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アプローチのかけ方

 我が料理研究同好会に待望の新入部員が入った。まあ、うちの学校は部活が強制されてないので、元々やってなかった生徒は入部届けを出すだけで終わりだ。

 まあ、まだ6月にも入ってないので正式に上げてもらえるのは10月の部長会議なのだが。

 なぜ10月かって?生徒会が前・後期と分かれてるからそこで編成が変わるせいだな。その部長会議があるまで生徒が部を移ることは手続きを踏めば可能だが、俺たちのような同好会が人数が揃ったからといって部に昇格できるわけではない。だから、部に昇格できるチャンスは5月の部長会議だったのだが、胡座をかいてたおかげで潰えました。


「すいませんねえ。胡座かいてた無能な部長で」


「無能とまでは言ってないだろ。そもそも、お前も気前が良すぎるんだよな。一年生に限り試食提供してんだもん」


「実は部員勧誘用で多めに部費が降りてたのよ。それでも節約したから残ってはいるんだけどね」


「と、まあ、普段は部費は雀の涙な我が同好会だ。つーか山岸はどうした」


 多少新入部員の花菱さんに説明してたはいいけど、もう一人部員が足りないことに今更ながら気づいたので聞いてみることにした。


「生徒指導は終わったけど、今度は赤点取ったから再試なんだって」


「あいつが普通に来れる日が来るんだろうか」


 前まで生徒指導で今回は再試対象か。行く末が不安すぎる。


「まあ、いないやつのことはおいといて、なんか質問あるか?」


「佐原先輩、部長さんとはどういう関係なんですか」


「……奴隷とその主人」


「なんか想像より悪化して返ってきました」


 引かれてる?おかしいな。花菱さんは俺に惹かれて来たはずなのに。いや、あくまで香夜ちゃんに負けたくないという理由でああ言ったのであって、俺に対する感情があるのかどうかは不明瞭なところである。わざわざ確認するものでもないが。

 しかし、ここまで追ってきてくれるというのも男冥利に尽きる話だ。美少女が二人も追ってきてくれたんだぜ?もう一人いる男は知らん。やつはほぼいないも同義だ。別に出したくないわけではない。やつが勝手に出てこないだけだ。現に出てるやつは出てるだろ?全て俺視点だけどな。いかにやつとの関わりが薄いかがこれで分かるというものだ。

 それにしても、美沙輝との関係を説明するのに、現状は間違ってないのだが、普通にこうやって引かれるから困ったものだ。


「賭けに負けたんだよ。2年の間はペットだ」


「佐原先輩はそれでいいんですか……?」


「無理難題、常軌を逸したようなことは命令してこないし、それも学校にいる間だけだし……ある条件を除いて」


「ある条件?」


「君がそれに対しては関わるかもしれんが、君に害するものでもないので後々に知ってほしい」


「はあ……別に絶対教えないというわけではないんですね」


「ついでに言えば君が加害者になりかねないがな」


「ちょっと待ってください。どういうことですか」


「気にするな。この企画を開催するたびに俺が毎回死にかけてるだけだ」


「佐原先輩の生命力はどうなってるんですか……」


「……閃いた」


「却下」


「お前は俺に慈悲というものを持ち合わせていないのか‼︎」


 部長直々による俺の閃きへの取り下げが決まった。俺が閃く=ロクなことではないという図式はいつから成り立ったのだろうか。こんな横暴が許されるのか?いや、許されない。

 だが、俺はこいつの従順な犬であり、まあ思いついたこともロクなことではないことは確かなので、それは甘んじて受け入れることにしよう。


「……それで、先輩は何を言いかけたんですか?」


「新たなる犠牲者の増員」


「せ、先輩のためになるなら……!」


「いや、ならないし、可愛い後輩が犠牲になることはないわ」


「……それで何をするんですか?」


「ただの試食会よ」


「なんだ。そうなんですか。……なんでそれで佐原先輩が犠牲に?」


「なんか縛られたり、アッパーカット極められたり、その後に踏んづけられたり、わけのわからん味付けをされた料理を残飯処理という形で俺が食わされるだけの試食会だ」


「佐原先輩。最初からおかしいです」


「だから君が犠牲になることはないという話だ。花菱さん」


「あんただからやってるのであって、アリサちゃんならやらないわよ」


「俺だから許されるという風潮は何処から?」


「妹の手料理とあんたを好きな子の手料理なんだからあんたが責任持って食べるのは至極まっとうなことじゃない」


「縛られたり、殴られたり踏んづけられるのは?」


「全部あんたが余計なことするからじゃない」


「……それ、全部同一人物の話だったんですか?」


「そもそも俺に平然と暴力を振るうのはこいつしかおらん」


「東雲さんぐらいならやりかねないかと」


「あの子の場合は言葉責めだから。ただ暴力を振るわれるよりメンタル的に傷つく」


「というより東雲さんどこ行ったんですか」


「今日はバイトだと」


「勤労少女ですね。そんなにお金に困ってるようには見えないですけど」


「……そう言われればそうだな。別にうちの学校勉学に支障が出なければ自由だし。まあ、香夜ちゃんことだし、お金があって困らない程度のことじゃないか?」


「……本当に困窮してるとしたら?」


「なら、俺の計画も断ったはずだし、恵の面倒を見ようなんてしないだろ」


「じゃあ、なんでしょうね」


「疑り深いなあ」


「佐原先輩は考えなさすぎです。東雲さんが過労で倒れたらどうするんですか」


「……香夜ちゃんがそこまで自分の管理ができない子じゃないと思うけど。無理な時は断っていいって言ってるし」


「普段どれぐらいで見てるんですか?」


「バイトはランダムに週2日。土曜日はだいたい泊まりで来てて、そうすると週4日ぐらいか」


「ちゃんと送り届けてるんですよね」


「ギリギリまでな。頑なに最後まで送らせてくれない」


「……佐原先輩。本当に好意を寄せられているんですか?」


「それは間違いはないが……俺自身軽薄なやつだし、優柔不断だし、香夜ちゃんが望まないことはしないからな」


「見切りをつけられますよ?」


「……それならそれで花菱さんには都合のいい話じゃないか?」


「ああ言えばこう言うんですね」


 少し呆れたように花菱さんはため息をついた。会話してて疲れたのだろうか。

 話そうとしないことを見ると、俺がまだ何か言うことを待っているんだろうか。それより前に、傍観している部長。何か言ってくれ。今日の部活内容何も言ってないぞ。


「何よ?」


「いやあ、何か言ってもらえませんかね?」


「私が何を口挟めと?」


「今日何やるかとか」


「そうねえ」


 今日は食材を持ってきてる様子もないし、本当に案内するだけで終わらす気だったんだろうか。ノープランかこの部長。気が抜けてんぞ。


「香夜ちゃんのバイト先に行きましょうか」


「何故⁉︎」


「いや、そんな驚くことかしら。なんか、香夜ちゃんがいないからモチベーション上がらないのよ」


「今までどうやって活動してたんですかね」


「それは存在を知らなかったからよ。知ってしまった以上はいるのといないとでは大きく私のやる気が変わるわ」


「部長めんどくせえ……」


「私はどうですか‼︎」


「アリサちゃん。こういうものは主張するものではないのよ。努力云々ではないと思うわ。でも、私は平等に愛します」


 お前はイエス・キリストか。どこの慈愛に満ち溢れた人やねん。いや、でも俺に対しては溢れていない。差別だと思います。


「可愛い女の子を愛でるのは当然のことじゃない?むさい男子をどうしろと?」


「俺、そんなにむさいか?」


「誰を比較対象として出せばいいのかわからないので私に聞かないでください」


「まあ、ここにいてやることないんだったら行きますか」


「恵ちゃんはどうするの?」


「今日何曜日だった?」


「木曜」


「なら自習してるか。連れてくか」


「自習してるなら無理に連れてかなくても……」


「高校一緒だから一緒に帰らないと恵が拗ねるし、親もうるさいんだよ」


「過保護ですか」


「過保護ですがそれが何か」


「えっと……恵ちゃんでしたっけ。私自身はあの子のことをよく分かってないんですけど」


「ただのポンコツだぞ。ドラ○もんでいうとこのび太君だぞ」


「……何か卓越した特技が一つや二つあるんですか?」


「いや、ない」


「のび太君以下じゃないですか……」


「そうもいうが、学力に関しては改善兆しが見えてるからな。よかったら、花菱さんも見てやってくれないか?」


「私がですか?東雲さんが見てるじゃないですか」


「今日みたいにバイトだったりすると見れない時もあるからな。無理にとは言わんし、別に勉強を見るんじゃなくて遊びに来てくれるんでもいいし。服に興味持ってただろ?」


「ふぐっ……もので誘惑しないでください」


 その割には結構揺らいでいるが。


「それはまた考えてもらうとして迎えに行きますか。戸締りは俺がするから先に天文部の方に行っててくれ」


「あんたにしては珍しく気がきくじゃない」


「一言余計だ。一応、ちゃんとやってるってことを見せとかないとな。新しい後輩に」


「後でボロが出るわよ。じゃ、アリサちゃんと先に行ってるわ。早く来なさいよ」


「おう」


 荷物、窓の鍵を確認し、家庭科室、および家庭科準備室の鍵を施錠した。意外に面倒だ。今日は何も使ってないからいいが、使っていたら器材がなくなってないかも確認する必要がある。

 しかし、ボロが出るってなんだ。俺は意外に真面目にやってるぞ。部長様からの目からはどう見えてるかはともかく。

 ……見えてるからこそのこの評価なんだろうか。

 一度ついた先入観はなかなか拭えないが、とりあえず誠意だけはこれから見せていくとしよう。

 しかし、確かに香夜ちゃんについてはあまり深く考えたことなかった。こちらも好きだと主張するのであれば多少なりとも知っておく必要があるんだろうか。もちろん、向こうが教えたくない、知られたくないと言うのであれば無理強いはしないが。

 誰かを好きになるって、大変だな。



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