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9話:先輩はとても残念な人でした

 さすがに世話をしてもらうといっても、情報が先代の天文部部長とだけではどんな人かイマイチ想像ができないわけだ。だから、矢作をとっ捕まえて聞き出そうとしたが、あいつは首を横に振るだけで、目が虚ろになっていた。

 この様子を見るとあまり大丈夫な気がしない。

 自分で調べる必要があるだろう。


「さあ、来てもらおうか!」


「そこで私を頼るってどんな根性してるんですか、先輩。あと、教室まで乗り込んで来ないでください。みんなが見てるんですけど」


「香夜ちゃんとは公認の仲っぽいとでさほど問題はないかと」


「迷惑被るのは私なんですけど」


「大の男がこうして頭下げに来てるんだ。お願いします」


「いや、先輩の先輩を調査にしに行くんでしたっけ?私が行く必要が感じられませんけど」


「人手は多いに越したことはない」


「……先輩。友達いないんですか」


「そんなことない。今日だって仲良く喋ってたが、その話題を出したら急に痩せ細っていった」


「……私会いたくないです。なんか嫌な予感がします。こうして先輩と歩いていることもそうです」


「待って!俺を見捨てないで!」


「だから何度でも言いますが、そんなことで後輩の女子を頼らないでください」


 もうすでに三年の教室がある階までたどり着いていた。

 ここまで来て引き返されても困る。俺だけ取り残された感がすごい。

 後輩の教室ならいざ知らず、先輩となると疎外感が半端ないのだ。

 ああ、だから香夜ちゃん俺に会いに来てくれないのね。

 わざわざ向こうから俺に会いに行く理由も皆無なわけだけど。

 それでも、しょうがないですね、とついて来てくれるあたり香夜ちゃんはとても優しい子です。この子が妹なら俺にとっては幸せでした。


「先輩、口に出てます」


「え、ナニが⁉︎」


「いっそのこと魂がそのまま出て行ってくれた方が世界中にとって有益になるのではないかと思うんですけど」


「まず、俺の存在を消そうとしないで!」


 妹と形容すべき存在は兄に対して冷酷でした。

 まあ、仕方ないね。思い当たる節は多いです。


「はっは。何やら楽しそうじゃないか、佐原少年」


「向こうから登場してくれたぞ」


「この人ですか?」


「ああ、天王洲先輩だ。俺からは恐れ多くて呼べないがぜひともよしりんと呼んでやってくれ」


「初対面から飛ばしすぎでしょう。普通そんな人いませんよ」


「どうした?私の身辺調査でもしに来たのか?そんな可愛い女の子とともに」


「ええ。真っ向勝負です」


「女の子を連れてきている時点で正々堂々という気概が全く感じられんのだが……」


「なら、俺からあなたに直接聞きましょう」


「ああ、なんでも聞いてくれ。答えられる限りはなんでも答えてやろう」


「今日の下着は?」


「先輩、一度死んでください」


「ホワッツ⁈なぜ⁉︎」


「今のあなたの発言で幻滅したからです」


「だって答えられる範囲で教えてくれるってんだぜ?聞かなきゃ男の名が廃るってもんだ」


「はっはっは。なかなか面白いな佐原少年。さすがにそれは教えてやれんが」


「強行突破は?」


「しても構わんが、そこの女子に嫌われたくないのならやらないほうが賢明だな」


「あなたの言う通りですね。自重しましょう」


「もうすでに好感度は下がっているのですけど……」


「香夜ちゃん。俺は常にアタックをかけてる。それをどう受け止めるかは香夜ちゃん次第だ」


「すいません。その愛は受け止められないです」


「フラれたー‼︎」


「少年よ。さっきから三年の廊下で三文芝居をしていることを忘れてないか?」


「いえ、少しぐらい面白いやつが二年にいるぐらいの認識をしてもらえれば、これからこの階に来ても『ああ、またあいついるのか』ぐらいのことになりますから、その種まきです」


「芽吹くのはいつの話なんだろうな」


「とりあえず今日は先輩の魂胆を聞きたいんですよ」


「おっと、直球だ。だが、少々悪目立ちしすぎたようだな。私も言いたくはないが悪目立ちしやすいタイプでな、人集めてしまうものだ。移動をしよう」


「……香夜ちゃん。来る?」


「ここまで連れてきておいてそれはないでしょう。先輩が行くなら私も行きます」


「ふふ、可愛いガールフレンドがいるじゃないか」


「「たぶん、そういうのではないです」」


「息もぴったりだが……ま、二人してそう言うのならばそういうことにしておこう。では、行こうか」


 どこへ?とは聞けず、そのまま天王洲先輩の後ろをついていくことになった。

 なんか歩き方がものすごく堂々としているので、後ろを歩いていると、天王洲先輩の御付きみたいにも感じられる。くそ、このままじゃ手玉に取られっぱなしではないか。


「どうした?そんな警戒しなくても話をするだけだ。取って食うようなことはしないよ」


「なんか先輩、女王様って感じがしますね」


「往々にしてそんな風に呼ぶ奴らもいるな。私は私らしく振舞っているだけだ。私は私を誇りに思っている。それが妹好きだとしてもだ」


 なんか最後に余計な一言が聞こえた気がする。途中までかっこよかったのに。


「さて、天文部だ。ここならゆっくり会話できる。ちょうきょ……ごほん。部長との親交を深めながらな」


 調教とか言いかけなかった?しかも部長って矢作だろ?あいつそんなことされてんのか?


「先輩。ちょっと羨ましいとか思ってませんか?」


「思ってない思ってない。俺にそんな特殊性癖ない。いじめられて嬉しいとかそんなドマゾはいな……」


「どうかしたんですか?」


「心当たりがあったけど黙っておくことにする。それは、そいつの尊厳に関わるからな」


「先輩の交友関係ってロクな人いなさそうですね」


「そんなことないぞ。現に……」


「さあ、二人ともお茶が入った。ぜひ飲んでくれたまえ。なに、眠り薬とかそんなものは私は持ってないからな」


「だから一言余計です。言わなければ疑わずに飲んでたものを」


「おや、言わずとも彼女のほうはかなり警戒していたようだからね。こちらとしてはせっかく出したものをいただいてくれないのでは少し悲しいからな」


「まあ、適当にすすっておきます」


「今は放課後だ。時間もたっぷりあるだろう」


「と、思いますよね?」


「なんだ、ないのか?」


「ええ。それも含めてあなたに話を聞きたい」


「……あまり込み入った話でもなさそうなのはなぜだろうな」


「うちの妹の顔を想像したからでしょう。あいつの顔を見てると全力で気が抜けてきますから」


「ああ、あの子は癒される。1日1回、いや一日中愛でていたいぐらいだ」


「……つかぬ事を聞きますけど」


「ふむ?」


「先輩。同性愛者ですか?」


「……とは、微妙にニュアンスは異なるかな。私は妹という存在が好きなのだ。上にべったり甘えてくれるタイプのな。とことん甘やかしたい」


「おい、矢作。いるだろ」


「…………」


「いますよね?」


「いるが?」


「いや、ならなんであいつ返事しないんですか」


「『返事がない。まるでしかばねのようだ』」


「矢作ー‼︎」


 なぜか知らんが天文部室は二階建て構造だ。まあ、一室が二階に分けられてるとでも言うか。一階に見当たらないので、上なのだろう。

 そして、確かにいたが、文字通りしかばねとなっていた。


「そ、そんな……矢作……くっ……いいやつだった……」


「いや、生きているぞ……佐原……」


「おお!俺のザオリクが効いたようだな!」


「完全復活魔法を使えたのか。すごいな」


「冗談は置いといて何があった?」


「襲撃だろう。どう考えても。お前たちに出したのなんて冷蔵庫に入ってたのを入れるだけだ。大して時間などかからん。まったく、口を割らせないためだけになぜ執拗に僕はやられるのだ」


「タフだからいじめがいあるんじゃね?」


「ちくしょう……不登校になるぞ……」


「先輩。こいつ、んなこと言ってますよ」


「案ずるな。引っ張り出せるからな。引きこもることは不可能だ」


 どういう意味でだろう。物理的な話だろうか。


「それにしても、君も可愛いな。兄弟は?」


「兄貴ヅラをしている先輩が1人」


「俺のことですか⁉︎」


「ふむ。本物の妹なら君もかなり好みなのだが……私は妹属性は求めていないのだよ。リアル妹をご所望だ」


「はあ……」


「だから、君を愛せない」


「愛してもらわなくて結構です。とりあえず、先輩が役に立たないので、色々資料があるので目を通しておいてください。先輩、帰りますよ」


「え?話し合いは?」


「今日は今日でやることがたくさんあります。妹の家庭教師は兄の役目です」


「そんな役割初めて聞いだけど……」


 これ以上文句を言って香夜ちゃんの機嫌を損ねても何なので、まだかろうじて息のある矢作にベホマはかけずにザキを唱えていきました。

 とりあえず、玩具になっていてくれ、矢作。お前がいつか報われる日は来るだろう。

 天文部の扉を閉める。


「調査結果は分かりました」


「まあ、そうだな」


「私の周りの先輩はとても残念な人ばかりです」


「俺もかよ⁉︎」


「むしろ自分が正常だとでも思ってたんですか?……まあ、先輩はそれでいいです。それが先輩ですから」


 けなされつつも、それでいいと言われてなんだか浮ついたような地に足がつかないようなそんな状態だ。

 自分というものが作れていないというか、なんか道化を演じてるのではないかとか……。

 それでいいというのなら、あまり気にすることはないのだろうが、俺は残念な先輩だと烙印を押されたのだった。

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