事後報告
「ねえお兄ちゃん」
「なんだ?」
久々に恵の部屋が片付いたので、恵の部屋で勉強をしていた。珍しいこともあるもんだ。
とはいうものの、片付いたというよりは現段階だと押し込んだと言った方が正しい。いつか雪崩が起きるぞ。
まあ、片付かない一端に恵の所持する服が多すぎるのもあるのだが。お母様よ、娘が可愛いというのならば衣装部屋ぐらい分け与えたまえ。あなたが提供してる服のおかげでこのような惨状が生まれるのですよ。
「長々と私の部屋の説明をどうもありがとう。それでなんだけど、女の子から料理を作ってもらうってどんな気持ち?」
「妬いてるのか?可愛いな妹よ」
「いやあ、別にお兄ちゃんに妬くというよりは香夜ちゃんにいつも作ってもらってていいなって。私も作ってもらいたい」
「最近思うことがあるんだ」
「なんなの急に」
「俺へ向いていると思われてたベクトルはすべて香夜ちゃんに向いてたものじゃないのかと」
「今更だよお兄ちゃん。お兄ちゃんにベクトルが向いてるのは香夜ちゃんだけなんだよ。自惚れるのも大概にしときなよ」
香夜ちゃんだけ向いてるのならそれはそれでいい話ではあるのだが、香夜ちゃんの異常な人気に俺が嫉妬せざるをえない。可愛いは正義だからね。仕方ないね。
無理やり納得させられることになったが、ここで話が完結するわけではない。女の子から料理を作ってもらうことに対して俺がどう思ってるかだ。
まあ、部長が美沙輝ということもあって、料理研究部を自称してるぐらいなのだから、そういうことは多々ある。だから、嬉しくはあるもののそこまで大はしゃぎするものでもない。それに、最近は縛られて強制的に食べさせられるのも多いしな。食事ってもっとわいわい楽しくするものだと思ってました。あ、俺だけ?ですよね。
「結論から言えば、作ってもらえるのはありがたいんだけど、縛られてるのはいかがなものか」
「お兄ちゃんが絶対に食べるという保証がないからだよ」
「化学物質が入れられてなければ普通に食べる。というか、お前はせめて美味しく見えるように盛り付ける努力をしろ。そのせいで食欲が減退するんだ」
「胃の中に入ればすべて一緒だよね」
「お前は嫁にやらんというか、出せんの方が正しいな……出したら恥ずかしい」
「お兄ちゃんが直してくれるんじゃなかったの?」
「お前のお嫁さん計画じゃないんだが……」
だんだん目的がズレてきている。もうなんなら、目標設定を生徒会長ぐらいにしておいた方が妥当なのではないかというぐらいだ。それぐらい、こいつを嫁に出すのは色んな意味でマズイ気がしてならない。まあ、生徒会長もそれはそれで難易度が高いわけだが。
全校生徒から一人だけ選ばれるのだ。他に誰も立候補者がいなければいいのだが、それでも不信任投票はある。生徒会選挙なんて認知度と人気投票みたいなところもあるから、政治家みたいに大それたスローガンを掲げる必要もないんだけど。さすれば、一人だけならほぼ確実に当選はできる。俺から言うのもなんだが、恵は容姿だけは整っているので、可愛い子が生徒会長やってくれるなら、と投票はされるだろう。責任は取れんけどな。
「そういや、今日香夜ちゃんとアリサちゃんに作ってもらったみたいだけど、どうだったの?」
「二人で作ったみたいなんだけどなぁ。何を作りたかったかすらも分からんかったらしい。美沙輝ですら分からないって言ってたからな。もしくは時間が足りないか材料が足りなかったかで止めさせたんだろうけど」
「うーん。その調理実習もしかしたらうちのクラスだったかも。5、6限だったし」
「だったかもじゃなくてお前らじゃねえか。何作ったんだ?」
「昼食後だったから元々デザートを作る予定だったんだよ。ホットケーキとヨーグルトプリン」
「……まったく失敗する要素が見えないのだが」
「私は焦がしました」
「ちゃんとバター引かんからだろうお前は」
「なんでわかったの⁉︎」
「お前が焦がしそうな理由がそんなんしか思いつかんからだ。手順を守れ手順を。どうせ、『私、料理できるよ〜』とか言って調子に乗ったんだろ」
「ふぐっ……返す言葉もございません……調子に乗ってました。美沙輝さんや香夜ちゃんが見てないと相変わらずポンコツです〜」
うなだれてしまった我が妹。まあ、でも前は他の人にやらせてもらいすら出来なかったのだから成長はしたのだろう。失敗はしてしまったものの前進はしているのかもしれない。
でも、わざわざ自分を卑下するほどでもない。まだ見ている必要があるかもしれないが、早々何も出来なかったやつがホイホイできるようになるわけがない。時間がかかると言ったのは俺自身だ。正直1年でも足りるかどうかなんて分からない。
「できることなんてちょっとずつ増えていけばいいさ。今は出来なくて当然だ。何もしてこなかったからな。でも、チャンスがないわけじゃないからな。次、出来るところ見せてやればいい」
うなだれたままの恵の頭を撫でてやる。
まだ、ふくれっ面だが、出来ない自分に辟易しているのだろうか。
「お兄ちゃんはさ。私と違ってなんでもできるじゃん。なんで、兄妹でここまで違うのかな?」
「きっと甘やかされたかそうでないかの違いだぞ。俺の妹なんだからきっと出来るようになるって」
「む〜忘れないでよその言葉」
「俺が言うことは六割がた実現する」
「半分超えてるけど微妙な確率だね」
「絶対ではないからなぁ。預言者でもあるまいし」
「よーし。明日から頑張る!だから寝る!」
「あと、一問解いとけ。それで終わるのに投げ出すな」
「もう布団に入ってしまったのにお兄ちゃんは出す気ですか」
「最近暑くなってきてるからな。布団ひっぺ返すのぐらいわけない。ましてや女の子のお前なん軽いからな」
「お兄ちゃんが発言することが何か裏を感じるよ」
「香夜ちゃんに毒されてないか?」
「気のせい気のせい。分かんないから教えて」
「見てもないのに聞くな」
「いやあ、5分ぐらい格闘してたんだよ。結局分からなかったからもう寝ようって」
「お兄ちゃんを頼りなさい」
「うん。だから今頼ってる」
なんか揚げ足取りみたいな感じだが、ちゃんとやろうとしてる意思があるだけよしとするか。
「ここを、こうしてだな……聞いてるか?恵」
くか〜といつの間にか机に伏せてよだれを垂らしていた。寝るの早すぎだろ。そんなに俺の教えは眠くなるか。俺は教師に向かんな。だけど、ノートを見る限りはちゃんと努力の証が綴られている。
「おやすみ。恵」
ベッドへと運んでやり、電気を消した。
明日はあいつに一人で料理作らせてみるか。




