6話:妹が宣言するそうです
ショッピングモールということもあり、小物とかが細々と置かれている雑貨屋はたくさんあるのだが、俺としては何が違うのかと目移り状態で、しまいには一番足手まといと思っていた恵に引っ張られている始末だ。
どっちがポンコツなのやら。
こういうことは女の子に任せていたほうが得策なのだろうか。それはそれで情けない話であるが。
こういう時こそさらりとリードができる男でいたい。
香夜ちゃんもなんとなく疎いようだからな。
もう少し事前にリサーチでもしておけばよかったと後悔したが、そんなものも後の祭りだ。今は流れに任せるしかない。
しかし、香夜ちゃんが気に入ってくれそうなものはなんだろうか。あまり変なものをあげてもしょうがないし。
「お兄ちゃん。困ってるようですな」
「俺はお前の今後について困ってるだけだ」
「それはさておき」
さておくな。重要課題だぞ。
「香夜ちゃんは飾り気がないけど、美人さんなのです。でも、小さいので可愛いもので少し彩ってあげる感じがいいのです」
「なるほどな」
服装を見る限り、そんなふわふわしたような感じではないので、そういう趣味ではないと思ったのだ。どっちかといえば、ボーイッシュというか。
確かに言われた通り、少し花を添えるだけで新境地とは言わなくとも興味を持つかもしれない。
「なに二人でこそこそしてるんですか」
「俺が香夜ちゃんに似合うものを見つけようってことだな」
「そうですか。でも、ここのものはどれも可愛すぎて私に似合うようなものじゃ……」
「そうか?香夜ちゃん、自分で自分のイメージを固定しちゃってるんじゃないのか?」
「そうでしょうか?妥当な評価を自分で下しているつもりですけど」
「でも、やっぱり女の子って可愛く見られたいものじゃないのか?」
「偏見ですよ。別に私はそういうの興味ないですし……」
「よし、香夜ちゃん。服見に行こ」
「わ、私十分持ってるよ」
「いざデート行こうってなって、服なんていくらあっても困らないんだよ」
「タンスの肥やしになるだけのような……」
「ええい!私についてこい!ノーとは言わせん!」
「めぐちゃんは一体何のキャラなの……」
今度は逆の形で香夜ちゃんが引きずられていった。
俺はその後をすごすごと歩く女子に引っ張り回されてる残念な男子であるが。
にしても、服ねえ。
女の子ものってやたら高いようなイメージがあるんだけどな。スカートとかズボンより布地少ないのになんで高いんだよ。形状か?作りにくいのか?
そんなことを言っても俺にはどうしようもないのだが。いいよ、俺は1980円の安物ズボンで。それっぽく見せていくから。
「お兄ちゃん。今から香夜ちゃんを着替えさせてくるからちゃんと評価してあげるんだよ」
「それはいいが、流石にそれを買ってあげられるようなお金は持ち合わせてないぞ」
「これこそウ……ウィン……ウィーン……なんだっけ?」
ウィーンはオーストリアの首都だ。だが、妹がそんなことを知ってるはずはないだろう。全国の都道府県すらも微妙なところだし。
「ウインドウショッピングな。見るだけで買わないってやつ」
「でも、いざ来た時にない確率は高いよね」
「服はな。まあ、流行り廃り多いもんだろうし」
「お兄ちゃんはオールシーズン着回せるようなものだよね。センスが感じられないよ」
「どうせ社会人になったら同じようなスーツ着て行くんだ。今から慣らしていくんだよ」
「今オシャレしないでいつして行くんだお兄ちゃん……」
「Tシャツなん無地で十分だし、ズボンはジーパンで十分だ。アメリカンスタイル」
「お兄ちゃんから愛国心が感じられないよ」
「なんでだよ。似合ってるだろ?ちゃんとそれに季節に合った上着を着合わせていく」
「夏は何もないじゃない……。お兄ちゃん、そこそこ背は高いんだからもっとチャレンジしてもいいんじゃない?」
「オシャレとか言って短パン履けってか?ダボダボなサルエルパンツ履けってか?」
「自分に似合う範囲でって話だよ。極端なんだよお兄ちゃん。誰もお兄ちゃんのすね毛なんか見たくないし」
「だろ?だから長いジーパンでいいはずだ」
「せめてチノパンとかにすればいいのに……」
「……また考えておこう。というか、香夜ちゃんまだ出てこないのか?」
「うーん。見せることをためらっているのかな?そんな着方が難しいものでもないし」
今時着方が難しいって、着物じゃあるまいし。どう考えても前者だろうな。
誰に対して?
それはもちろん俺にだろう。
そもそも男にそんなのを見せるなんて恋人でもあるまいし。
恵が覗きに行ってるが、弾かれるように出てきたのを見るときっと無理やり着替えさそうとして追い出されたのだろう。
「お兄ちゃん。今から着替えるって。もう少し待ってて」
「お前……何したんだ?」
「まだ鏡と格闘してたから、無理やりズボンを脱がそうとしたら蹴り出された」
「当たり前だろ……」
やっぱりバカだな。
「あ、お兄ちゃん。今下着見えなかったか?とか考えてたでしょ」
「いや、お前がバカだなとだけ」
「いやいや、もっと気持ちに素直になっていいんだよ」
「さっき怒られたからな。今日一日ぐらい猛省しないと申し訳たたん」
「意外に小心者だなあお兄ちゃん」
「お前がバカすぎて逆に関心するレベルなんだけどな」
「まあ、お兄ちゃんも又聞きの情報なんて聞いてもしょうがないだろうし」
確かにしょうがないが、男にもロマンを知りたい気持ちはある。
が、その気持ちは押さえ込んで、黙って待つことにした。
こいつと喋ってるとついボロを出しそうだからな。
やがて、一つの更衣室からカーテンが開かれる。
が、なかなかその人物は出てこない。
真正面で待っていたわけではないので、その姿までは見えない。
「ほら、香夜ちゃん。お兄ちゃんに見せなきゃ」
「わっ。ちょっ、ちょっと」
無理やり引っ張り出される形で香夜ちゃんは出てきた。
上は変わっていなかったが、下を着替えたのだろう。ズボンからスカートへとなっていた。
足元が落ち着かないのかすごく内股になってるけど。
「スースーする」
「そりゃスカートだもの」
「わ、私、この下下着だけなんだよ?下手したら見えちゃうよ」
「見えちゃダメなのだった?」
「普通、下着って人に見せるようなものではないと思うんだけど……」
その通りである。妹の言葉だけ聞いてると、別に見えてもいいもののように聞こえる。男としては嬉しい限りなのだけども。
「せ、先輩。どうですか?似合って……ますか?」
香夜ちゃんが着ていたのは、白の二段構造になっているフレアスカートだ。
簡単に言っちゃえばふわふわである。
確かにちょっと気を抜くと見えてしまいそうではある。
「ちょっと座ってみて」
「絶対にイヤです」
「ちくしょう……」
「悔しがる前に感想……聞かせてくださいよ」
「ああ。可愛いじゃないか。似合ってるよ」
「そ、そうですか?お世辞でも嬉しいですね」
少しクルクルしてみたりしている。照れを隠しているのだろうか。その動作は可愛らしい。
「制服以外にスカートってなかったですけど……先輩がこっちのが好きって言うなら……すいません。なんでもないです。忘れてください」
香夜ちゃんは言葉を打ち切って、更衣室に戻ってしまった。
そのスカートは脱ぎ捨てられ、先ほどまで履いていたズボンに戻ってしまった。
「ええ〜香夜ちゃん脱いじゃったの?」
「どうせ買えるわけでもないし……」
「でも、香夜ちゃんスカートの方が可愛いよ」
「先輩。ちょっと……」
服を引っ張られて、恵だけ置いてけぼりの形だが、あまり聞かれたくないのだろうか。
「あの……先輩がさっきの方が好きなら、また先輩と出かけるときは……そのスカートで行きますから」
「香夜ちゃん。スカートの方が可愛いからな。そうだな。その時はそっちの方が俺も嬉しいな」
「あまり、エッチな目で見ないでくださいよ?」
「そればっかりは……ケースバイケースかな」
「……でも、先輩の視線を独り占めできるなら悪くないかもです」
「え?なんて?」
「先輩はどうしようもない変態さんだって言ったんです」
「な、なんだよ。それ」
香夜ちゃんは恵の方へ戻っていった。
でも、香夜ちゃんスカート制服以外に持ってないって言ってたけどどうするんだろうか。
いや、そんな機会がまたあるかどうかは分からない。
香夜ちゃんだって、冗談半分かもしれないしな。
「バイトでもすっかなぁ……」
やはりいざという時に買えませんじゃ示しはつかないしな。
女の子にプレゼントの一つや二つぐらい買えるぐらいの余裕は持ち合わせたいしな。
……これ、なんのためのデートだったか。
少し、目的を忘れつつあるような。
でも、少し香夜ちゃんのことを知れたような。
ただ、俺の方は軽蔑されそうなことを何回かしでかしてるからなあ。
評価はどうしようもないが、それそれで計画を立てて行くことには変わりはない。
さて、恵をどこまで成長させるか。
服屋を出てフロアを歩く。
休みとあって、学生っぽいのも多く見受けられる。
こっちは、女子2人に男1人なのでどう見繕ってもどちらかの兄が勝手についてきたという構図にしか見えないだろうな。きっと、恋人が歩いてるなんて風には見えないだろう。
まあ、恋人ではないのだから当然だが。
「さて、香夜ちゃん」
「はい?」
「恵のやつをどうするか……だが」
「撒いて2人きりになろうとかいう魂胆ですか?やめてください。まだ、そんな気はないです」
「違う。恵のポンコツをどうするかの話だ」
「これはこれは。早とちりしてしまいました。責任とって、ここから一階にダイブしてください」
「勝手に勘違いされた上に俺だけ致命傷を負えと?」
「まあ、私たちがどうこうするより、めぐちゃんがどうなりたいか、そこが一番重要だと思いますけど」
「いや……それは……」
「めぐちゃん、めぐちゃん」
俺が言う前に呼んでしまっていた。
「めぐちゃん。私たちはめぐちゃんを変わらせたいって思ってる。知ってるよね?」
「う、うん」
「まずはめぐちゃんがどうなりたいか。それを目標に頑張るのがいいと思うの。それを、私たちはサポートしていくの」
「私の……目標」
「そう。めぐちゃんはどうなりたい?」
「私……完璧な人を目指したい!完璧少女を!」
「…………」
香夜ちゃんも閉口してしまった。そりゃそうだ。こいつをどうやれば完璧にできると言うのだ。
だが、こいつはそれを頑として譲らない気だ。
こいつのいう完璧がどういう範囲のものなのか分からないけど。
「が、頑張ってみよ!先輩とサポートするから!」
「ありがと!香夜ちゃん!」
ええ〜。いいのか、それで。
「香夜ちゃん。出来ると思ってるのか?もっと、簡単なところから克服していくとかさ……」
「めぐちゃんのいう完璧がどういうものか私にもわかりかねますが、とりあえず様子を見ましょう。何もやる前から全否定ではめぐちゃんだってやる気を出しません」
「うっ……ごもっともだ」
「だから、先輩も協力してくださいよ」
「まあ、元々は俺が頼んだことだしな。悪いな、付き合わせて」
「友達がこれ以上堕落していくのが見てられないだけです」
「うん……本当にいい子だね香夜ちゃん」
本当に出来た子である。むしろ、この子が俺の妹だった方が良かったな。
なんで、俺はこんなに悪戦苦闘しているのだろう。
後回し、後回し、としてきた結果ではあるけど。
とりあえず、現目標をここに掲げておこう。
『完璧少女を目指す』
先ほども言った通り、この完璧の範囲がどんなものか分からない。
言われたら空を飛ぶこともできるとかそんなことは不可能極まりないが。
まあ、まずは出来る範囲で計画を立てて行くことにしよう。