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空中分解(2)

 空中分解、という言葉をご存じだろうか。

 飛行中の航空機が空中でバラバラになること?ちげえよ。そんなこと起こりうるものならだれも飛行機乗らねえよ。神風特攻隊かよ。

 ここにおける空中分解というのは、計画が途中で分裂したり、潰れてしまうことを指す。

 なんでこんな話をするかというと、今まさにその状態になりかけているのではないかと危惧しているからだ。

 誰のせいだって、俺のせいだけども言わせんなよ恥ずかしい。何とかしようとこっちで奮起しようとしてるんだから。

 まあ、完全に潰れるわけでもないのだから、そんなに心配する必要もないのではないかと思うのだが、このまま香夜ちゃんが離れて行ってしまったら、精神的なダメージが大きすぎる。

 恵から聞いた話ではあるのだけど


「香夜ちゃん、元気なかったよ?お兄ちゃんと何があった?って聞いても『何でもないよ』って言うだけだし。……きっと、私に心配かけさせないようにって気遣ってるんだと思う。お兄ちゃんも露骨に避けてたし、これじゃ香夜ちゃんも可哀想だし、私も集中できないよ」


 でも、俺が普段通り、変わらずに接していたら何事もなかったかのように進めていけたんだろうか。

 いや、きっとわだかまりが残ったままだろう。だから、早い段階で解決しなければならない。

 微妙にギスギスしながらお互い一緒にいても疲れてしまう。

 恵も恵なりに心配してくれている。でも、こんな状態が続くのであれば、どちかが嫌気がさしてくる可能性だってある。ともすれば、俺と香夜ちゃんで始めた恵の育成計画は開始3ヶ月で終わってしまう。

 あいつだってまだまだ足りないことだらけなのに……。そもそも、まだ香夜ちゃんがこれをやめると言ったわけではないけど。もしかしたら、恵の方が俺と香夜ちゃんが仲直りするまで遠慮するとか言いだしたら、それこそ本当に空中分解しかねない。

 そうならないために、協力を仰ぎ始めたのはいいのだが……。


「ふむ。まずは、香夜ちゃんだっけ?その子の身辺調査をしてみました」


 ところは図書室。ペチャクチャ喋ってますが、言うなれば図書館にもなんか準備室的なところがあるので、そこを使っている。まあ、あまり人目に触れて話したいことでもないのでありがたい話なのだが、唐突に身辺調査を行っていたのは川上さんである。


「あなたは見かけによらずやること早いですね」


「文科系がノロノロしてると思ってたら大間違いです。ま、佐原君も文化部じゃなかった?」


「おっしゃる通りですが、俺は肉体労働と精神的に追い詰められているのです」


「あーでも、一年の時はテニス部に入ってたっけ?」


「俺のことも調べたわけ?」


「何が共通点かわからないし、とはいえ、香夜ちゃんのほうも調べても謎ばっかりな子みたいでこうなれば、一番近い人に直接聞くしかないかな〜と」


「へー」


「というわけで洗いざらい吐いてもらいます」


「あ、俺ね」


「他に誰がいるんですか?」


「俺の妹」


「もう聞きに行きました。でも、恵ちゃんのほうは原因が分からないからお兄ちゃんに聞いてください、とのことだったので」


「ねえ、昨日から一日経ってませんよ?あなたの有能さはどこから生まれてるの?」


「時間は有限ですし、学校にいる時間も限られてますから。勉強したり本を読むのは家でも出来ますからね」


「川上さんはもっと、人と話すのが苦手で口下手なもんだと思ってたよ」


「あはは。喋らないからかな?女の子は元来お喋りな生き物なんだよ。ま、でも喋らなければその機能は衰退して呂律もうまく回らなくなるみたいだけど」


「ああ、なんか聞いたことあるな。引きこもりが久々に外出して喋ろうとしたら、まず声が出なくなってたみたいなの」


「喋るための機能はあるんだから、リハビリすれば治るけどね……何の話してたか分からなくなっちゃった」


「すまんな。俺と話してると大体話が横道に逸れていくと有名だ」


「佐原君の将来はセールスマンか詐欺師かな?」


「別に口が上手いわけじゃないからね?」


「あ、そうそう思い出した。佐原君が香夜ちゃんについて知ってることだよ。さっき見てきた限りだと、金髪で小柄だけどグラマーな子と一緒にいたけど」


 花菱さんか。あの子何も知らないんだろうな。香夜ちゃんの今の相手には一番いいかもしれないけど。グラマーだというが、一部強調されてるだけで、あとはちっちゃくて可愛らしい子です。金髪碧眼少女なのにどこに遺伝を発揮しているのだと美沙輝が怒ってたのは内緒。


「クラス内だとあの子ぐらいって言ってたかな話す子は。あの子は何も知らないって言ってたけど」


「そこまで行ったのならば本人に確認してくれませんかね?」


「いや〜そこまでは私も図々しくなれないよ」


 かなり近いことをしてる時点でバレバレだと思いますけど。香夜ちゃん、聡い子だから。


「そこよりは、とりあえずは喧嘩した原因を聞いてみようか。昨日だって喧嘩したってだけで原因は何も聞いてないからね」


「そうだったか?」


「少なくとも私が聞いた記憶はないよ」


「まあ、知ってるか知らんかはおいといて、俺の成績はクラストップだ。だが、素行がそこまでよろしくないので先生方に目をつけられてるらしい」


「この前古典で立たされてなかった?」


「それは言わない約束。素行悪いくせに成績だけ無駄にいいもんだから、扱いに困ってるようでな。さあ、ここで問題だ。こんなやつに香夜ちゃんをくっつけた場合どうなる?」


「いや、どうなるも何も私は香夜ちゃんのことをあまりよくは知ってないのだけど……」


「まあ、香夜ちゃんの先方の評価は大人しい子らしい。普段はあまり喋んないみたいだしな」


「うーん。それならば、香夜ちゃんに悪い影響を与える先輩がくっついてるみたいに取られてもおかしくはないね」


「正解。そんでもって香夜ちゃん優しいからな。俺が不当な評価を受けてるのと、先生からそういう目で見られてるのが嫌だったみたいなんだ」


「佐原君はその時香夜ちゃんになんて言ったの?」


「一度貼られたレッテルを変えるのは難しいって言ったんだ。……まあ、香夜ちゃんはそれが許せなくて、俺がそれを受け入れてるような態度を取ってたのが許せなかったんだろうな」


「ちゃんと原因分かってるじゃない」


「……原因が分かってても、それを解決する策がないから謝りに行けないんだ。俺は、どうすりゃいいのかな」


「人から見た佐原君と香夜ちゃんから見た佐原君に差があるなんて当たり前なのにね。……クスクス、あーでも両想いなのか〜。うん納得」


「いや、そちら側だけ納得されても俺はどうにもならないんだけど」


「香夜ちゃんの方は佐原君のことが大好きだから、そりゃ自分の好きな人がそんな風に見られてたら嫌でしょ?それは佐原君と香夜ちゃんが逆の立場だって一緒なわけだし」


「そりゃ……まあ……」


「でも、佐原君の方は建設的な理論だけど、香夜ちゃんの方は感情的だからねえ。ま、香夜ちゃんの想いを佐原君がどう受け止めるかってことなんだけど」


「どう……って?」


「クラス一の秀才も女の子の扱いになるとダメダメだね。妹さん、あんなに可愛らしい子なのに」


 それとこれとは話が別ものではないでしょうか?しかも、あいつの扱いはかなりイージーである。


「ま、佐原君も香夜ちゃんのことが大好きであるのならば、さっさと付き合った方がいいのではないかと私は思うのですが……」


「それはダメだ」


 俺はきっぱり、かつ迅速にそれを断言した。


「即答だねえ。まあ、確固たる理由があるのなら私が首をつっこむ話ではないけど。付き合わないのであれば佐原君の方の解決策が難しい以上、香夜ちゃんの方の意識を変えることの方が早いかな」


「意識を変える?」


「香夜ちゃんは先生たちから佐原君が悪く思われてるのが気に入らないってことでしょ?なら、逆転の発想だよ。私はあなたたちの知らない佐原君の良いところをたくさん知ってるって思わせればいいんだから」


「あ〜なるほど。……あと、付け加えで申し訳ない情報だが、香夜ちゃんは根本的に先生という職種が大っ嫌いらしい。まあ、そのせいもあっての相乗効果なのかもな」


「もう、それならば、香夜ちゃんと一緒に先生の近くに行かなければいいだけの話ではないのかな?」


「結局のところそれぐらいしかないんだよな。……香夜ちゃんになんで謝るか」


「そこは佐原君が誠意を見せるしかないよ。あ、そうだ。佐原君、料理研究部だよね?」


「同好会です」


「……ま、まあまあ、そこはいいとしてここは先輩らしく何か手料理振る舞ってあげればいいじゃない。宮咲さんもあいつ無駄にうまいから腹がたつって言ってたぐらいだし」


「いやあ、それほどでも〜。美沙輝には敵わんけどな」


「ところで宮咲さんとはどういう関係なの?ただ同じクラスで同じ部活だからって妙に仲がいいように思うけど」


「あ〜っと?ご主人様と奴隷?いや、ペット?もしくはオモチャか……」


「待って。料理研究同好会の闇を聞いてる気がする」


「闇の部分は停学くらって、単位足りない、赤点祭りのやつを抱えてるところが一番の闇だから。まあ、こいつのことは知らんくていいよ。ただ、そいつは美沙輝と張れるほど料理の腕がいいのが難点なんだがな」


「難点なんだ……」


「とりあえず、俺は土下座するなりなんなりして香夜ちゃんに許しを請うとしよう。さーて、今日は香夜ちゃんが家に来る日だー」


「待って。喧嘩してるのに普通に佐原君の家に来るの?」


「言ったと思うが、うちの妹が入学当初はとんでもなくポンコツで一人じゃ、ひたすらオロオロしてて、何かしようものなら仕事を一つや二つ増やすぐらいじゃ収まらないというスペックの持ち主でな。さすがに、俺一人じゃ荷が重いから誰か協力者を探そうって思って会ったのが香夜ちゃんなんだ。そこから、香夜ちゃんと俺で基本的に恵の勉強の面倒を見ている。俺と喧嘩しても恵の勉強を見ない理由にはならんのか、律儀な子だから普通に家に来る」


「その間、佐原君はどうしてるの?」


「前は、あの子夜まで見てくれるからご飯の作り置きして、俺は外を出歩いてた」


「はあ……解決策見つかるまでずっとそうしてるつもりだったの?」


「……まあ、そうなります」


「こういうのは時間が経つほどお互い顔を合わせづらくなるんだから、早めに行動した方がいいよ?」


「お言葉、心に染みます」


「心に染みたなら、誠心誠意謝ってきなさい」


「いえっさー姉御」


「誰が姉御ですか」


「冗談はさておき、サンキューな川上さん。相談しなきゃ行動に移そうとすらしなかったかもしんねえし」


「それはよかったです。もう、いい時間ですね。図書室閉めますので、出てください」


「それも図書委員の仕事なのか?」


「と、いうよりは大体私が常駐してるから、自然に私に任されたって感じかな。本来なら交代制なんだけどね。私みたいになりたくて図書委員をやってる人なんて全然いないから」


「まあ……確かに本を読みに来てるやつよかは、勉強しに来てるってやつの方が多そうだな」


 覗き込んだ先の図書室を少し見渡すとパラパラとそんな姿が見受けられる。そもそも、進学クラスの奴も相対的に見れば少ないし、そこから図書室を使って勉強しようという奴もかなり絞られてくるだろう。


「あいつらはどうすんだ?」


「5時半で閉館だから。一人一人出て行ってもらうよ。いちおうアナウンスして」


「無駄に金のかかりそうなシステムを採用してらっしゃる」


「ま、だから私の方はまだまだ時間かかりそうだから先に帰ってていいよ。昨日も言ったけど、あまり私といたら香夜ちゃんがさらに怒っちゃうからね」


 何事も仕事みたいな感じだと忙しいもんだ。それも一人でやってるのだしな。

 ……今日ばかりは手伝っておこう。相談してもらったのだからバチは当たらん。

 とりあえず、寝ているアホを叩き起こして回っていくことしました。




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