8話:星の下にて
今日は遅くなると恵から連絡を受けた。
部活で夜までやるそうだ。
天文部ともなればやはり天体を見なければだしな。必然的に夜に活動を行うことになる。
天文部のみ金曜日の夜間の部活動が認められてるそうだ。
まあ、時間は9時までらしいけど。
「それで、君も妹の付き添いってわけかい?佐原」
「なんか苗字呼ばれるの久しぶりだな」
「そういえば後輩の女の子連れ回してるらしいじゃないか。新入生にいきなり唾つけてんのか?」
「ちげえよ。どっちかといえば振り回されてる方だしな。女の子は強いわな」
「まあ、妹にベタベタなやつが女子を手玉にとる姿が想像できんな」
今話してるやつは天文部部長の矢作光流。よく考えたら同じクラスのやつが部長をやってるのだ。それぐらい知っとけという話だけど。
「なんで、お前が部長なんだ?三年いるだろ」
「天文部は代々二年が部長やるんだ。3年はサポートに回れるようにね。ま、実質新入部員に教えるのは3年の役目だから部長なんて名ばかりだよ」
「そういうもんか」
「お前は興味ないか?」
「こんなん暇潰しに眺めるぐらいがちょうどいいだろ。わざわざ、見えた星がなんだってやるほどじゃないな」
「それがやりたくている天文部に対する挑発か」
「別に否定するわけじゃねえよ。俺がそうだってだけだし。実際天文学者とかはいるわけだし。あれ、すげえよな。天動説じゃなくて地動説唱えた人。えっと……誰だったか」
「ガリレオ・ガリレイだな。だけど、最初に唱えたその人は天動説を信じてた人からその説を廃棄しないと処刑するとか言われたんだけどな」
「へえ。で、どうしたの?」
「一応取り下げたよ。その時は。でも、その後も公にはしなかったけど地動説をずっと研究してたらしいな」
「いつから地動説が信じられるようになったんだ?」
「1992年。本当に最近のことだ。というのは、カトリックが正式に天動説を撤廃した、という意味でだけどね」
「なんで認めたんだそれ」
「色々計算式を成立させたらしいよ。というのも認めさせるためにはそうするしかなかったんだろうけどね。アイザック・ニュートンは知ってるだろ?」
「ああ。物理でよく出てくるよな。万有引力だったか?」
「そう。それで、慣性の法則とかが証明できた。ま、他にも色々あるけど、そこまで証拠を揃えられてはいつまでも間違いを掲げてるわけにもいかないしな。だから、未だ地球が太陽の周りを回ってると知らない人もいる」
「俺たちにとって常識だと思ってることも周りにとっちゃ違ったりするんだな」
「そういうことだ。例えば、あそこの星が金星だ、といってお前はわかるか?」
「さっぱりだな。確か一等星だったか?一番地球に近くて明るく見えるとかって」
「それすらも違うのかもしれないしな」
「なんだよ」
「宇宙の光は地球からかなり離れてるからかなり遅れて届いてるってことは知ってるよな?」
「ああ」
「だからその金星の光も遠い過去のものでもしかしたら、今この瞬間に金星は消滅してるかもしれない」
「面白い話だな」
「ま、空想を語るのも楽しみなわけだ」
「その楽しみ方を妹に教えてやってくれよ。だが、あいつは天文学的レベルでバカだから今の会話が理解できるかは俺からは同意しかねる」
「お前の妹っていうぐらいだから頭いいのかと思ったけどな……」
「家族ぐるみで甘やかしすぎたんだ」
「で、今日もそれか?」
「いや、そういうわけじゃねえよ。あいつ飽き性で投げ出す癖があるからな。何やらしても長続きしないんだよ。その日を生きるを体現しやがるから。せっかく入るなら3年間続けて欲しくてな」
「初日から逃げ出さないようにするための監視か」
「でも、天体観測は週一回なんだろ?」
「これは夜間だからな。参加したい人だけだ。でも、望遠鏡を使って星を観察できる機会なんて滅多にないから体験入部の期間はほぼ毎日やってたんだ」
「それで興味を持って入部してくれたらって魂胆か」
「なかなか週に一回だけって言っちゃうと入る人も少ないけどな」
「今何人ぐらいだ?」
「二、三年は合計7人だな。二年が四人、三年が三人だ」
「それなりにいるんだな」
「だけど、常時五人以上居ないと翌年同好会か廃部だからな。そうなるとこうやって夜間の天体観測はできなくなる」
「そのへん融通きかねえんだな」
「だから、一人でも多く興味を持ってもらえると嬉しいんだけどな……」
頭をかきながら、空を見上げる。
今日はそこそこ晴れているので星は見えている。
そこまで田舎、というわけでもないのですごく空気が澄み切っていて満天の星とは言えないけど。
確かに、夜空の星というのは心が奪われる。
暗闇の中に誰にも邪魔されずに光ってるというのがいいのだろうか。
でも、その光も一つ、二つ、点々とあるだけじゃ色気はない。
たくさんあって初めて心が奪われるのだ。
「なあ、天文部って合宿とかすんのか?」
「ん?ああ、年二回する。夏と冬だ」
「冬じゃ三年生受験シーズンだろうが」
「合格祝いも含めての話だがな」
「よかったら行ってもいいか?それ」
「はは。歓迎するぞ。せいぜい夏の大三角形ぐらい覚えておくんだな」
「デネブ、アルタイル、ベガ、だったか?」
「お、知ってるのか」
「有名だろ。それぐらい」
「なら、夏の星座を覚えておくと面白いかもな。何も知らないまま聞きながら見るのと、知っておいて発見するのでは楽しみ方が全く違う」
「なら、妹から聞いて覚えようかね。お前も部長ならちゃんと教えてやってくれよ。途中で音を上げたらビンタだからな」
「そのお前の妹の足らなさを知りたいのだが……」
「お兄ちゃ〜ん。すごいよ〜見てみて〜」
望遠鏡を覗き込みながら恵が手招きするので、そちらへ行くことにする。
妹の足らなさは……まあ、後々知ってもらおう。
好きなものこそ上手なれっていうし、もしかしたらこれは覚えが早いのかもしれない。
「……なあ、佐原」
「あん?」
「あわよくば、お前の妹と付き合えたりするのか?」
「俺の目があるうちは無理だな。プロマイドは提供してやるからそれで我慢しろ」
「妹のプロマイドを提供する兄って聞いたことないぞ」
「税込で1500円な」
「金取るのかよ⁉︎」
「アイドルだからなあいつ」
「え?マジで⁉︎」
「嘘だが」
「なんだよ……ちょっと信じちゃったじゃねえかよ……」
「アイドル的存在だ」
「まあ、それなら分からんくもない」
「ちょっとギリギリなものもお渡し可能だ。その場合値段は釣り上がるが……」
「親友と呼ばせてくれ」
妹で釣りたくなかったのだが、意外にお熱だな?
カマかけまくってるけど。
「じゃあ、成功報酬だな」
「成功報酬?」
「あいつはお前は知らんだろうが相当なポンコツなのだ。だから、俺が世話を焼いて一人前にすることにした。俺が後輩の女の子を連れ回してるという噂はそれに付き合ってもらってんだ」
「そこに話が繋がるのか」
「ただまあ、部活もやるとなると難易度は格段にあがる。運動部なら体力をつけるといった面でそこをクリアーできたのだが、文化部だしな」
「そういや、佐原。お前、テニス部に入ってたんじゃなかったか?」
「妹の世話を考慮してやめた。今は料理同好会だ」
「そんなもんあったのか……」
「俺も最初は家庭科部かと思ったんだが、うちにはないらしいしな……。実用的だし悪くないと思って入った」
「同好会というと人数が足りないのか?」
「そうだな。今、俺含めて3人」
「正式な部に昇格するにはあと2人必要なのか」
言い忘れていたが、この学校の部の規定人数は5人以上だ。それに満たなかったり、しっかりとした活動が見られないところは部から格下げとなる。
まあ、色々と学校が負担してくれてるものが実費になったりするのだ。
「というわけで、星のことを教えながら部活中だけでいいから勉強を教えてやってくれ。出来るだけその日にやった内容をやらせるとグッドだ」
「俺はお前のパシリか何かか?」
「妹の家庭教師的なものだろ」
「ちなみに部活は週2日だ」
「もっと精力的に活動してくれよ……」
「1日、この星座を探そうというのを決めて、1日こうやって天体観測をするんだ。それだけのことだからな」
「何かコンテスト的なものはないのか?」
「そういう部活ではないんだよな。まあ、精々文化祭にプラネタリウムを作ったりする程度だな。うちのは毎回凝ってて話題なんだが、お前知らんのか」
「俺の食指が動かなかった」
「お前のはすべて食い気に変わりそうだな」
「だけど、高くね?文化祭」
「町の夏祭りだってそんなもんだろ。それと一緒だ。祭り気分を楽しむものだろ」
「あれって、絶対やってる側の方が楽しめるよな」
「それはそれで置いておこう。分かった。部活にいる間は俺が面倒を見よう。ただ……」
「ただ?」
「あ、いや、先輩でちょっとな……」
「いや、そんなガチムチ系やナンパ野郎がいるわけじゃないだろ?」
「二次元オタクと趣味は天体観測と釣りの人だが」
「なんだよ、フィッシング部にでも行けよその人」
「二次元オタクにはツッコまないんだな」
「今時珍しかないだろ。アニメやら漫画やら18禁ゲームやってるぐらい」
「なぜそこで普通にゲームじゃなくて18禁になる」
「二次元オタクっつうから。ギャルゲー的なアレかと」
「線引きはできてる人だし、厄介かのが、無駄にイケメンなところなんだなあ」
「どの人?」
「その人は後にするよ。後一人が問題なんだ」
「呼んだかね?部長」
「いえ、何でもないです。先代」
「先代などとよそよそしい言い方はしなくてもいいじゃないか。よしりん♪とでも気軽に呼んでくれて構わないのだよ?私は」
「あの……あなたは?」
「ん?私は三年の天王洲美子だ。恵ちゃんの兄貴だそうだね」
「はあ……そうっすけど……」
「あの子はいいね……。純粋で何より可愛い。私好みだ」
「はあ……」
「先ほどの話は聞いていた。よければ、私に預からせてくれないか?」
「あ、いいんすか?」
「ちょっと待て!佐原!その人は……」
「お前が口出す権利があるのか?部長?」
「いえ……滅相もございません」
屈服した。何者だこの人。
「私も妹という存在に憧れていてな。後輩にも女子はいるが、そちらはそちらでもちろん可愛いのだが、どうもしっかりしてるから妹という感じがせんのだ。だが、恵ちゃんはその辺がストライクだ。何より、本物の妹だ。妹属性などではない。雑じり気ない本物だ」
「まあ……そうですよ」
「私が彼女を一人前にしてあげよう。ま、程々にしておかないと兄君の君が寂しがるだろうからちゃんと部活のある時だけだ」
「頼めるならよろしくお願いします」
「ほら、妹が呼んでいるぞ。一緒に見てやれ」
「あ、ありがとうございます」
なんか押し切られる形で頼む羽目になったけど、矢作のやつは何が言いたかったのだろう。いい人そうではないか。
少し、何かが引っかかり怪しい雰囲気があったが。
……杞憂であってほしいものだ。
俺は、妹と星を一緒に見ることにした。




