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7話:計画倒れな計画

 香夜ちゃんが最近俺の部屋に入り浸っている。

 とは言っても別に付き合い始めたとかそういうことではない。妹をどのように育成していくか、まずはその計画を立てなければこれは始まらないからこうやって集まっているのだが、かれこれ3日ぐらい難航を極めている。


「だから、こんなんじゃめぐちゃんすぐに根をあげますって」


「だけど、あんまり長いスパンで見られるわけじゃないから、少しぐらい詰めないといけなくないか?」


「それはそうですけど……」


「……恵のほうはどうだ?」


「私も別のクラスなので、細かく動向を見られてるわけではないですけど。そうすると、もう一人協力者が必要じゃないですかね?」


「こんなことに協力してくれる物好きが何人もいるかね?言ってしまえば、自分の青春を犠牲しているようなものだ」


「私に向かってそれを言いますかね」


「そうだな。悪い」


 別に謝る必要はないのだと思うが、自然と謝っていた。確かに、自分で言うのもなんだが、妹のために自分の青春を犠牲にしているのだ。

 今だからこそ、出来ないことはいくらでもあるのではないか?

 妹を更生……というと、聞こえが悪いが、そうするために自分の時間を割いているのだ。

 無論、絶対しなければいけないことではない。

 恵が自分で修正できるのならこんなことをする必要性は皆無なのだ。


「とりあえず、最終目標をいきなり立てるんじゃなくて目先からやってくべきだと思います」


「具体的には?」


「中間テストが近いからそこでトップを目指しましょう」


「底辺学力の成り上がりね」


「とは言っても、私たちのクラスとは別のテストなので私たちは関係しないですけど」


「じゃあ、いきなりハードルが高いってわけじゃないのか」


「そうです」


「そして、さらりと自分のほうが立場が上だというアピールを入れてくるな」


「さすがに一位をとったとして、私がそれより低い順位だとして調子に乗られても困りますし」


「まあ、あいつは仕組みを理解してない可能性もあるからな」


「それに並行して、トレーニングをしていきましょう」


「トレーニング?」


「提案としては二つあります」


「二つ?」


「花嫁修行か、もしくは体力、もしくはオールジャンルのスポーツが出来る技術だとか」


「スポーツで何でもかんでも出来る奴って全校探したところで一人いればいいほうだろ。それでも、平均的な水準には確実に満たない」


「ですよね。めぐちゃんの完璧の理想像が見えないのもそうなんですけど……」


「あいつはあいつで部活をやりたいらしい」


「はあ、そうですか」


「何部とか聞かないのか?」


「また突飛なのが来るんじゃないかと思ったらいちいちリアクションを取っていては疲れますし」


「なんか星が見たいとか言い出して天文部入ったらしい」


「星座の名前が分からなくてすぐに根をあげそうな気がします」


「ま、何にせよ、何かに興味を持つってのは大事だしな。学生だし、好きなことをさせることにした」


「そういえば私、結局先輩が何の部活に入ってるか知りません。仮入部もそろそろ終わりますし教えてくれませんか?ここまで引っ張っておいて帰宅部だったら蹴り飛ばしますよ」


「それは勘弁願いたいな。帰宅部ではないよ。正確には部活じゃないんだ。同好会」


「うちにもそんなのあるんですね」


「規定人数いないからな。部に昇格できんらしい」


「で、なんの同好会なんですか?」


「料理研究」


「……似合わない絵面ですね」


「人を見た目で判断しちゃダメだぞ」


「どう考えても先輩はスポーツやってるのがお似合いですから」


「去年は入ってたけどな」


「何部ですか?」


「テニス」


「なんとなくそっちのがしっくりきましたが、テニス部ってあまりいいイメージがないです。なんかチャラいです」


「すげえ偏見だよ。そりゃ、最近テニスをしてないテニス漫画もあるけど」


「あれは絵柄が爽やかなのでセーフです」


「やってることはアウトだけどな」


「でも、料理ですか……」


「香夜ちゃんもやるか?」


「先輩は将来結婚するとしたら奥さんは料理できたほうがいいですか?」


「ん~とんとんかな。見た目ちゃんとしててちゃんと食えるものならそこまで文句言わないと思う」


「それは意外にハードルが高いものなのですよ。できない人にとっては」


「香夜ちゃん、料理下手とか?」


「卵焼きはだいたい炒り卵になります」


「巻けなくて諦めたパターンだよねそれ」


「あと炒り卵をおしゃれにスクランブルエッグとか言わなくてもいいと思います」


「お店で出すときに炒り卵だと注文数激減しそうだな」


「私は頼みますけどね。変に気取ってないところに好感を持ちます」


「香夜ちゃんも大概ひねくれてないか?」


「まあ、親からはあまり女の子らしくないとは言われますね。少年マンガとか好きですし」


「その辺は好みだしいいんだけどな。てか、何の話をしてたっけ」


 どんどん脱線して何を話していたのか分からなくなった。

 一応、計画を立てているのだが、一朝一夕で終わることではないのは百も承知だし、かといってあまり長く時間をかけすぎても俺が見てあげられるわけでもない。

 香夜ちゃんはシャーペン片手に考えているが、そのペン先が開かれているノートへ向かうことはない。


「そうだな。目先のことやってくか。中間テストだな」


「……参考までに聞きますけど、何か得意科目はありますか?」


「体育。学校のぬるいものなら、あいつは大活躍できる」


「まあ、運動能力自体悪くはないですからね……。得意科目なし、と」


 ノートにそれだけ書き込まれた。

 下手すると……しなくても中学での基礎なんてほぼないに等しいんだが、そんな状態で高1の問題が解けるのであろうか。


「ざっとめぐちゃんの教科書借りましたけど、おおよそ中学の復習、それも中二レベルぐらいのものからやってるので、大したことはないでしょう。……普通の人ならば」


 普通の人ならば……ね。


「だが、やつの学力は普通ではない。普通をはるかに下回る」


「勉強に関してだけ言えば、要領がいいか悪いかぐらいの話なんですよね。要領が悪いなら悪いなりに量をこなせば出来ないことはないですし」


「香夜ちゃんは両方やってそうだよな。要領良さそうでさらにやってる感じ」


「事実そうですからね。やることがないですから」


「将来何かなりたいとかあんの?」


「いえ……。でも、勉強ができて悪いなんてことはないですから」


「そらそーだわな。一年なんだしまだ考える時間はいくらでもあるよな」


「そういう先輩はあるんですか?」


「とりあえず今は、あいつが一人前になってくれることが夢だよ」


「途方もない夢ですね」


 言われてしまった。

 そもそも、夢を実現するのにも努力が必要だ。

 俺の場合は恵自身が努力をしてくれなければ始まらないのだが。

 天才肌っぽく見えなくもないが、途方もないバカなので、それこそ量をこなすしかない。


「ただいまー!」


 そして、元気に能天気な声が一階から聞こえてきた。

 恵のやつが帰ってきたのだろう。

 そのままドタドタと階段を上る音が聞こえ俺の部屋の扉を開いた。


「お兄ちゃん!私に内緒で女の子を連れ込むなんてどういう……香夜ちゃんか」


「その私ならいいか、的なニュアンスの発言が腹立つ」


「ニュアンスって?」


「簡単に言えば意味合いだな」


「横文字って面倒だね。まあ、香夜ちゃんなら間違いはなさそうだし」


「手を出そうものなら通報しますけど、先輩はそのあたり紳士的なので」


「そうだよお兄ちゃん。壁と本棚の間にエッチな本を隠しても無駄なんだよ」


 おい、妹。なんでそんなこと知ってる。


「ああ、それぐらい知ってるのでお気遣いなく」


「お気遣いするわ!なんで知ってんだよ⁉︎」


「まあ、大体隠すような場所って限られてますしね。ビンゴでしたけど。まあ、ロリコンだとか熟女好きだとか好みが特殊過ぎなかったので良しとします。ロリコンと言わずとも、少し幼い顔のほうが好きなようですね」


「ちゃっかり好み把握してんじゃないよ。恥ずかしいだろうが」


「恥ずかしいと思うなら置かなければいいと思うんですが、私だけなんでしょうか?」


「普通、女の子に見られることを想定なんかしてないからに決まってるだろ」


「先輩に彼女ができて部屋に連れ込む可能性だって0ではないのにそれでいいんですか?」


「その時は男の性だと開き直る」


「ま、めぐちゃん以外の女の人は私がいる限り連れ込ませないようにしますけどね」


「君は僕の保護者ですか?」


「違うよー。香夜ちゃんはお兄ちゃんを独り占めにした……いだいいだい。ギブギブ」


「めぐちゃんの言うことは戯言なので無視しておいてください。そんなことはないですので」


 恵はバカだからものごとを考えずにストレートに言う節がある。だからこそ、あいつの発言は大概的を射てることも多いのだ。

 まあ、否定するなら口ですればいいものを途中で力技でねじ伏せに入るあたり図星なのだろう。

 口には出さないでおくけど。


「恵」


「なに?お兄ちゃん」


「お前、完璧を目指したいって言ったよな?具体的にはどんな感じだ?」


「えっとね、頼まれたことはすでに終えてて、テストでは常に学年トップ、運動部からは助っ人に引っ張りだこで、ゆくゆくは生徒会長!」


「無理だな」


「無理ですね」


「協力するって言ったのお兄ちゃんたちじゃん!少しは妹の夢を叶えてよ!」


「……恵よ」


「なに?お兄ちゃん。そんな悟ったような目をして」


「世の中にはな、手を伸ばしても届かない夢はあるんだ」


「だったら、届くまで近づけばいいんだよ」


「多分、お前じゃ死んでもたどり着かん」


「お兄ちゃんは私の味方じゃないの⁉︎」


「ああ、味方だとも。可愛い妹よ」


「なら、可愛い妹の願いを叶えてください」


「それとこれとは話が別だ」


「香夜ちゃ〜ん。私の夢を一緒に叶えてください!」


「参考までに入学時にテストあったでしょ?国数英の点数聞かせてくれる?」


「うえから25、8、12です」


「絶望的すぎるな。全部赤点じゃねえか。てか、そんなにすぐに点数出るもんだっけ?」


「自己採点しますからね。強制で。これだけは入学者全員同じテスト受けてますから。先輩もやったでしょう?」


「特進だけかと」


 特進というのは、特別進学クラスだ。国公立や私立大学を目指すクラスである。まあ、一年の時はざっくりだが、学年が上がっていくともう少し細分化されていく。妹は普通コースなので、まあ俺や香夜ちゃんのクラスよりはレベルが下がるということだ。


「だいたい、お兄ちゃん学年トップなんでしょ⁉︎私に勉強を教えることぐらいわけないじゃない」


「そのわけないはずなのに、一向に学力の上がらなかったのはどこのどいつだ」


「お兄ちゃんの教え方が悪い」


 開き直りやがった。一度殴ったろかこいつ。


「まあまあ、先輩、落ち着いてください」


「一度殴ればいい具合に頭が良くなるんじゃねえのか?」


「今まで培われたほんの少しの知識と常識すらも欠落する可能性がありますから」


 すげえ言われようだ。香夜ちゃんからの恵の評価はすこぶる低いらしい。


「ま、香夜ちゃん。いきなりそんなにいっぺんにできるわけないでしょ。それだけは分かって?」


「う〜……うん」


「あと、その成績でよくトップとか言えたわね」


「す、すいません」


「……めぐちゃん、クラスで宿題出てる?」


「ううん」


 恵は首を振って否定した。

 テニス部の時に普通コースの連中にほとんど宿題なんて出ないと聞いた記憶はある。出るのはテスト前ぐらいのものだと。

 結局、差が出るのはそういう時に勉強したかどうかということが如実に出るわけだ。


「先輩。一教科だけでもいいので宿題を与えてやってください。私は家に帰ってプログラムを立てます」


「ここでやっててもいいぞ?」


「さすがに夕飯が家で用意されてるのでそれまでには帰らないと」


「そうか。じゃあ、また明日な」


「ええ。じゃあね、めぐちゃん」


「じゃあね〜」


 香夜ちゃんが俺の部屋から出て行き、恵と二人残される。


「さて、私は先にお風呂でも……」


「逃げるな恵」


「違うよお兄ちゃん。これは準備だよ」


「寝る準備だろうが!教科書持ってこい!今日は数学をやる!」


「ええ〜数学なんて掛け算、割り算まで出来れば上等だよ。世の中には自分の名前もかけないような私と同じ年の人がいるんだよ。その人たちのほうが意欲的だからそっちの人を手助け……いだっ」


 ゲンコツを落としました。


「お前は逃げる口実ばっか作るな。お前だって勉強出来なくてバカにされるのは嬉しくないだろ?」


「うん……」


「だが、俺はお前が俺を超えない限りはバカにし続ける」


「うわ、最低だ。最低だよこの兄」


「と、言うのはそこそこ冗談だ」


「そこそこ本気だという意味だと私は受け取っておくよ」


「だが、幸いお前がバカだとまだ知れ渡ってない。それに生徒会長になりたいなら、どこぞかのラノベみたいに人気投票じゃないんだから、多少なりとも学力が必要だ。先生からの許可も必要だしな。あとは人望だが……まあ、それは後々だ」


「お兄ちゃんお兄ちゃん」


「なんだ?」


「スポーツ万能にはどうしたらいいですか?」


「毎日腕立て腹筋背筋スクワット100回やってろ。相応の筋肉はつく。あとはプロテインだとか筋肉がつきやすいようにするとより効果的だ」


「乙女にやらすことじゃないよ‼︎」


「ならお前はまずスタミナがなさすぎる。ランニングでもしろ。10km走ってちょうどいいって思えるぐらいなったらそれなりに体力はついたってことだ」


「私、マラソン大会いっつもドベなんだよ……」


「お前、最初に全力を使い果たすからだろ。参考に聞くが50m走何秒だ?」


「8.9」


「お前、残り10メートルぐらいで急激にスピード落ちるだろ」


「よく知ってるね。さすがお兄ちゃん」


「お前は最初の5秒でどれだけ全力で走ってるんだ⁉︎」


「やるからには最初から全力でやれって」


「誰に言われたんだ?」


「記憶にありません」


「まあ、お前の致命的な欠点はそのスタミナのなさだ。これからは朝早く起きて、朝飯前にランニングだ。しばらくは20分ぐらいだな」


「ええ〜。私、朝弱いんだよ?それを知っての諸行?」


「普通コースなん寝とっても怒られねえだろ。テストで点数取れてればいいんだよ」


「お兄ちゃん」


「なんだ?」


「平常点というものをご存知ですか?」


「俺は常に満点だが、何か?」


「このナチュラル畜生め……」


 まあ、平常点というのはいわば授業態度だとか、提出物、発言などいったものが加味されるものだ。例えばテストで赤点とったとしてもこれで救済される可能性はある。

 だいたい内訳としてはテスト80:平常点20といったところだ。俺には関係ないけど。赤点取らねえし。


「とりあえず、最初からやってくか。えっと……」


 パラパラと見ていくが恐ろしいほどに簡単だ。

 こんなん満点取り放題だろ。

 となるところだが、妹にとってはこれが難しいのだろう。

 勉強は慣れだ。習慣付けさせていくしかない。

 妹の完璧少女計画の一歩は勉強の習慣化である。

 とりあえず、5ページぐらいは進められるかな……。

 練習問題から頭を抱えている妹を見ながら、これからの勉強を探っていくこととした。

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