41話:宣伝者
「え〜美味しい唐揚げ〜唐揚げはいかがっすか〜。なんと一個あたり100円!お買い得!」
「ぼったくりもいいところよ!コンビニで買った方が安いわ!」
「え〜こちらの部長様のお手製です〜。飢えてる男子諸君。言い値で売ってやる」
「悪徳商売すな!」
「全部買います‼︎」
元気よく釣られ……もとい買いに来たのが来た。誰だ値段も言わずに来たやつは……と思ったら恵だった。
「言い値は」
「お金ないからお兄ちゃん払っといて」
「はい。めぐちゃん」
「ありがとうございます〜はふはふ」
お礼を言い終えると同時に口に運んでいた。しかし、外で販売していたのになぜこいつはここにいるのだ。今日は活動日ではなかったのか。
「天王洲さんがお兄ちゃんと美沙輝さんが外でデートしてるから見てきてくれって」
「違うわよ……」
「どこをどう見たらデートに見えるんだこれ」
しかもあの人はどこから見てそれが分かったんだ。部室は4階だから人の判別なんかつかんだろうに。
「男女二人組でうろちょろしてたらデートでいいんじゃない?」
デートの概念が適当すぎる。下手したら男子と二人で話してたら付き合ってるとか言いかねんレベルだぞ。
「残念ながらこれは部員勧誘の一環だ。餌はお前の胃袋に全部消えたがな」
唐揚げを売って部費の足しにしつつ、宣伝もできる一石二鳥な作戦だったのに全ての目論見は水の泡となった。売り切れたからいいと言えばいいんだけど、こいつが全て食べてしまっては宣伝も何もあったもんではない。
でも、運動部に渡したところで転部してくれる奴もいるわけではないし、差し入れはマネージャーがやってるだろうし場所の選択を間違ったといえばその通りである。
「しかし、お前の胃袋どうなってんだ。結構な大きさのやつで20個程度用意したんだが」
「美沙輝さんの料理美味しいもん」
「この子は純粋で優しいわね〜どこかの兄貴と違って」
「俺も純粋に優しいぞ」
「あんたは邪な部分が滲み出てる」
「そんなバカな」
「もうないの?」
「お前はあんだけ食べてまだ食う気か」
「今の私じゃないよ?」
「あん?」
振り返ると一人の女生徒が立っていた。
背丈は美沙輝と香夜ちゃんの間ぐらい。まあ、150程度だろうか、とても小柄な印象だ。腰辺りまで伸ばしたとても明るめな髪色……いや、金髪ですね。おかしいな。この学校染髪禁止だった気がするんだけど。それに、目は碧色という表現がぴったりで、肌は白人のように透き通る白色である。
「金髪美少女⁉︎」
「いや……別におだてるほどでは……」
「可愛い〜うちの部に入らない?」
マスコットにする気か。男子を望んでいたはずの部長は突如現れた金髪美少女に虜になった模様。
「あの……唐揚げ買いに来たんですけど……」
「ごめんね。たった今全て売り切れちゃって」
「お腹いっぱい」
けぷ、と少しお腹を張らしていた恵の様子を見て察してくれたようだ。しかし、一瞬だったな。早食い選手権に出れるぞ。量の方は保証しかねるが。
「でも、初めて見ました。何部ですか?」
「料理研究……同好会」
「同好会?部ではないと?」
「去年立ち上げて、今年も部員勧誘してたんだけど人が入らなくてね。人数が足りてないのよ」
「ふーん。そうですか……ちなみに私が入るとなると部に昇格できるんですか?」
「部長会議っていうのがあってね。ゴールデンウィーク前と10月ぐらいに人数把握のための。だから入ってくれても正式に認められるのは10月になっちゃうわね」
「……先輩方はどうやってやりくりしてきたんですか?」
「いや、去年は二人だけだったんだ。俺は途中入部」
「一人はバカだから中々来なくてね……顧問は置物だしで、私一人が適当にやってただけなの。そうするとあまり活動にお金をかけなくても出来ちゃうのよね。他の料理教室に行ってみたりとかもして」
「そんなことしてたんか」
「今は恵ちゃんに教えてるから行ってないわよ。ただあんのバカは……ほんっとうに何にもやらないのよ!どうにかしてちょうだい!」
「俺に言うな俺に」
またも、首からお盆を下げてさながら試食コーナーの一角的なあれをやっていたわけだが、そんなことはお構いなく美沙輝さんは俺の胸ぐらを掴みあげる。
しかし、恵より小さいのにどこからそんな力が湧くんでしょうね?
「あの、とりあえず見に行くだけ行っていいですか?」
「ええ。もちろん。私についてきて」
「……ここの屍はどうするべきですか?」
「踏んであげると喜ぶから好きなように」
金髪少女は倒れこんだ俺の近くにしゃがみこむとジロジロ観察していた。俺の顔に何かついてますかね?もしくは面白い顔でもしてますか?
「さすがにそこまで特殊なプレイが好きな人には見えませんね」
「何を観察してたんだ」
「いえ、特には。東雲さんとお付き合いしてる方と聞いていたので一目見てみたかったんです」
「残念ながら恋人の関係ではないぞ香夜ちゃんとは」
というか、東雲さんって言ったか?
「香夜ちゃんのこと知ってんのか?」
「知ってるも何も同じクラスです」
……いたかな?香夜ちゃんしか見てなかったせいでアウトオブ眼中だったのかもしれない。現に香夜ちゃんのクラスメイトの顔を思い浮かべろとか言われても誰一人思い浮かぶ自信はない。
しかし、絵に描いたような金髪少女がこの学校にいたのか。
「なんかいまいちピンと来ないな」
「なんの話ですか」
「微妙にツンケンしてる感じが香夜ちゃんに通ずるものがあるんだが、キャラが被ってる」
「別にツンケンする以前に先輩だからそれなりに敬意を払ってるわけですけど。というか、キャラ被りってなんですか。人の性格を否定しにかかってるんですか」
「わかった。きっとツンばかりでデレがないんだな。香夜ちゃんデレを入れてくれるから」
「あの子……そんな話す子なんですか?」
「そういや、教室じゃ滅多に喋らないとか言ってたな。普通に喋る子だぞ。そして喋ってるとどんどん構いたくなってくるぞ」
「それは先輩だけでは……」
「そういや君の名前聞いてなかったな。なんて言うんだ?」
「後で言います。行きますよ、佐原先輩」
向こうは俺の名前知ってんのか。
独自に調べたのか俺のファンか。
……後者はないな。俺のファンとか一年がそれも入って一ヶ月ちょいの子が俺を知ってること自体が普通はおかしいからな。
また、一つの可能性が浮かんだが、それはあとで聞き出すことにしよう。向こうに支障がなければだけど。




