グロテスクな舞台の上で
投稿がかなり遅れてしまいました。
リアルのほうが忙しくて手をつけてないと、こうも忘れるものなんですね。
あれから数日が過ぎ、いよいよ共同交流会の日が来た。
「いや〜、楽しみだね。なあ、赤城さん、矢車くん?」
「……。」
「……。」
俺達三人は今、共同交流会の会場に向かうべく学園長が呼んだ車に乗っていた。
学園長が助手席、俺達三人が後ろの席、といった具合で。
「ん?二人ともどうしたんだい?」
「お姉ちゃん達、昨日楽しみで眠れなくて寝不足なんですよ。」
「ああ、そうだったのかい。ところで君はどうだい、赤城璃々さん?」
「とっても楽しみですよ!!」
「そうかい!それは良かった!」
よく言うぜ、璃々。
お前は『イベント』が楽しみなだけだろ。
「……なんか、凄い事になっちゃったね、矢車君。」
「……ごめんな、ニセ。巻き込んじゃって。」
「気にしなくていい良いよ。それにこれは矢車君の為なんだから。」
「ニセ……。」
学園長に聞こえないようにニセと俺は言葉を交わす。
俺達がたかが交流会ごときにこんなに深刻なのには理由がある。
あれは二日前の出来事だった……。
「へ?!カミサマ、今なんて?!」
「そのままの意味だ、矢車。交流会は罠だ。」
俺達は音ヶ崎さんに呼び出され、近くの喫茶店に集まっていた。
今のカミサマは才能開花者にしか姿が見えない為、傍から見れば俺が急に叫んだように見えたかもしれない。
「どういう事なの……?」
不安そうにニセが首を傾げる。
「僕の方から説明しよう。」
音ヶ崎さんが口を開いた。
「君らの学校の学園長、名前覚えてるかい?」
「へ?え、えーと、坂間田先生だっけ、矢車君?」
「あ、ああ。それがどうしたんだよ、カミサマ。」
するとカミサマは顔を背けて、抑揚のない声で言った。
「坂間田健。俺が15年前殺そうとし、俺を15年前に殺した奴だ。」
その言葉に俺は耳を疑った。
「殺そうとって……!カミサマ!あんた何言って……」
「事実だ。あの時俺は五人殺した。あれが俺の人生初の殺人だ。」
「……。」
俺は絶句した。ニセは勿論、あのリリスですら言葉を失っているようだ。
「さて、説明を続けよう。」
音ヶ崎さんが淡々と続ける。
「という訳で君らの学校の学園長は氷上とただならぬ因縁があるんだ。」
「なんか話の流れ読めたわ……。」
リリスが言う。
「どういう事?教えて、璃々ちゃん。」
不思議そうにニセが首をかしげる。
「ようは交流会自体が罠だってことでしょ?」
「話が早いな、リリス。坂間田は“カイン”と繋がっている。」
恐らくカミサマの才能、“夢破れし大預言者”で知ったのだろう。
カミサマが抑揚のない声で言う。
「……殺すのか?」
俺の問いに、今度は音ヶ崎さんが答えた。
「いや、違う。そんな事をお前らにさせる筈ないだろ。」
「……よかった。」
心底安心したようにニセが呟く。
「但し、」
音ヶ崎さんが付け足す。
「お前らは襲われる。それは確実だ。」
「じゃあどうするんだよ?」
璃々が言う。
それを聞いて、カミサマが呆れたように言う。
「そんなの決まってんだろ、生け捕りだよ。“正義の味方”らしくな。」
「何が正義の味方だ。人殺しのくせに。」
助手席にいる学園長、坂間田健に聞こえないように璃々が呟く。
(でもどうしてカミサマは坂間田健を殺そうとしたんだ?)
ふと、素朴な疑問が生まれる。
(それに、生前のカミサマと対立したってだけでどうしてあの“カイン”と繋がることになるんだ?)
良く考えてみればおかしな話だ。
無論、学園長が才能開花者でカイン側の人間だというのは事実なのだろう。
カ ミ サ マ が 嘘 を つ い て な い 限 り。
(!!)
当然だが、カミサマはその才能の性質上ほぼ必ず真実を知ることができる。
そしてその真実を俺達に確かめる手段はない。
つまり
カミサマはいくらだって嘘を俺達に信じ込ませることができる、という事になる。
適当な嘘と真実を巧妙に織り交ぜて
(……いや、良く考えたらそんな事するまでもないじゃないか。)
もし本当に真実を何でも知ることができるなら、俺達に何を言ったらどう反応するか手に取るように分かる筈だ。
巧妙に織り交ぜる必要なんかない。
カミサマからすれば会話なんてもの、先の展開を知っている小説のようなもの。
どうすることだってできる。
もしかしたら
罠は罠でも待ち受けているのはカミサマの罠、かもしれない。
(……まさか、な……。)
そんな考え事をしているうちに、気がつけば車は止まっていた。
どうやら目的地に着いたようだ。
「ほら、君達。着いたよ。」
学園長の言葉に促され、俺達は車から降りた。
降りた先の場所は……。
「ここ、港?」
ニセが不思議そうに言う。
すると、学園長が少し声高に言う。
「ふふふ、君達。アレを見なさい。」
言われるがままに学園長の指す先を見ると、
「ふ、船?!」
璃々が驚いた感じで言う。
驚くのも無理が無い。
そこには映画とかで見たことがあるような客船があった。
「今回の共同交流会は10校の高校から代表者が二人ずつ選ばれて、この客船を貸し切って行われるのだよ。」
「規模がすごい……。」
「どうやらこの交流会の出資者がえらく大金を出したみたいでね……。残念なのは日帰りだという事だ。せっかく客船にまで乗るのに日帰りとは慌ただしいものだ。」
確かに、それは最早客船でやる必要は無い気がする。
「ま、とにかく中に入ろう。荷物を忘れないようにね。」
俺達はそのまま客船の乗り込みゲートに向かった。
「公英学園の者です。」
乗り込みゲートにて、学園長が招待状のようなものを見せる。
「ようこそお越し下さいました。どうぞごゆっくりお楽しみください。」
乗り込みゲートにいた乗務員の人は、その招待状を一瞥するとそれを学園長に返し軽く礼をする。
「さあ、行こうか。」
俺達が船内に入ろうとしたその時、その乗務員は俺達にだけ顔が見えるように軽く頭を上げた。
その顔には見覚えがあった。
「っ!!」
「ん?どうしたんだい?」
学園長が不思議そうに尋ねる。
「い、いや。何でも。」
そう、その乗務員は、
(お、音ヶ崎さん!!どうして?!)
恐らく音ヶ崎さんも潜入して船に入り込むつもりなのだろう。
(やっぱり、この共同交流会の中で何かが起こる……。)
少し嫌な予感も胸に抱いて、俺は船内に入った。
「さあ、お膳立ては順調に進んでるようだね……。」
どこかの場所で幼い容姿の少年が言う。
その手には、小さな手帳があった。
「役者は揃った。さあ今こそ始めよう、グロテスクな舞台を。」
彼は小型の通信機のようなものを取り出し、言った。
「ジョーカー達に通達する。幕は上がった。“霧の街の悪夢”を始めろ。」
通信を終えると、彼は満足そうに呟いた。
「氷上……生憎だが、お前の好きにはさせない。キーパーは俺だ。せいぜい楽しんでくれよ。」




