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思い出巡り

「着替えるからちょっと待ってて」


 俺は先日に引き続き美沙輝の家に上がりこんでいた。いつも上がりこまれているのは俺の家なので問題はないはずさ。

 こうなんだって、女子が男子の部屋に上がりこむのは特に問題されないような気もするのに、男子が女子の部屋に入るのは途端に怒られるの?差別だよ?

 それはそうとして、美沙輝の部屋に入る前に制服から着替えたいとの申し出だ。


「別に制服のままでいいだろ?」


「なんで家で制服でいなくちゃいけないのよ。あんまり好きじゃないのよ」


「可愛いと思うけどな。美沙輝の制服姿」


「あんたはよくもまあ、堂々とそんなことが言えるわね」


「お世辞じゃないぞ?」


「それも知ってる。だけど、制服でいる気はないから」


「手短にな」


「1時間ぐらいそこにいなさい」


 なんで案内されて部屋の前で1時間もほっぽり出されるのか。家族の方がいらっしゃったら何事かと思うよ。弁明しなきゃ俺は不審者扱いだよ。

 ただ、驚くようなことはないし、探索と称して家を徘徊するようなこともない。ごく一般家庭である。アリサちゃんのようなお宅が近場に何軒もあったら俺たちってなんだろうって自己嫌悪になります。ママン、稼いでるんだからなんとかしてよ。

 あくまで服のデザイナーだから家のデザインにうるさくないだとかなんとか理由をつけていたような気もするが、確かに慣れ親しんだ家から急に大きくなるのも足元がフワフワして落ち着かないかもしれない。

 そして、今も誰か来るんじゃないかってフワフワしてる。そして、そわそわしながら廊下を行ったり来たりしている。


「何してんのあんた。こんな暑い中筋トレ?」


「うん……なんか暑いの忘れてた」


 最終的に奥の方でスクワットをしていた。運動はしないとな。


「タオル貸してあげるわよ。……と、ほら」


 タオルを投げ渡された。


「なんだろ……なんか落ち着く匂い」


「柔軟剤か洗剤が同じなんじゃないの?恵ちゃんに気遣ってかあんたもなんか女の子的な匂いがあるし」


「でも、恵とは圧倒的に何か違うんだが」


「それはあんたと恵ちゃんの話なのか、私と恵ちゃんの話なのかどっちなのよ」


「……どっちもかな」


「なんか恥ずかしいから返しなさい」


「汗を垂らしてお前の部屋に入っていいのか」


「やっぱちゃんと拭いてから入って。今クーラー点けたところだからまだ涼しくないけど」


「なんかすまんな」


「だが扇風機はやらんぞ」


「蒸されてるような状態で待ってた俺になんて仕打ち!」


「……逆のほうがいいか。そのまままた汗が吹き出てもアレだし。もう少しタオル貸してあげる。帰るときにちゃんと返してよ」


「洗って返すぞ?」


「なんで自分ちのものを人の家に持って帰って洗濯されなきゃいけないのよ」


「ごもっともだな」


「で、アルバムだっけ」


「ある場所覚えてんのか?」


「むしろあんたは覚えてないわけ?」


「なんか前〜に仕分けと称して捨てたような気も……もしくは衣装部屋と称したただの物置部屋に突っ込まれてるか」


「あんたの部屋わりかし片付いてるのに」


「いや、な?考えてみろ。親はいない。妹はアレだし……俺がやるしか選択肢が残ってないんだよ」


「その消去法的な理由だったのかい。汚いのが落ち着かないとかじゃなくて」


「美沙輝は綺麗好きっぽいよな」


「っぽいって何よ。綺麗な方が気持ちいいでしょ?」


「散らかってる方が落ち着くうちの妹みたいなのがいてな……」


「だからひたすら案内されるのがあんたの部屋なのか……納得したような、あとあの子は女の子としてそれでいいのか不安になるんだけど」


「美沙輝からも言ってやってくれ。やっぱり性別が違うとどうにも考え方に誤差が生じる。あいつは俺の真似をして成長したような気もするが、実は何も真似できてない」


「まあ……見てれば分かるけど……本質的なところは兄妹よ。やっぱり」


「似てるか?」


「私から見たらね。はい、アルバムあったよ」


 発見したアルバムを俺に手渡す。思ったより重量感があった。小学生にこんな重いもん渡すなや。思い出いっぱいか。俺はほとんど覚えちゃいないけど。


「……俺さ」


「ん?」


「特に思い出に浸りたいとか考えたことなかったからアルバムとか開いたことねえんだよ。中学の時もきっとどこかに眠ってる」


「ふーん」


「美沙輝はちゃんとどこにしまったか覚えてて、ちゃんとら中も確認したんだろうな」


「普通は見るものじゃない?」


「なんだろうな……自分が写ってるのを見るのが嫌なんだ。自分自身が好きになれなくてさ」


「あんまり自分に自信持ってるって人もいないと思うよ」


「そう考えるとTVに出る人って凄いよな。俺ならバッシングに耐えられない」


「豆腐メンタルか‼︎」


「俺、意外にメンタルは強くないぞ?」


「なんとなく、表に出さないけど裏でイジイジしてそう」


「大体そんな感じ」


「それで恵ちゃんには心配かけたくないから見栄はって、誰にも話さないで時間が解決するを待つわけだ」


 どこまで人を見ているのだろうか。大体合ってるからなんとも言えない。前は自分で解決出来ないまま、それでも解決方法を探して、でも一人だったらそれを実行しないままだっただろう。


「はあ。相談ぐらいなら乗るっていうのに。この強情めが」


「女子に弱いとこ見せたくないんだよ。それこそただの見栄だけどな。お、美沙輝発見。可愛いな」


「小学校の頃を褒められてもなんだかな……」


「今も褒めることはいくらでもできるがどうする?」


「だからあんたの発言は軽いってみんなから言われんのよ。そういうのは本当に好きな子だけにしてあげなさいよ。ちゃんといるんだから」


 アルバムのページをめくりながら叱りつけるように言った。

 女の子を立てればいいってもんでもないらしい。親父、あんたの教えあんまり役に立ってないぞ。それ以前にどうやって母さんと結婚できたのか知りたくなるレベルだ。逆に母さんの方から行ったのか?

 まあ、親のことなんてどうでもいいや。


「博愛主義は拒絶されてしまう世界なのか」


「なんかあんたのは博愛というか周りを勘違いさせるからよろしくないんじゃないの?」


「でも、俺、それなりに見れる顔だよな?」


「顔だけで判断はしたくないけど、確かに容姿に問題があったら通報レベルよね。酷い世の中ね。今から通報しても一向に構わない?」


 構うよ。なんで自然な流れで一杯いっとく的なノリで通報されなきゃいけないんだ。

 確かに美沙輝の家だから不法侵入とか言えば俺はお縄です。やめてください。


「やっぱり相談相手を間違ったか」


「そう落胆するでない。小学校から一緒で、時間に都合がついて、かつ仲のいいやつを探してみろ」


「だからあんたを選んだんだけど……なんかこう腑に落ちない」


「お、そういや一年生は近くの公園に行ったな。学校からやけに遠かった気がする」


 アルバムを見ていてなんとなく見覚えがあったのでそんな感想を言ってみた。


「やってみる?」


「学校から公園まで歩くのをか?」


「アルバムは持って行きましょ。ほら、出発」


 やけにノリノリだが、まあ美沙輝に付き合うと言ったので言うとおりにしてみよう。

 しかし、これ全部やる気か?終わらんぞ。


「ほら早く」


 急かす美沙輝をたしなめる気も起きず、そのまま腕を引っ張られ外へと出ることになった。

 外が炎天下なことも忘れて。

 梅雨も明けて、太陽が照りつけて、日差しも眩しい。

 そして、美沙輝さんの薄着も眩しい。


「なんか家にいるのを見るのと、外で見るのとではなんか違うな」


「なんの話?」


「なんでもない」


 美沙輝はアリサちゃんを見て落胆していたが、出るところ出てるし、ちゃんとメリハリの効いた、ウチの妹とは大違いの体型である。

 もちろん口に出して言うのであればボッコボコにされるのは目に見えているので口には出さない。


「美沙輝は浮いた話の一つや二つないのか?」


「あったらどうするのよ」


「美沙輝が選んだやつがどんな奴かは気になるよな」


「普段、あんたといるせいであんたと付き合ってるの?としか聞かれないのよ……」


「なんと」


「 天地がひっくり返ったらありそうな確率だけど」


「それ、何パーセントなんだ?」


「さあ。スマホのゲームで無課金で一番いいレア度のものを当てるぐらいの確率じゃない?」


「金に物を言わせればいいんだな?」


「あんたが」


 無理だな。俺がそんなものに金をかけると思ったか。しかも無課金って前提条件を加えらたからな。でも、一人ぐらいそんな奴もいるかもだし、ならば天地がひっくり返るぐらいの出来事が起きてもおかしくないな。


「起きたら重力とかどう処理すんだろ」


「起きないから安心なさい。私があんたと付き合わないのは恋人って意味合いだから。友達ならどれだけでも付き合ってあげるわよ」


「なんか下手な男子よりすげえかっこいい。泣ける」


「泣くんかい」


「だって、俺の友達変な奴しかいないから普通の友達が美沙輝でよかった」


「友達の枠組みがそうだと私もそのカテゴリーに入らない?」


「じゃあ親友」


「私は心配ね……」


「何が?」


「あんたがいつ狼になるか」


「月が昇ったらかなぁ」


「あんたの家に泊まりたくないわね」


「え?もっとツッコミ入れるところあっただろ」


「ツッコミ待ちだったんか。私がそんなにしょっちゅうツッコミ入れるの思うな。あんたとコントしてる間に時間は過ぎてくのよ。そうするとあんたを束縛してる時間が無駄にかかるのよ」


「こういう無駄な時間も後になって思い出に変わるもんだぞ。俺的にはあんなバカがいたなってぐらいでも覚えててもらいたくてな」


「あんたは本気なのか道化なのか分かんない」


「誰かが楽しんでくれるなら道化で構わないさ。今日はお前を楽しませるために同行しよう」


「金は払わないわよ」


「いらねえよ」


 本気で道化を演じるのか、下手に道化を演じるのか。

 下手な道化こそ滑稽なものもない。相手も自分も笑えない。笑えないのは自分だけで結構だ。

 まずは相手に楽しんでもらわなきゃな。

 俺たちは美沙輝の探し物を見つけに炎天下を歩き出した。

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