる。」
「……そうですか。」
怪しい。
それは口実で、本当はもっと他の目的を達成する為の準備をしているのではないだろうか?
……まあ、疑ったところで真実はわからないが。
「兎に角、いつでも戦えるよう準備をしといてくれ。敵はいつ来るかわからないからね。」
「ハイ、わかりました。」
「わーってるよ!」
ニセと璃々が応える。
……俺も、準備しなければな。
何が起こってもいいように。
音ヶ崎さんが立ち去った後、俺達は緊張を押し殺して辺りを警戒していた。
学園長、坂間田先生はさっきから見当たらない。
もっとも、他の学校の先生方も生徒からは離れてパーティー会場の一角で先生同士の交流に勤しんでいる事から別段怪しい事とも思えない。
さて、それじゃあ残された他校の生徒達はどうだろうか。
これまた生徒達もパーティー会場をうろつきながら、他校の生徒に話しかけたりして暇を潰している。
しかしこういった交流会に選抜された生徒だからだろうか、騒いだりは決してせずに礼儀正しくコミュニケーションに花を咲かせている。
(……この中の何処かに敵が……。)
敵は大人とは限らない。
実際、俺達の様な子供の才能開花者もいるのだから。
「ねぇお姉ちゃん、もういっそ片っ端から引っ捕らえるのはどう?」
璃々が物騒な事を言う。
「ダメだよ、璃々ちゃん。……敵はこの中にいるとも限らないんだから。」
確かに、言われてみれば。
敵は外部から攻めて来るのかもしれない。その場合闇雲にアクションを起こしてもかえって敵に隙を見せる様なものだ。
そう考えていたその時、
「ねえ、君達は何処の学校の代表?」
何処かの学校の代表だろうか、五人組の生徒のグループが話しかけてきた。
「え?あ、ああ。公英学園ってところなんだけど……。」
「公英学園?それは凄いね、何たって毎年難関大学に合格者を出すエリート高校じゃないか。」
そのグループのリーダーと思われる男子生徒が驚いた表情で言う。
ああ、そういえばそうだったな。
もっともそんなのは特進クラスに入ってる一部の生徒だけの話。全部が全部そんなエリートな訳じゃない。
「おっと、申し遅れたね。僕達は桐咲学園の生徒、僕の名前は小鳥遊 雀。よろしくね。」
リーダー格と思われる眼鏡をかけた礼儀正しい少年が言う。
「私は天城 咲乃。気軽にサキノ、と呼んでください。」
リーダー格の横にピタリとくっついている茶髪の女の子が言う。
もしかするとこの二人はデキてるのかもしれない。
「俺は樋之内 立刃。リッちゃんとかリツとか……まあ好きな様に呼んでくれ!」
制服を崩した少しヤンチャそうな少年が言う。どうやら彼はムードメーカー的なポジションの様だ。
てか男でリッちゃんはないだろ、意外とお茶目だな。
「神無月 涼子です。よろしくお願いします。」
そう言いながら恭しく頭を下げたのは彼ら3人の後ろに控えていた三つ編みの女の子。大人しそうだ。
そして……
「……。」
「おいイズモ、挨拶ぐらいしろよ。失礼だろ。」
イズモと呼ばれたのは神無月さんの更にその後ろに無言で立っていた少年だった。その雰囲気といい仕草といい、まさしく素行不良という言葉が当てはまりそうな生徒だ。
「門宮 出雲。」
ぶっきらぼうに彼がそう言うと、他のメンバーは眉をひそめた。
「ごめんな、こいついっつもこうでさ……。」
「いや、別に気にしてないよ。」
相槌を打ちつつ、相手を観察する。
この生徒達が敵かもしれないし、敵はこの生徒を操って攻撃してくるかもしれない。
実際、そういう才能開花者と戦った事は何回かある。
カミサマの才能で本当に操っている奴が誰かを特定できたから、簡単に倒せたけどな。
(……ん?)
その時、俺の頭に一つの疑問が浮かんできた。
カミサマは俺達が襲われる事を予言したのだ。
では、何故、
(襲ってくる敵については予言出来なかったんだ?)
そうだ、何故今まで自分がその事を疑問に思わなかったのか不思議なくらいだ。
無論、カミサマが知れない事もある。
本人が無意識に知りたくないと感じている事、知れば未来が大きく変わってしまう事、余りに不確定要素が多い場合は曖昧な予言になる、などもある。
だが今回は恐らくそれのいずれにも当てはまらない。
なら、カミサマは何故教えなかったのか?
それはやはり、教えられなかったからではないだろうか?
(……やはり、カミサマが……)
黒幕。
そんな嫌な疑念が徐々に確信へと変わり始めた、その時
フッ、と
パーティーホールの電気が一斉に消えた。
無論窓も何もない中、電気が消えれば当然真っ暗闇になる。
「ッッッ!!ニセッ!璃々!」
「ここにいるよ、矢車君!」
「おいでなすったか?!」
ニセと璃々の返事が聞こえる。
こんな暗闇だ、分断されたらそれこそゲームオーバーだ。
そんな中、
「へっ?!」
「な、何?!」
「オイオイ、何だよ?!」
「……何、これ?」
目の前では桐咲学園の生徒達が慌てふためいている。
突然電気が消えたのだ、それはそうなるだろう。
しかし、その時ふと違和感に気づく。
「あれ?イズモどこだ?」
「イズモ君?」
そう、あのぶっきらぼうな少年、門宮出雲がいないのだ。
……嫌な予感がする。
手に力を込めたその瞬間、
「あれ?」
何事もなかったかのように再び電気がついた。
そして、その目の前には
「貴方は……学園長!!」
パーティーホールの奥にあるステージにて、大手を広げて恍惚に浸っている学園長、坂間田がいた。
「は、はは、遂にこの時が来た!!」
そう言うと、彼は懐から手帳とペンを取り出す。
「さあここに再び開演しよう!グロテスクな舞台の上で踊り狂え!」
壇上の坂間田が手帳を開く。
「みんな、坂間田を止めろ!!」
恐らく才能を解除したのだろう、いつの間にか普通の格好に戻っている音ヶ崎さんが叫ぶ。
「もう遅い!緞帳は上がった!!」
坂間田が叫ぶ。
彼が手帳にペンを走らせようとした、その時
『動くな、坂間田!!』
舞台脇から、声と共に誰かが現れる。
カミサマだった。右手には銃を持っている。
カミサマが現れた途端、パーティーホールがざわめき出す。
才能開花者ではない一般人じゃ、まるで銃が浮いているように見えるのかもしれない。
「……ああ、お前か。待っていたよ、氷上。」
坂間田が手を止め、カミサマの方を向く。
『待っていた、だと?』
カミサマが拳銃を握り締めながら言う。
すると坂間田は、まるで神に祈るかのように大仰な手振りをして叫んだ
「ああそうさ氷上!!俺はあの日お前に殺されかけて、カイン様に助けられたあの日から!!カイン様の忠実なる下僕なんだよ!!お前が今日ここに来ると知って、俺は正直嬉しかったぜ。」
坂間田は祈るような体勢のまま、首だけをカミサマの方に向けて不気味に笑いかける。
「お前にやっと復讐出来るんだからなあ、氷上!!」
そして、一気に手帳にペンを走らせる。
『この……馬鹿野郎!!』
カミサマが引き金を引こうとしたその瞬間
「ぐっ……あ……な?!」
突然苦しみ出して、銃をとり落す。
そしてそのまま壇上に倒れこむ。
「カミサマ!!」
思わず叫んでしまった。
周りはカミサマが見えてない為、恐らく俺の事を不審な目で見るだろう。
だが、俺のそんな予想は呆気なくひっくり返された。
「な、なんだ!!」
「少年が急に現れたぞ!!」
「ゆ、幽霊っ?!」
壇上を見ていた人々が、次々に叫ぶ。
少年が……現れた、だと?!
まさか……
「カミサマが、実体化した?!」
俺は驚いて再び叫んでしまう。
「な……にを、した。さか……ま……」
「何をした、かって?」
ニヤリ、と坂間田が嗤う。
「これこそ我が才能!これでわかったであろう、カイン様に仇なす者達よ!!貴様らは所詮劇を紡ぐ一つの駒でしかない事に!!」
オペラの様に声高に、仰々しく坂間田が天を仰ぐ。
「我は高らかに叫ばん!これこそはカイン様より我が頂きし崇高なる才能!!その名も……」
彼が手を振り上げ、ペンを高らかに掲げ、今まさに才能を使わんとしたその時だった。
乾いた、火薬の炸裂音が、ホールに響いた。
「その……名……も……へ?」
坂間田が突然黙り、己の腹部へと手を当てる。
液体の滴る音が壇上に響く。
指に触れた生暖かい液体の感触に、彼は驚いてゆっくりと手を見る。
その手は、まるで絵の具で塗りたくったかの様に、赤く濡れていた。
その瞬間、
「グハッ……!」
坂間田が口から血を吹く。
彼は、まるで意味がわからない、という顔をしていた。
「か……いんさ、ま?」
最期に己が麗しの救世主の名を呟いて、
パタリ、と、
まるでネジが切れたオートマタの様に、彼は倒れた。
辺りが沈黙に包まれる。
そして、その沈黙を破るかの様に突然悲鳴が響いた。
どうやら、同伴の教師の1人が叫んだ様だ。何やらホールの二階の、テラス席を見て叫んだ様だ。
皆が一斉に視線をそちらへ移す。
そこには、
ガスマスクや黒ずくめの戦闘服で身を包み、短機関銃を装備した特殊部隊員と思われし人影が、数十人といた。
彼らがどうやら坂間田を撃ったらしい。
その時、特殊部隊員の1人がガチャリ、と短機関銃をこちらへ向ける。
その瞬間、1人の女性教員の叫びが合図となったかの様にホールの人々がまるで決壊したダムの様に入口へなだれ込む。
それと同時に、特殊部隊員もまたそちら側へと銃口を向ける!!
「みんな!無関係な人達を守れ!!」
音ヶ崎さんの声が響く。
どうやら、坂間田の言った通りの様だな。
この陰謀渦巻く交流会の幕は上がってしまった訳だ。
緞帳が上がり、キャストがひしめき合うこのグロテスクな舞台の上で、
「お望み通りに踊ってやろうじゃん。」
踊らされるのはゴメンだがな。




