三者面談
「なんで、あんたと前後なのよ」
「先生か、もしくは都合のいい時間をそこにしたお互いの親を恨むしかないな。俺に決定権があるわけでもあるまいし」
俺の方の親はまだ来てないが、美沙輝の方の母親がすでに来て椅子に座っていた。なんの話かって、夏休みに入る前に三者面談なるものがあるのだ。とても面倒です。俺の将来の夢はヒキニートです。
親父はともかく、母さんにはぶっ飛ばされそう。大学行ってやりたいこともないのだけど。
しかし、1年後、俺がなんらかの将来に向けて受験勉強をしてる姿が全くもって思い浮かばない。どうしたものか。
「育也くんだったかしら?いつも美沙輝がお世話になってるわね」
「いやいやそんなことは……」
世話になってるというかしごかれてる。
……とは、親の前で言うことはできまい。
「いつもあなたたちのことばかり話してるのよこの子」
「そんな話はこいつの前でせんでいい!」
「ただ、言葉遣いが荒くなってきてるのが不安なのだけど……いつもこんな感じなのかしら?」
お母さんが不安そうに俺に聞くが、基本的に言葉遣いが荒いのは俺の前だけです。後輩の前だと基本的にはとてもいい先輩です。後輩たちはとても美沙輝に懐いています。あくまで基本的になので、例外はあります。その例外は俺です。
「まあ……学校での評価は先生に聞いてください。俺よりは確実にいいと思うんで」
「あんたと比べられたくないんだけど」
「ですよねー」
「友達相手に何言ってるのかしらこの子は」
「俺たちは友達という範疇ではないですので」
「あらあらそんな関係だったの。美沙輝も言ってくれればいいのに」
「お前は微妙に言葉濁して発言するな!こいつには好きな子がいるの!それも私じゃないから!」
「ええ。俺たちは仲のいい席が隣で部活も一緒なお友達です」
「それは残念ね。この子そんな雰囲気全然ないから心配で……」
「美沙輝さんなら大丈夫ですよ」
女の子にモテますから。
「次どうぞ」
先生から呼ばれて宮咲親子は教室へ入っていった。まーだなんか美沙輝の方は俺を睨んでいたけれど。
本来ならば俺ももう少し遅く来ても良かったのだが、前のやつがつっかえていたのか、待っている美沙輝とかちあったので相席させてもらったのだ。ただ、美沙輝の番となってもうちの親は一向に現れないが。
恵と前後にしたので恵の方で時間を食ってるのか、もしくは俺の存在を忘れ去って帰ったか。
後者だったら酷すぎるな。別に二者面談でも構わないけど。なんなら面談なんて行わなくても結構なんですけど。
「帰ろう……逃げるぜ」
「そうは問屋が卸さん」
「……ですよね」
階段に差し掛かったところで逆に上ってくるスーツ姿の男がいた。
先生だったら分かるので、誰かの保護者という選択肢になるのだが、この誰かというのは何を隠そう俺である。
「恵は……どうだった?」
「入学当初より成績が格段に伸びててこの調子で頑張ってほしいとのことだ。……ちゃんと面倒見てくれてるんだな」
「……俺だけじゃないからな。あいつにもたくさん友達、高校入ってから出来たんだ」
「お前は、どうなんだ?」
「……さあてね。気になるんなら1日でも家にいたらどうなんだ?」
「あいにく、俺は母さんより薄給でな。少しでも働かないと自分の食費すら危ういんだ」
「親父はバカスカ食い過ぎなんだよ。節制しろ。いつか糖尿病、脂肪肝、心疾患、何になってもおかしかねえぞ」
「そう言われては立つ瀬もないな。運動ができる時間もあまりないしな。育也、お前が俺の健康に優しい弁当を作ってくれ。恵の作ってるのならついでだろ?」
「やなこった。俺は恵には作ってやるが、親父に作ってやる気はさらさらありません」
「誰がお前たちを食わせてやってると思ってる」
「母さん……かな」
「うう……ちくしょう。母親より稼ぎの悪い父親で悪かったな」
「ぶっちゃければ母さんの稼ぎだけで食っていけるレベルなんだよな。親父は専業主夫にでもジョブチェンジしたらどうだ?息子に何でもかんでも押し付けてんじゃねえよ」
「?出来ているだろう?」
誰も何もやらないから俺がやるしかなくなってるんだよ。何で俺は学生なのにそんじょそこらの主婦以上のスキルを持たなきゃいけないんだよ。
「ということを踏まえて、一戦交えるのはいかがだろうか」
「学校で騒ぎを起こそうとするな」
背後からチョップが入った。
美沙輝が面談が終わったようで出てきていたのだ。ちなみに俺たちは椅子に座らず、お互い階段付近で対峙しています。親子で何をしてるんですかね。
「もう終わったのか?」
「特に言うことはありません。これからは進路を絞っていきましょう、だって」
「お前はなんかやりたいことあんのか?」
「んー、特にはないわね」
「そういや、お前のお母さんは」
「なんか聞きたいことあるって先生と面談してるわ。先生に聞いたところで何も出てこないけど」
「俺に聞いた方がポロッポロ出てくるぞ」
「ただ、よく話してる生徒とか言われたらあんたの名前が出てきそうでこっちは嫌だわ」
「だったら女子と話せばいいだろう。お前の右隣はそうなんだし」
「川上さん放課になるとすぐいなくなるのよ!どこにいるかもわからないし」
以前俺の相談事に乗ってくれた川上さん。図書委員なので大抵図書館に行けば会えます。どうやらこいつも知らんようだな。
「他のところに行くにもグループ出来上がってるから行きにくいし……」
「当てなくくる先が俺だったわけだな、悪かった」
「謝られるのも釈然としないのだけど……」
「なんだ育也。可愛い子いるじゃないか。彼女か?」
「「断じて違います」」
どうにも親というのは子供が異性といたらくっつけたいらしい。当人はもちろん相手だって迷惑だろう。
「全く、可愛げねえなこの息子」
「娘が可愛いんだからそれでバランスが取れてんだよ」
「だって恵は好きな人はいるかって聞いたらお兄ちゃんって言うんだぞ。お父さんは悲しくてなあ」
「……あんたすぐでしょ。部室行ってるから終わったら来なさいよ」
「わーってる」
美沙輝はこの場にいることを嫌ったか、部活へと戻っていった。俺たちは部活途中で抜けてきているのだ。別に抜けようがたいした活動していないので問題はないのだが。
「お前、テニス部って言ってなかったか?あの子も同じ部活なのか?」
「……今は訳あって料理研究部入ってんだよ。別に母さんには言ってあるし、これは恵のためなんだ」
「……お前が選んだことならお父さん何も言わなけどな」
「おい、佐原。いるなら入ってこい」
階段付近にいたせいで担任が呼びに来た。親父との会話は一旦ここでストップする。
まあ、普段姿を見せないが、こういう保護者が必要なことは大概親父が来る。そのために親父は身を粉にして働いていると言っても過言ではない。働きすぎだと会社からも言われるぐらいだとか、という話であるが、こういう時に都合が空けられるようにしているとのことだ。
「さて、こんにちは」
この挨拶は俺にではない。親父にだろう。わざわざ俺に対して挨拶をする必要性はない。
親父だけ頭を少し下げた。
親父が顔を上げたところで担任は話し始めた。
「まずは、今学期の成績通知ですね。成績自体はとても優秀で、学年……というと少し齟齬がありますがまあ、ほとんどトップと言っても間違いではないレベルです」
以前行った通り、進学組と就職組と分かれており、さらに文系、理系と進学組では分かれるので単純にトップとも言い切れないのだ。
あの席順はどうしたのかって?共通科目はあるからそれで算出した結果だ。
「しかしですね……」
「息子が何か?」
「いえ、少しばかり授業態度がよろしくないようで……私の担当は体育ですので座学の方はよく分からないのですが、他の担当の先生方からあまり良くない評価ですね」
「だって、話してる内容がつまんないですもん。ちゃんと点数は取ってるじゃないですか。情報の取捨選択をしてるだけです」
「と、まあ、ああ言えばこう言うので」
「子供だってことです。先生だって、子供の頃は何か言い訳をしなかったことはありますか?」
「……絶対ないとは言い切れないですね。ですが、これから社会に上がっていくにつれ、今はこれでも許されますが、上とも上手くやらないと淘汰されていくのが社会というものです。お父さんもそういう立場になられたことはあるでしょう?」
「お言葉ですが、私は自分がそうだったからといって息子にそうあれと言うことはないです。今日はこうやって来てますが、普段は息子は……妹と2人だけで生活してます。それで成立しています」
「彼は、もう十分成長している。私たちが口出しするようなことではない、と?」
「そう聞こえましたか?それならばそれでもいいです。そうですね、先生方は逆転の発想をするべきですね」
「ほう?と、いうのは?」
「まあ、先生は体育の担当と仰られてましたから、体を動かすことが基本である授業ですし、運動が苦手な子でも動かなければいけない。暇を持て余して寝てしまうなんてことはないでしょう。ですが、座学である授業はどうでしょう。数学や物理、化学といった計算式で頭を働かせなければいけない科目ならともかく、国語全般、歴史など、特に自分が興味ある科目ならともかく、特にないけど受けなきゃいけないという生徒にとってはただ、教科書の出来事をなぞらえて説明しているだけです」
「退屈になって眠くなってくる、そう言いたいんですか?」
「そうなるかどうかは時間帯と教師の腕の見せ所ですね。やはり、聞いていて面白い、聞きやすいという授業はあるわけですよ。育也、お前、好きな科目と苦手な科目、その理由言ってみろ」
「好きな科目、数学全般。理由は単純に得意だから。苦手な科目は古文、歴史全般。理由は過去のことを学ぶことに意義を感じられない」
「……腹が立つことにこの子はこう言ってるにもかかわらずその科目トップなんですよね」
「お前、文系選択だったか?」
「別に理系でもセンター科目だし選択出来るんだぜ?」
「そういうもんなのか」
「そして、授業態度が悪いと言われる科目が古文ですね」
「いや、俺だけじゃないでしょう。受けてるやつの三分の一は寝てますよ」
「……俺からは何も言わん。寝てるやつは成績が悪いみたいだからな。お前は寝てて成績いいんだから目をつけられるんだ」
「理不尽な話ですよね」
「理不尽なのはちゃんと起きてて授業受けてる子たちだと思うんだがな」
「先生は俺にどうして欲しいんですか」
「せめて、ちゃんと起きててくれればなんも言わん。他の生徒は寝かけたら起き上がるが、お前はそのまま熟睡し始めるからいかん、とか俺が小言を言われるんだ」
「古文の先生はもっと広い心を持つべきですよね。御年はいくつでしたか?」
「確か来年定年だった気がするが……」
「きっと先生は僕が卒業するときに涙を流すでしょうね」
「もうお前を相手しなくていいという感動からだな」
なんてことを言うんだ。
「とりあえず、この話は授業中に睡眠をとるなということだ。寝不足なら理由をちゃんと言って保健室行け」
「じゃあ、この場で言っておきます。学校帰ってから親が不在なので俺が全部家事やって、妹の勉強見てるので毎日寝不足です」
「……お父さん?」
目を背けんな親父。
「正直、親父より身を粉にしてる気がします」
「お父さん、お母さんの方は……」
「業界じゃ有名なファッションデザイナーでして……ずっと出突っ張りでしてね……」
「……佐原。お前はそれでよく成績残せるな」
「地頭がいいようです」
「自分で言うな自分で。大丈夫なのか?」
親から心配されないのに教師から心配されるんですね。こういうのは他人からの方が可哀想に映るのだろう。ただ、最近は短縮化の成功をしたので12時には寝れるようになったよ。起きるのは5時だけどな!高校生って素晴らしい。
「じゃあ……大丈夫ってことで……お前が卒業したら妹さんはどうするんだ?」
「大学生の方がきっと今より暇ですし、今よりできること増えてると思いますし、よほど大丈夫だと思います」
「そうか。じゃあ、佐原はこれで最後だ。進路は何か決まってるか?料理研究部だったか?なら栄養士とかそういうのはどうだ?」
「まあ、そういうのはまた考えていきます。俺はそんな将来より目の前にやりたいことが山積みなんでおいおい決めていきます。じゃあ、それでは。親父と心ゆくまで話してください」
もういいぞ、と言われる前に俺は出て行くことにした。話すことは話したが、親父が改善してくれるとはとても思わない。
俺?自由気ままにやります。古文の授業は限界まで寝ます。
よーっし、みんなに会いに行くぞー。
そういや、後輩2人はどうだったんだろうか。




