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一人でできるかな

 今日は定期で行われる美沙輝の料理教室in俺の家。部の活動の一環かどうかは分からない。まあ、美沙輝自身の趣味みたいな部分もあるかもしれない。見てくれてはいるが、それが恵のスキルアップに繋がっているかは謎だ。割と放任主義なのだ。本気でまずくなった時にしかヘルプに入らないし。


「さて、今日は縛られずに済んだわけだがどういう風の吹き回しだ」


「いや、むしろそれが普通だと考えてるあんたの方がよっぽど異常だと思うんだけど。毎回やるのにも疲れるのよ」


 そして例のごとく香夜ちゃんは来ている。恵と一緒に教えてもらってるはずなのだが、なぜか今日はこちら側。

 あと、もう一人金髪少女。花菱さん。


「君は向こうのほうがいいんじゃないかな」


「自分の出来なさを痛感したので……それに、今日はあの子が一人でやるというので」


「まあ、キッチン広くねえしなあ。二人が動き回ってたら……」


 昨日の惨事が目に浮かぶようだ。片付けは俺がやらされました。後処理担当みたいな扱いにしないでください。目に浮かぶようだと言ったものの別にその現場に遭遇したわけではない。音だけ聞いてました。

 だが、こうして座って待っているだけというのも暇である。俺がガールズトーク出来るわけでもないけど。というか、出来たら気持ち悪いだろう。それ以前にガールズトークに男の俺が首をつっこむなという話である。


「佐原先輩。今日、あの子は何を作るんですか?」


 俺が切り出さずとも花菱さんが口を聞いてくれた。わざわざ沈黙に耐える必要はなかったぜ。


「昨日、残ってた材料もらって作ってたろ?あれ、恵のクラスだったんだ。昨日作ったものの失敗したからリベンジするんだと」


「……実際何作ってたんですか?」


 君たちはあの材料から何を生み出そうとしてたんだ。特にそれ以上にやることはなかっただろう。後先に考えずにやり始めたせいで昨日みたいな惨事だったのか?それならまだ恵の方がポンコツではないように感じてきた。上には上がいるんだな。悪い意味で。


「失礼なこと考えてませんか?」


「それは置いといて、あいつはホットケーキと昨日はヨーグルトプリンを作ったらしいが、ホットケーキの方を焦がして失敗したらしいからそっちをやると思う」


「あの材料ホットケーキだったんですか……」


 そこで落胆しないで。俺でも見たら分かったよ。というか、ホットケーキミックスがあったでしょ?それで察せないということは相当作ったことないな?


「花菱さん。聞くけど料理できる?」


「で、できますよ!」


「じゃあ、何作れる?」


「……よくよく考えたら作ったことないです。帰ったら料理は出来ていて、お皿を洗うこともないですし、自分でよそうこともないです」


 よく昨日やろうと思ったね。なんでも出来そうに見えたけどそうでもないんだな。ダメすぎるぞ1年s'。誰一人として得意と言える子を発掘してない。


「そういう先輩はどうなんですか。昨日私はおろか東雲さんが入ってからすら作ってないって聞きましたけど」


「俺は普通に家では作ってるぞ。君たちが来るから俺が作る必要性がなくってだな」


 最近は恵が自分から作ろうとしてるからな。俺が出る幕はない。


「確かに、先輩は部で作ってないだけですよ。私よりは全然美味いですし。しかし、味付けが濃いですが」


「恵仕様だし、俺もそれに慣れちまってるからイマイチ濃いのか分かんねえんだよ」


「やっぱり適量というものを覚えるべきです」


「適量、適量ってやっても最終的にはなんか味薄くね?みたいな感じになるから結局濃くなるんだよ」


「ちょっと待って。なんで東雲さんは普通に佐原先輩の手料理食べてるの」


「めぐちゃんの勉強見てたら時々遅くなるから、先輩のご両親帰ってくるの遅いし、先輩が基本的に作ってるんだよ。それを時々もらってるの」


「……私も恵ちゃんの勉強見ていいですか?」


「人手が多いに越したことはないが……花菱さん家はここから遠いんじゃなかったか?」


 今日は土曜日だから普通に来ているが平日であれば学校からうちに来て帰っていたら香夜ちゃんよりよっぽど遅くなってしまうだろう。


「家のもの呼びます」


「家のものってなんだ」


「基本的には使いませんが私の私用により使うこともある運転手です」


 常駐してるのか?花菱家の専属運転手なのか?


「いえ、私の身の回りを世話してくれてる使用人(50代前半)です」


 カッコ内の情報はいるのでしょうか。


「それ俺が立候補する!」


「あんたはこっちで妹の世話をする仕事があるでしょ〜」


「……いっそ、使用人制度があるのなら、恵をそこでバイトさせたらいいんじゃね?」


「あんたの考えはいっつも浅はかね」


「思いつきだけで生きてます」


「こうも即答されるとどう返そうか困るわ。そもそも使用人なんて家事全般が出来る人か、よほど時間を持て余してる人しか出来ないわよ。バイトするとしたところでたかだか2〜3時間程度でしょ?出来ることなんてたかが知れてるわ。アニメや漫画みたいに使用人やらメイドさんやら執事が超人なわけないじゃない」


「なんだって創作物のそういう系は無駄にハイスペックかドジっ子ばかりなんだ?普通のがいてもいいだろ」


「絵的に映えないからじゃないかしらね……」


「つーか、花菱さんやっぱりかなりいいとこのお嬢様なんだな」


「うぐっ……バレてしまっては仕方ないです。花菱家は家具の名家……らしいです」


「らしい?」


「私もよく知らないんです。あまり興味ないんで。跡取りにも兄がいますので私は自由にしていいって高校も勝手に自分で選んで。でも、あんまりバレたくないんで自分から言わないですけど」


「まあ、バラしていいこともないしな。お金たかってくるようなやつもいるだろうし。うちはそういうのないけど」


 ある人が生徒会長なので悪事働けばすぐにバレます。どこから見てるのか、もしくは情報網が凄まじいのか。はたまた、あの人にバレたらどうなるかわからないので誰もしないのか。


「私は知ってたわよ?」


「誰も聞いてないけど」


「こういうのは一応驚いておくのが通説かと」


「どこの通説だ」


「いえ、美沙輝先輩はそういう目で見なかったので良かったです」


 違う目で見てそうですけど。こいつ割と可愛いものに目がないから。


「しかし、なぜ毎回うちなんだ。他の家も提供してください」


「一番都合がいいからに決まってるじゃない」


「恵が教えてもらってるんだから恵が行くべきだろう」


「そうすると自動的にあんたもセットで来るでしょうが。普通にズカズカ女の子の家に上がりこもうとしてるんじゃないわよ」


「男の家はいいんですかね?」


「あんたに守られるべきプライバシーはあるのかしら?」


「守られるべきっつうか、勝手に踏み込まれて崩されていったんだが、それについては」


「言及しない方向で。もうバレてるんだから今更気にする必要なんてないでしょ」


「正確にいえば全部バレてるのは恵と香夜ちゃんだけなんだが」


「えてしてそういうものは親も知ってるものよ?」


「止めてくれ。そんなこと言われるとこれから親と顔を合わしづらい」


「先ほどあまり会わないって言ってたのにそこを気にするんですか……」


「おっとっと……」


 会話を続けていたらどうやら出来たようだ。

 なんか焦げ臭いのだが。


「量が多くて大変だったよ〜。この二枚お兄ちゃんの」


 目の前に黒く焦げた物体が置かれた。せめて丸い形を保ってるだけまだマシなのか。


「……ダークマター?」


「ホットケーキだよ!」


 恵が声を出した瞬間に少し崩れた。


「……食えるのか?」


「ホットケーキって味見するものじゃないよね。みんなの分もあるよ〜」


 これを見せてから持ってくるのか。どういう神経をしているのだうちの妹は。


「はいどうぞ〜」


「ちょっと焦げてるけど……まだぜんぜん見れるレベルね」


「強火でやってたら一気に焦げちゃって」


 バター云々の前だった。そら、焦げるわ。誰か焼き方教えてやらんかったのか。


「3枚目あたりからそういえば、いきなり強火でやっちゃダメって言ってたな〜って思い出して。少しずつ調整してったの。最後持ってくるね〜」


 恵はキッチンから計6枚のホットケーキを持ってきた。何枚焼くか計算してなかったな?俺たち五人しかいないだろ。


「というわけでラストです」


「おお〜。焼き加減だけは上手くなってる」


 ”焼き加減だけ”なぜなら、すべてぺっちゃんこなのだ。こいつ、かき混ぜるの適当にやったな?そのうえ、ひっくり返すタイミングも適当だったんだろう。ホットケーキは生地に空気の穴がプツプツ出来てからひっくり返すのだ。

 こいつがそこまで知ってるとは思えないのでまあ、上出来といえば上出来だ。すぐ近くに卵すら割れなさそうな子もいることだし。


「恵さんよ」


「何お兄ちゃん?」


「せめて、1枚この失敗したの処理しろ。イジメか」


「お兄ちゃんの役割だって美沙輝さんが……」


「あんたは黙って食べなさい」


「無理です。かけたハチミツと焦げただけの苦味が絶妙にクソみたいなハーモニーを奏でてます」


「ごめんねお兄ちゃん。一枚は無理だけど半分は食べるよ」


「じゃあそちらも半分よこしなさい」


「はあい」


 まあ、こちらもすごく上手くできたというわけではないが、今回作った中では一番上手に出来ていた。こいつは何でもかけたがる傾向にあるのでハチミツがたっぷりとのっていたが、焦げた塊を食べていたのとは段違いだ。

 今度ちゃんと作りかた教えてやるか。


「さて、恵。食べ終わった後は……」


「寝る!」


「じゃない。片付ける、だ。全部やって料理だぞ」


「なんか家に帰るまでが遠足みたいなフレーズを感じるよ」


「さすがに全部やらせるもなんだからな。片付けるのは手伝ってやる。みんなは恵の部屋でも俺の部屋でも行っててくれ。恵の部屋は珍しく片付いてるから」


「逆説的に先輩の部屋が片付いてないということは」


「なきにしもあらずだ。可能性はゼロではない。自分の目で確かめてくれ」


 はたして、俺の部屋はあれで片付いているのだろうか。主観的な判断では片付いている。人の目から見てどうかは知らない。

 俺の部屋はともかく、まずは使った食器を洗っていかないとな。なんかみんなが使った後の片付けは毎回俺か美沙輝がやってる気がしないでもない。恵が片付けという概念を持たないのはそういうことをしてこなかったのもあるかもしれない。

 今回の教訓としてはいきなり一人でやらすもんではないということだな。完璧に覚えて初めて実践するものだ。

 まだ、ホットケーキは上手く作れないようなので次に作る機会があれば俺が見てやるとするか。







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