点数という絶対的評価
どこかで言ったかもしれないが、俺の成績は大変よろしく、一部の授業態度を除けば、優秀な模範生徒なわけである。
だからその一部の授業態度を改めるように担任から言われたわけだが、定年間近のおじいちゃん先生の授業を真面目に聞けるかどうかと言われたら、興味のない科目なのでNOと答えるのである。三年生になったら本気出す。
しかし、提出物は全部出しているのが、平常点はないに等しくも感じてきた。妹に満点とか言っちゃったけど、ゴメンね、お兄ちゃんそんないい子じゃないんだ。サボってるわけじゃないから許してクレメンス。
そんなことはいいのだが、今何をしているかというと、妹の先生方からの評価が如実に現れる、というか絶対的評価の通知表を見ていた。
そう言っても点数と順位が載ってるだけなのだが。
「あまり……芳しいとは言えないな」
「どういう評価の仕方だったっけ?」
「0〜29が1,30〜49が2,50〜69が3,70〜79が4,80以上で5だ」
「4の振り幅少なくない?」
「正直な話は俺もあまり覚えてない。俺オール5だしな」
「くそ〜お兄ちゃんがイヤミたらしいよ」
「シェー!」
「それはおそ松くんに出てくるイヤミだよ」
「よくわかったな」
恵はまあ、ほとんどが3。時折4が出てきて、数学だけ5という評価だ。お兄ちゃんの愛のムチが結果に出たな。
「そういや、俺、お前の返ってきたテスト見せてもらってないぞ」
「香夜ちゃんに取られました。私のテストは全部香夜ちゃんが管理してます」
「兄を差し置いて、友人に取られるのか……」
「あれ、お兄ちゃんが香夜ちゃんの家に来た時あったでしょ?その時」
あの時、テストを見直していたという話は嘘ではなかったのか。そのまま回収されてるのもどうかと思うのだが。
「まあ……1だと再試あったりするからな。周りも酷いと相対評価で点数が上がったりするがな。そして三学期に再試も受からず1を取ると留年する」
「何ですと⁉︎」
「受かるまで付き合ってもらえるから安心しろ。この成績なら留年するようなことはなさそうだけどな」
「引き続きお願いします」
「でも困ったら行くとこは香夜ちゃんなんだよな」
「やっぱり女の子同士の方が……ねえ?」
何に対しての同意を求めてるんだこいつ。お兄様では信用なりませんか?
「お兄ちゃんはお兄ちゃんでやることあるでしょ?」
「香夜ちゃんも香夜ちゃんでやることはあるけどな」
「最近香夜ちゃんはお弁当を作りたいそうなのですよ」
なんか唐突に話題変更に入った。正直な話は成績に関してガミガミ言うほどでもなかったので別にここいらで終わっても全然構わないのだけど。
「普段どうしてんだ?」
「うち一応学食あるじゃん」
「ああ……俺使ったことなかったから存在忘れてたわ」
「やっぱりお金かかって大変だから自分で作ろうと思ってるけど、香夜ちゃん朝が弱いから作れる時間に起きれないんだって」
「俺が作ってやろうかしらね……」
「多分香夜ちゃんとしてはお兄ちゃんに作ってあげたいんだよ、きっと」
「香夜ちゃんの手作り弁当か……」
何度か見てる光景ではあるが、香夜ちゃんが制服にエプロンを付けてキッチンに立ってる姿を想像してみると顔がどうしてもニヤけてしまう。すごく可愛い。ただ、本人に料理のスキルがあるとは言ってない。
「お兄ちゃん。顔が気持ち悪いことになってるよ。ひいては、私のお兄ちゃんの顔が気持ち悪いって言ってるから、兄妹である私もニヤけまくったら同じようにこんな感じなんだろうなって考えるとなんか複雑な気分だよ」
恵に指摘されてニヤけるような妄想をやめることにする。かと言って、すぐに消えるわけでもないのでニヤけていた顔がすぐに戻るというものでもない。
「ん?そういや、香夜ちゃんが制服でエプロンつけてるの見たことない」
「何を考えていたのかと思えばそれなの?」
「うちに来る時は私服だしなあ」
「そもそも私服の女の子を見ること自体の方が稀なわけですけど」
「彼女でもできれば見る機会はあるだろ」
「お兄ちゃん、香夜ちゃんにフラれたらどうしようもなくアテがなくなるよね」
「ぐっ……か、香夜ちゃんはそんなことしない子のはず……だ……」
「苦しそうなのが必死さを象徴してるよね。別に今も付き合ってるわけでもないしね。彼氏、彼女の関係ではないのですよ」
「何なの?お前はお兄ちゃんいじめて楽しいの?」
「いつも言われっぱなしだからたまには何か言ってやろうかと。日頃の鬱憤を晴らすために」
「ゴメンな……お前にそんなストレスとなってるとは思わなかったんだ」
「ま、まあ……私の大変さがわかってくれてるならそれで……」
「お前、能天気すぎるからストレスとかないもんだと」
脳天チョップを食らった。初めて妹から暴力受けた。
妹にも殴られたことなかったのに!
そりゃそうですね。今日初めてやったんですもんね。
「オチをつけないと気が済まないの⁉︎」
「どっかで同じようなセリフを言われたような……どこかで区切りをつけないと切り上げられないだろ」
「お兄ちゃんのはオチじゃなくて一言余計なんだよ……」
「きっと一言余計なのはお前だけ。主従関係は美沙輝だけ。持ち上げまくるのは香夜ちゃんだけ。絶妙に意気投合するのはアリサちゃんだけ」
「多いよ」
「ひとつ言い忘れてたことがあった」
「また唐突に……なんなの?」
「合宿の行き先聞いたか?」
「いや。でも、楽しそうなところになりそうだぞ、って天王洲先輩から聞いた。お兄ちゃん知ってるの?」
”楽しそうなところ”は天王洲先輩にとっての話であって、それが万人に該当するわけではない。
俺から話してやってもいいが、こいつ大概口軽そうなんだよなあ。香夜ちゃんのことはずっと黙ってたけど。
いや、もっと口軽そうなのうちの部にいるし、その子が発信源なんだけど。
俺がいいと言ったとはいえ、まだ候補を探すんだろうか。後で連絡しておこう。
「ちょうどいいやお兄ちゃん。部屋片付けるの手伝って」
「自分でやれや」
「いじわる」
「お前の部屋が使えないっていうから俺の部屋で話してたというのになんという言い草。……仕方ねえな。手伝ってやるよ」
「やった!お兄ちゃん大好き!」
「はいはい」
テストの点数はそのとき取ったもので絶対的なものだが、俺の妹に対する評価を点数で表すのならばそのときの妹の態度ですぐに変動するのだがな。
100がマックスなのでそれを超えることはないが、いつでも90点以上の高得点である。
俺の中では、だけど。
身内びいきのせいか、懐いて、甘えてくれるせいか、そんな妹が可愛くてしょうがない。だから、いつも頼まれたら押し切られてしまう。
いつか、そんなこともなくなるのかもしれないけど。それはそれで寂しいことなんだろうな。
そうだ、片付けの前にアリサちゃんに聞いておくか。
俺はポケットのスマホを取り出して、アリサちゃんに連絡を取ろうとした。
ホーム画面に切り替わると何か一件メールが届いている。
なんだろうと、俺はそれを開いた。
美沙輝からだった。
『今週の土曜、空いてる?』
なんか珍しいお誘いのメールだった。バイトも夕方からだし、昼ぐらいまでなら大丈夫、と返信した。
「なになに?お兄ちゃんどったの?」
「いや、何でもない。早く片付けるぞ」
「なんかエッチなサイトにでもリンクしちゃって迷惑メールでも送られてきた?早く50万払えとか」
「そんな催促メールはブロックしてる」
「前は来てたのか……クリックしてしまったのかな?」
「やかましい。色気のかけらも見せないような妹に言われたかない」
「私だって脱げばそれなりに……」
「ここで脱がんでいい」
「興奮しちゃう?」
「しないと思うが、万が一そんな状態で誰かが尋ねてくるという漫画的展開が繰り広げられたら面倒だろ」
「来るとしたら香夜ちゃんだよね」
「今日はバイトだって言ってたから来ないとは思うけどな……」
「で、さっきのメールは何だったの?」
何でメールだって分かってんだよ。蒸し返すな。言えばいいんだろ、この妹は。
すげえ、期待の眼差しで見られてるのがどうにもいたたまれないが。そんな面白いことでもなさそうだし。
「美沙輝からだよ。今週の土曜暇か?って」
「デートかな?」
「どうだろうな……。多分、俺に直接言わずメールしてきたって事は出来たらって感じで、かつ俺ぐらいしか興味なさそうなことじゃないか?」
「なんだろ?それ」
「そもそも俺、あいつの趣味が料理作りぐらいしか知らんのだが……」
「幼馴染が聞いてあきれるよね」
「うるさいわ」
次に美沙輝からメールが来るまで恵の部屋掃除を手伝ってやることにした。
あ、そういや晩御飯の支度もまだしてねえや。
相変わらず、段取りも目の前の作業もやることは山積みであった。




