悲劇は喜劇よりも奇なり
あの廃工場での一件から一週間・・・。
ニセは結局彼女の“エラー”こと、“リリス”を家で匿ってやった。どうやったかは知らないが、音ヶ崎さんが才能でニセの両親を説得(というか、洗脳の気がするが・・・)したらしい。
しかもなんと、戸籍まで捏造して近々学校にも通う予定らしい。
本当にどんな手を使ったのやら・・・。
音ヶ崎さんはカインを追いつつ、アイツが言ってた“未来を見る”才能の正体を調べてるらしい。
そして俺はというと・・・
「ただいま。」
「元仁、ちゃんと手を洗いなさいよ〜。」
「わかってるよ。」
台所で料理を作る母親を尻目に、俺は二階にある部屋へ入る。
「はあ〜。」
「“今日は全く予習してない授業で当てられたからヒビった。ニセに見せてもらえなかったら補修行きだった。危なかった〜。”って、ところか?矢車。」
「・・・黙ってくんない?カミサマ。」
自分の部屋にある押し入れの中から、声が聞こえる。
彼は氷上稲葉、通称“カミサマ”。本来は数十年前に死んだ才能開花者で、ずっと携帯に取り付いていた幽霊・・・“だった”。
あの廃工場での一件で、何故かカミサマの肉体が戻ったのだった。だが、どうやら完全に戻ったのではなく、体がところどころ透けていたり、壁などを通り抜けれたり、宙に浮いていたり・・・。
しいて言うなら、ある意味“幽霊らしくなった”とでも言うべきであろうか。それに、どうやら才能開花者でなければその姿は見えないらしい。
本人曰く『ご都合主義』らしい。
「ホント、何だったんだろうな・・・あの日。」
俺は廃工場の一件を思い出す。
「お?またあの俺が知らない話か?」
「だからカミサマもいたんだってば。」
「仕方ないだろ、全く記憶にないんだし。」
「・・・才能使えば?」
「俺の才能はそんなに万能じゃないんだよ・・・知ったら未来を変えてしまうようなことは分からないし、知ったとしても曖昧だし・・・。」
「へえー。そう言えば・・・」
俺は廃工場の一件のきっかけを思い出す。
あの時、カミサマの予言には『ニセが死ぬ』とあった。だが、実際にはニセは死ななかった。
いくら未来予知といっても、ある程度の可能性を伴っての物なんだな。
「ああ、その通りだ。まあ、正確には俺の才能は未来予知じゃないし、俺はそんな予言した覚えないけどな。」
「・・・心読めるの?」
「俺の才能は“知識欲を満たす”才能だからな、何でも分かるんだよ。例えばお前の心の中とか。」
「・・・プライバシーの侵害だぞ。」
「悪かったよ、そう怒んなって。お詫びにお前の近い未来を予言してやるぜ。」
そう言い、カミサマは少し遠い目をする。
「・・・才能名、言わないのか?」
「めんどい。」
いつもやってたくせに、そう心の中で悪態をついていると。
「お!!マジか!!そいつは良いな!!」
カミサマが急に喋り出した。
「なに?予言の結果?」
「ああ!!教えてやろう・・・と言いたいんだが、やっぱりやめておこう。」
「はあ!?」
「明日もちゃんと休まずに学校行けよ。面白いことになるからな。」
そう言い、カミサマはふわふわと空中を浮きながら、押し入れに戻ってしまった。
「・・・明日?学校?」
何だか少し、嫌な予感がした。
次の日、学校にて・・・
「おはよう。ニセ。」
「おはよう。矢車君。」
朝、俺とニセは教室で会った。
まあ、同じクラスで席が隣同士だから合わない方がおかしいんだが。
「なあ、ニセ。その・・・いろいろと大丈夫か?」
「え?何が?」
「その・・・この前の廃工場の時とかさ。」
「・・・あの時は色々と急だったから良く分かんなかったんだけど、今はもう大丈夫。心の整理もできたし、新しい家族だって増えたし。」
「増えた?ああ、リリスの事か。」
「そう!今はちゃんとした名前になって『璃々』になってるけどね。でもあの音ヶ崎さんって人すごいよね。家に帰ったらお父さんとお母さんと音ヶ崎さんと璃々ちゃんが仲良く談笑してるんだもん!私びっくりしちゃった・・・。どうやって説得したのかな?」
「あ、あはははは・・・。」
(音ヶ崎さん・・・戸籍なり説得なり。どうやったんですか!!!)
「あ、ところで。」
「ん?なんだ?」
「今日璃々ちゃんの初めての学校登校日なんだってさ!どこの学校行くのって聞いたら「秘密」って言われちゃってさ~。どこ行くんだろうね?」
「学校・・・登校日?」
嫌な予感がした。
(あれ、この嫌な感じ・・・前にも・・・。)
『明日もちゃんと休まずに学校行けよ。面白いことになるからな。』
カミサマの予言、面白いこと、リリスの学校、初日・・・。
「なんか、全てがつながった気がする・・・。」
「?どうしたの矢車君。急に黙っちゃたりして。」
その時、
「はーい。みんな席に就けー。朝礼だぞー。」
「あ、先生だ。」
「はい、今日は皆さんにお知らせがあります。何と、転校生がいます!璃々さん!」
先生が少しテンション高めで言ったその言葉に、教室中が騒がしくなった。
「へえー、転校生だって!矢車君。」
「いや・・・気付けよ・・・ニセ・・・今、『璃々』って・・・?」
その時、教室のドアが開いた。
転校生は、そのまま教壇の前、先生の横、つまりは”転校生のポジション”に立った。
「や・・・やっぱりお前か・・・。」
「紹介しよう。転校生の赤城璃々さんだ。」
そこには、赤城ニセにそっくりな少女、リリスが立っていた。
ただ、赤城と違うのは長髪でなく短髪だという事か。
「みんな、よろしく!!」
おおー!!と、クラス中がどよめく。
「え?!転校生って璃々ちゃんの事だったの?!!」
ニセは今知った、という感じで驚いていた。
先生が再びしゃべり始める。
「えー。璃々さんは赤城ニセさんの双子の妹だそうだ。みんな仲良くしてやってくれ。それじゃあ璃々さん、あそこの空いてる席に座って。」
「はい!」
そう言い、リリスがこっちに向かって歩いてくる。
「へ?何で?・・・まさか?!」
咄嗟に俺は自分の後ろを見た。
そこには新しく、一つの空席ができていた。
「おいおいウソだろ・・・。」
そのまま、リリスこと、璃々は俺の横を通り過ぎ、後ろの席に座った。
「知らなかったよ!!まさか璃々ちゃんが私達の学校に来るなんて!!」
「えへへ、秘密にしててゴメンね、“お姉ちゃん”。」
「お姉・・・ちゃん。」
「ん?ああ、アナタは矢車元仁だっけ?存在感薄すぎて気が付かなかったわ。」
「!!テメエ・・・!」
「それに、私はお姉ちゃんの後に“生まれた”のよ?れっきとした“妹”じゃない?」
「そう言う問題かよ・・・てか髪の毛も切ってあるし、それに目も・・・。」
そう、リリスは元々白目が黒く、黒目が赤いという化け物の様な目をしていた筈だった。
「髪の毛は私とお姉ちゃんの区別をつけるため!それに目の色は才能使ってるときだけ変わるの!」
「知るかよそんな事・・・。」
「こら!!そこ、しゃべらない!!」
余りにしゃべり過ぎたせいか、先生に怒られてしまった。
「ちっ!!あんたのせいで怒られたじゃない!」
少し声を潜めながら、リリスが言う。
「・・・これからどうなるんだよ。俺の生活・・・。」
昼休みにて・・・
「お姉ちゃん!お弁当食べよ?」
満面の笑みでリリスが言う。
「うん、そうだね!・・・矢車君はどうするの?」
「俺?俺は購買だぞ。並ぶのが嫌だからちょっと待ってるんだよ。」
「そんなので購買のパン買えるの?あそこ毎日凄いんだもん。」
「ん・・・まあ、パンは買えないな。まあ、俺は売れ残ったシュークリームとかドーナツとかで十分なんだよ。」
そう言いつつ、俺は席に座る。
「・・・」
「何だよ、リリス?不満か?」
「リリスじゃなくて『璃々』!」
「あーはいはい。分かったよ。まあ、邪魔なら出ていくからさ・・・。」
リリス、いや璃々をあしらいながら暇を潰そうと思った、その時、
突如、放送がなる。
『高一、矢車元仁君、赤城ニセさん。至急、校長室まで来なさい。』
「・・・えっ?」
ニセが少し焦ったような感じで俺を見る。
「矢車元仁!アンタお姉ちゃんを何に巻き込んだ!!」
「何もしてねえよ!!・・・一体、何だろう?」
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「「「他学校との交流会!?」」」
「ああ、そうだ。君達二人にはこの度開かれることになった複数の学校による共同交流会に、生徒代表として出てもらう。」
俺達はあの放送の後、校長室に来ていた(何故かちゃっかり璃々もついて来ていたが)。
「ちょ、ちょっと待ってよ!!」
「・・・君は赤城ニセさんの妹の赤城璃々さんだね。君はここには呼んでないはずだが?」
「お姉ちゃんだけ行かせるなんて許しません!!そもそも、どうしてお姉ちゃんとコイツが代表に選ばれたんですか?!」
「それについては答えられない。」
「答えられないってどういう事?!何かやましいことでもあるんですか?!」
璃々の問い詰めに校長は少し困った、とでも言うかの様にこめかみを押さえた。
「この事は少し複雑なんだ。だから答えられない。分かってくれるかね?」
どうしても答えたくないのだろうか、校長が軽く嘆願するかの様に璃々を説得すると、彼女はとんでもない一言を言った。
「じゃあアタシも連れて行ってください!!」
「「「は?」」」
「とやかく問われたくないのなら、アタシも代表にして下さい。」
「そ、そうは言ってもね・・・。そう簡単には・・・。」
「じゃあ、この件をバラしてもいいんですね?」
「なっ・・!!」
「特定の生徒を贔屓してる、そう勘違いされても良いんですね?それだけじゃありません。校長はこの二人を誘い出してあんな事やこんな事を・・・。」
「分かった!分かったからやめてくれ!!」
遂には校長が折れた。
「やった!!」
ニセと一緒に行ける事が余程嬉しいのか、璃々は頭を抱える校長の目の前で大きくガッツポーズをした。
「何だか・・・大変な事になっちゃったね、矢車君?」
「ほんと、これからどうなるんだろうな・・・。」
奇しくも才能開花者三人で行く事になった交流会。落ち込む校長とそれを物ともせずにはしゃぐ璃々を眺めながら、俺とニセは苦笑いしか出なかった・・・。
矢車元仁達が帰った後、
校長はついさっきの出来事を思い出していた。
「『アタシも代表にしろ』か。最近は強引な生徒が増たな・・・。」
彼は俯きながら呟いた。
「フ、フフフ、フフフフフ、アハハハハハッッ!!!」
余りのおかしさに、彼は満足気に笑っていた。
「あの三人をどうにか誘い出そうと思えば、まさか自分から来るとは・・・。私の才能も中々の物だな。」
そう言い、彼は自らの手の中にある一冊の手記を開いた。
そこには、
『矢車元仁、赤城ニセ、赤城璃々ことリリスが共同交流会の代表に選ばれる。』
と書かれていた。
それはまるで演劇の台本の様だった。
「さあ、いざ最高の悲劇を演じようじゃないか!!」
彼は高らかに叫ぶ。
「この坂間田健の『台本』からは逃れられないぞ。」
「なあ、氷上。」
「なんだ?」
人気のない裏路地にて、音ヶ崎と氷上ことカミサマが話し合っていた。
「気付いてるんだろ?矢車達のあの学校の校長、二十五年前お前を殺した・・・。」
「ああ、そうだぜ。それに奴は再び何か企んでる。何せ、あいつは才能開花者だからな。」
「!! それは本当か!?」
「俺の才能がそう言っている。・・・あいつ、今度は何を企んでいる?」
才能解説コーナー
前回紹介し忘れてたので
使用者:カイン
才能名:堕天使のルーレット
“Lucifer’s roulette”
他者に才能を与える才能
説明:巨大なルーレットの様な形をした物を出し、そのルーレットが対象の生物に才能の適性があるかどうか判断する。有れば才能が与えられ、無ければ何も起こらない。また、本人が気付いていない才能の活性化や、本人の深層意識の中に入りこんで、その本人に直接才能を与える事も出来る。また、才能を与えられた人はその才能の“核”となる物と次第に惹かれ合う。これはこの才能の能力ではなく、才能そのものに共通する事である。
設定解説コーナー
氷上稲葉の才能、《夢破れし大預言者》は何でも知れる訳では無い。
その真実を知る事で大幅に未来が変わる事
本人が知りたくないと願う事
に関しては知る事が出来ず、また、個人の選択や意思によって未来が幾つか分岐する物はある程度の可能性を伴って知ることになる。
才能の核
才能の核とはその才能が能力を発動する上でその才能の象徴として現れる物の事である。




