ミルキーウェイ
「んーと、七夕って何曜日だ?」
「そうですね~」
天王洲先輩に二人で計画立てろと言われ、早速天体観測の時に相談しようと思い立ったわけだが、香夜ちゃんさっきまで寝ていて終わる1時間前にようやく起きたのだ。そこから10分ほど経ってるが、まだうつらうつらしてる。大丈夫か?まだ、意識が鮮明じゃなさそうだから不安しかない。
「またにするか」
「行かないでください先輩~。一緒にいてくれるって言ったじゃないですか~」
「ぐっ……」
まだ寝ぼけてるのか?さっきから寝るまでは確かにずっと甘えん坊だったがなんか加速してる気がする。いや、これはこれで全然アリなんだが、完全に目が覚めたときどうなるんだろう。
「そ、そうだ。恵のところで星見ようぜ。あいつも色々勉強してるみたいだからなんか教えてもらいながらさ」
「先輩も一緒に行きましょ~」
「ああ行くから」
なんか語尾が間延びしてる。香夜ちゃんの中に別人格入ってんのか?ってぐらいになんかふにやふにゃである。
「あ、お兄ちゃん」
「よお、恵」
「なんか……疲れてる?」
「お前にそれがわかるほどに疲れてるのなら俺はきっと疲れているのだろう。二重の意味だ」
「?」
「もう一人は織姫様だよ」
物陰から誰か出てきたと思ったら天王洲先輩だった。恵で見えなかったが、およそ望遠鏡の調整でもしていたのであろう。
「まあ、恵ちゃんにまだ謎かけは早いようだな。語彙が乏しい」
「謎かけ……ってなんですか?」
「例えばだな。さっきの少年のように疲れているといっただろう。これを別の漢字を使うと意味が変わるからな。幽霊とかに憑かれるという意味の憑かれるを疲労の意味とかけたのだ」
「???」
まだ混乱してる様子。また教えてやるとしよう。
「香夜ちゃんにも星、見せてやってくれないですか?ようやく覚醒し始めてるので」
「いいだろう。君はどうするんだ?」
「まあ、適当にゴミ拾いしてます。そろそろ終了でしょう」
「それは助かるね。頼んだよ」
「せんぱ~い。私と一緒にいるって言ったじゃないですか~」
「だ~め♪今からは私と一緒だよ。香夜ちゃん」
香夜ちゃんの方は恵に頼むとして、ゴミ拾いに回るとしよう。俺たちが持ってきたもんだし。
俺が開始すると、俺より先に始めてる人の姿があった。
「アリサちゃん。偉いな。自分からゴミ拾いなんて」
「私だけ何もしてないですし」
「何もしてないの同率どころかランキングではトップのやつは今も何もしてないけどな」
だから美沙輝に怒られてるんだと思う。
「そういえば私が入ってから初めて見ました。虚言とかではなかったんですね」
「存在しないものとして俺は扱ってたけどな。まあ、後で顔合わせぐらいはしとこうか」
「それにしても先輩。珍しく香夜ちゃんを連れてないじゃないですか」
「今ちっとばかし面倒な状態だから恵に預けてきた。下手にあれで覚醒したら後が不安なんだ」
「そういえば、香夜ちゃん寝覚めはあまり良くなかったですね」
なんで知ってるの?
「いつも起きてから15分は布団の中で篭ってからじゃないと起きれないって言ってました」
「じゃあちょうどよかったか。あの状態が記憶にあるかどうかが定かではないけど」
「どうなってたんですか?」
「甘えん坊だった」
「いつも通りじゃないですか」
アリサちゃんからの香夜ちゃんの評価ってそんな感じなの?
「香夜ちゃん、慣れた相手にはすごく甘えますよね。佐原先輩にはすごく顕著です。まあ、佐原先輩はそれが当然みたいになっちゃってるから気づいてないかもですけど」
「確かに……思い当たる節はあるな」
「じゃ、私も負けず劣らず甘えることにします」
「これ以上増えるのか⁉︎」
「イヤですか?可愛い後輩の面倒を見るのが先輩の仕事でしょう?」
「皆さん限度というものを知らないようなので」
「あれですよ。甘えて甘やかしてくれるからそうなっちゃうんです」
「可愛い女の子には皆平等」
「なら私もそうしてください」
「言葉の綾を取られてしまった。まあ、言うほどアリサちゃんは甘えてくるわけでもないし、どちらかと言えば美沙輝の方だろ?」
「私、あんなお姉さんが欲しかったです」
「そういや、上二人は兄だったか?」
「よく覚えてますね。まあ、どちらも私に構うことはほとんどなくなりましたけど」
「じゃあ俺が構ってやる」
「やったー」
あれ?乗せられてね?
「美沙輝の方も妹が欲しいって言ってたな。これで解決するな」
「わ、私が美沙輝さんのところの養子になれと⁉︎流石にそれは迷惑ですから」
「誰も本気でなれとは言ってないし、そんな存在がいたらな的なニュアンスだろ。俺の両手はもう手一杯」
「確かに手のかかる妹が二人もいてはそうですね。私は頭にでも乗ればいいですか?」
「俺の五体がどんどん侵食されていきますね」
「もう二人大丈夫ですよね?」
「体が動かなくなる。物理的にも精神的にも」
「だらしないですね。一夫多妻制の夢はどうしたんですか」
君に俺はそんな野望を打ち明けた記憶はない。ただの捏造である。いや、確かに誰かにハーレム計画もいいかもしれないとか言ったかもしれない。……誰だったか。
雑談しながらでも大したゴミの量ではなかったのですぐに片付けは終わった。
「そういや、アリサちゃんはどこで天体観測してたんだ?」
「給水塔あるじゃないですか。あそこで天文部の部長さんが見せてくれました」
「……少しでも高い方が見えるのかね?」
「上もいいですけど下もすごいですよ」
給水塔に上がる前に柵の近くの真下を見た。
「木しか見えん」
「真下過ぎです。どんなギャグですか。落としてくださいっていう格好ですか」
「流石の俺でも骨折は免れないな」
「佐原先輩自分の力にどれだけの自信を持ってるんですか。満ち溢れ過ぎです」
「全盛期なら海を割って歩くこともできたな」
「まさかの伝説レベルですか⁉︎先輩はモーセだったんですか⁉︎」
「そうだったらいいのにな……ってたまには思った」
「でも、正直海を割って歩いたところで、あまりメリットがあるようにも思えないですが」
「しかも、割って海の壁ができるって物理法則無視しまくりだしな」
「ていうか、佐原先輩。夜景見てないじゃないですか」
「君の顔の方が綺麗だよ」
「……佐原先輩。結構色んなセクハラを受けてきて、こういうのちょっとドキッとするかと思いましたが、ビックリするほど佐原先輩に合ってないです。ここまでとは思いませんでした。佐原先輩はセクハラ程度のセリフがお似合いです」
要するに低俗だということですかね?
「じゃあ、給水塔のほうに登るか。お先にどうぞ。レディーファーストだ」
「その心は?」
「アリサちゃんの縞パン見れればなあと」
「……やっぱり先輩はその方がお似合いです。まあ、正直に言わなければ見えたかもしれないですね」
「正直暗くて分からん」
「……嘘ですよね」
「世の中試してみなければ分からないことはある」
「いや試して、パンツ見れるかどうかってアホすぎますし、それを試そうっていう女子はまずいないです」
「試してくれないの⁉︎」
「真面目に言ってるんですか⁉︎」
真面目に言えば押し切れるかと思ったけど、そうでもないらしい。
「う〜でも、他の人が近くにいたら見られちゃいますよね」
「じゃあ、俺が真下につけば見えないだろう」
「先輩が見るじゃないですか」
「じゃあ両手で目を隠して」
「落ちますよ」
「仕方ない。さっさと登るから。アリサちゃんもすぐ来て」
「最初からそうしてればよかったのにこの出オチコントはなんだったんでしょう」
「俺は余計なことを挟みたがる癖があるらしい」
「まったくロマンの欠片もありませんよ。せっかくこんなに星が綺麗なのに」
「珍しく晴れたよな。夕方まで曇ってたのに」
「そろそろ梅雨明けなんじゃないですかね」
いまだいそいそと作業をしていた矢作を発見してそちらへと歩み寄った。
「熱心だな」
「女の子の下着を覗こうとしてるやつよりかはな」
「あら、聞こえてたの?」
「真下でコントやってりゃあな。でも、じき終わるぞ」
「こっちの方が綺麗に見えたりするのか?」
「気分的なものだよ。少しでも空に近い方が綺麗に見えそうな気もするだろ?」
「そんなもんか。……そうだ、この辺って天の川見れないか?」
「この辺か?見えるものなら今でも見えてんだろうな。見えないってことは街の光害で見えないんだ」
「じゃあ、もっと高いところか光がないところに行かないと無理か」
「前に連れてったところあるだろ?」
「あそこなら見えるのか?」
「天気さえよけりゃ見えるかもな」
「で、お前は望遠鏡にカメラ突っ込んで何やってんだ?」
「これで見えた天体が撮影できんだよ。今日は晴れたからな結構良いの撮れたぜ」
「へえ、今度見せてくれよ」
「お前、興味ないとか言ってなかったか?」
「別にあれやこれや討論するのが興味ないってだけで綺麗なものだったり、なんか珍しいものであれば普通に見たい」
「……じゃあ、また今度部室にでも来いよ。活動日は知ってるよな?」
「ここ2週間逃したら見れなくね?」
「だからちゃんと覚えておいて見に来いってこと。俺からは言わんからな。そうだ、アリサちゃん。あと10分ぐらいでよければ見てもいいよ」
「本当ですか⁉︎ありがとうございます!」
「……懐柔したのか」
「単純に興味があっただけじゃないのか?」
「……お前って朴念仁だよな」
「いや、お前ほどオープン過ぎるのもどうかと思うが……それに付き合ってるお前のとこの女子のメンタルとお前のメンタルはどうなってるんだ」
「え?俺がセクハラするのは後輩女子だけだぞ」
「宮咲に相談するか……お前のとこの後輩、精神的イジメ受けてるぞって」
「やめてください。向こうが訴えるならともかく、まだ許容範囲らしいので」
「大丈夫ですよ〜矢作先輩。その人ただのヘタレですから」
「だとよ」
「はい、ヘタレですが何か」
「ここまで堂々とした変態とヘタレを見たことねえな……」
「ありがとう」
「褒めてねえよ……」
「佐原先輩も一緒に見ましょー」
「はいはい」
「お前は後輩の女子には好かれるのな」
「同級生にはあしらわられるけどな」
「特定の人物にしか聞こえないのだが」
「俺の顔はそこそこ女の子受けしやすいらしい」
「妹可愛いのにお前の顔が崩壊してたら笑い話ですらないからな」
「だから俺はこれだけ言っておこう」
「なんだ?」
「俺だからこそセクハラ発言が許されている」
「事実だが殴っていいか?」
「どうぞどうぞ。あ、顔と腕はバレますのでお腹を重点的に」
慈悲のない後輩。part2。あ、俺が悪い?そうですね。
「俺の味方はいないの⁉︎」
「ヒャッハー!てめえに抵抗は許さねえぜ!」
「ふん!」
だが無抵抗でやられるほどではないし、文化部のこいつに負ける気はさらさらない。つーか、文化部のくせして血の気が多いな。ストレフ溜まってんのか?
あー勝敗?矢作君一発KOで沈みました。
「あれ?終わったんですか?」
「矢作君弱かった」
「矢作先輩〜。いざという時にそんなんじゃ女の子守れませんよ〜」
「ここの界隈はあれくれ族でも潜んでんのか、ヤンキーにでも絡まれんのか?」
「いえ、主に佐原先輩が絡んできます」
「そいつは……用心しないと……な……」
「息絶えました」
「処理の方は天王洲先輩に任せよう。あの人矢作のことは気に入ってるみたいだから」
「消去法ではなかったんですかねー。とりあえず私たちは望遠鏡片付けましょう。……あ、片付けるにしても部長さん伸びきってます。どうしましょう?佐原先輩のせいですよ」
「襲いかかってきたこいつの自己責任ではないのだろうか」
「では、はい。佐原先輩」
俺の両腕に望遠鏡を乗せられた。予想外に重かったが、これなら担いで行けるぐらいの重さか。あ、でもこれは矢作の私物ではないのだろうか。
……まあ、いいか。とりあえず持ってこう。
「また、曇ってきましたね」
アリサちゃんが誰に言うわけでもなく、独り言であろうが、そんな風に呟いた。
俺はそれを聞いて空を見上げた。
天の川……見えるかな。




