35話:毒味科学班(生贄募集中)
新たな賭けが発生した。
賭けの内容は香夜ちゃんのファミレス制服プロマイド写真。俺は中身を見てません。
というか、俺に選択権はないそうです。選択権がないというか、選択肢に入ってないそうです。最初から除外対象。
そんな俺に何をしろという話だが、相変わらず適当に作ったものを胃の中におさめろという役割です。そこの女子3人よ、世間ではそれを残飯処理班と呼ぶ。せめて、味見とかにしてください。
この前はクッキーとビスケット、あとは生姜焼きだったか。今日は何を作るんだろうか。
「そして、美沙輝。なんでお前は俺の横に座ってる。監修はどうした」
手順の管理、味付け等レシピを恵に渡していたはずなんだが、今日はそれすらもない気がする。不安要素の塊で恵に任せないで。
「まあ……親心?」
「不安要素の塊に任せることがか」
「ライオンは我が子を崖から突き落として這い上がってきた子を自分の子として育てるって言うわよね」
「あいつの場合は突き落とされた先で這い上がることを諦めて、下でのうのうと生きてると思う」
「……これ、どういう企画だったっけ?」
「底辺から這い上がる方法だな。ただ見た目だけは努力しなくていいということだけに置いて大きなアドバンテージだろうな」
「あんた大概シスコンよね」
「妹思いといえば聞こえはいいのにシスコンと言われると途端に変態くさく聞こえるのは何でだろうな」
「……妹思いが行きすぎた結果じゃないの?」
「ここで一つシスコンの定義を決めておこう」
「ウィキでいいでしょ、ウィキで」
「いや、シスコンというのは実に多様的だと思うんだ。男からのシスコンと女からのシスコンでは意味合い……というか、世間的な見られ方が変わる気がする」
「例えばどんな風に」
「男からだと独占欲、というかなんか性的な目で見てるんじゃないかと疑われるが、女からだと純粋に妹を可愛がってるみたいな感じ」
「それ、あんた限定じゃない?」
「世の中にはいると思う。まあ、実際のところ妹という存在に憧れを抱いてる天王洲先輩みたいなのもいるし。あの人もシスコンという定義に当てはまるのではないだろうか」
「逆に妹から姉という矢印だとどうなるの」
「同じくシスコンだろ。ただ、図式的には妹から兄という需要は俺の中にはあるし、世間一般的にもある」
「どこの界隈の世間一般なのかしら……ていうか、あんた本当に恵ちゃん狙ってる気じゃ……」
「え?恵狙うぐらいなら香夜ちゃん狙うから」
どこかで何か落ちる音と、俺の体が宙に舞う瞬間がシンクロした。
ちょっと待て、俺の体に推進エンジンは付いてないぞ。
そして、舞い上がってから地面に着くまで約1秒あったかどうかだろうが、やたらと長く感じたのは何でだろう。
俺はそのままフローリングの床に叩きつけられた。
意識があるのが余計に辛い。しかし、体が痛くて動ける気もしない。
なんとか顔を上げて助けを求めたが、ようやく見えた足はそのまま遠ざかっていた。俺に救いの手はないのか。
「あの……先輩。大丈夫ですか?」
女神がいた。
「香夜ちゃん……」
「はい?」
「今日は白なんだな」
「やっぱりそのまま死んでてください。今から包丁持ってきます」
「トドメを刺さないでください。まだこの位置から動けないから。不用意にそこに立った香夜ちゃんサイドに問題は……」
「ないです。やっぱりスカート履くべきじゃなかったです。先輩みたいなすぐに覗こうとする変態がいますし」
「香夜ちゃんが可愛いからです。可愛い子なら必然的なことなのです」
「以後、今のような状態にならない限りは先輩は私の一歩後ろに立って、風が強そうなら全力でスカートを抑えてください」
「いえっさー姫。今は見てもいいということ?」
「踏んづけられたいんですか」
「香夜ちゃんからなら本望だぜ」
「……末期ですね。さすがに色々許容してきましたが今のはさすがにドン引きです。マイルドな変態の先輩はどこに行ったんですか」
マイルドな変態のラインがわからないけど、踏んづけられて喜ぶということは香夜ちゃんの中では許容範囲外だった、ということだな。
いや、さすがに適当に口滑らせただけで本当にそこまでは思ってないですよ?まあ、望む望まないに関わらず
「おえっ」
「ああ、まだ寝てたの」
このようになんの悪びれもせずに踏みつけていくやつがいるからな。これはただの追い打ちであり拷問である。
「せんぱーい。生きてますかー」
そんな棒読みで声をかけられても復活しにくい。いっそ、このまま倒れていたほうが幸せなんじゃないだろうか。
「香夜ちゃん……ここに来たんだったらとりあえず今日は何を作ったのか教えてくれない?」
「今日は私と共同で作りました。前回の反省を活かして」
なんの反省だろう。前回は生姜焼きだったっけ?あれは、恵の盛り付けが原因で香夜ちゃんに軍配が上がったけど。
「ちなみに盛り付け以外全部めぐちゃんに任せました。なんか特異なものを入れてても見て見ぬフリをしました」
止めてくれ。香夜ちゃん、俺がどうなってもいいのか。
未だ床に這いつくばっている俺の元へ料理?が運ばれてきた。
本当に何を作ったんだ。
「あれ?お兄ちゃんは?」
「ここだよ。めぐちゃん」
「何してるのお兄ちゃん。香夜ちゃんのスカート覗くためにそんな体勢なの?」
妹からの俺の評価はかなり酷くなっていた。いつからそんなことを言うようになった?美沙輝に毒されてないか?いや、正しい反応なのか。これを正しい反応とかいうのは兄としていかがなものだけど。しかし、美沙輝。お前は何も説明しなかったのか。
恨めしそうに目を向けたが、目があったらなんか笑顔だった。なんでだよ。
「色々言いたいことはあるがあと30分ぐらいはこの体勢から動けそうにない」
「どうしよっか」
「私が食べさせるよ」
「すいません。せめて起き上がらせるなりなんなりしてください」
「誠に残念ながら私の力じゃ先輩を起き上がらせることは無理です。美沙輝さんはまず手伝いません」
「なら恵と力合わせてくれ」
「すでに手伝ってての結果です」
そういえばなんか、後ろで脚が持ち上がりそうで持ち上がってないような感覚がある。んしょ、とか力入れてるみたいだけどまったく無意味である。筋トレさせるか。フライパンを持ち上げるだけの筋力じゃ、洗濯とかできんぞ。
「仕方ないですので私が食べさせてあげます」
「前回と変わってない気がします」
「前回は特殊な状況だったので」
「今のは特殊な状況じゃないのか」
「これは先輩の自業自得かと」
「……わかった。状況は甘んじて受け入れよう。しかし、何を作った」
「……ダークマターですかね?」
「うちの妹は暗黒物質を生み出すことができたのか。すげえな。そんなモン食わせんな」
「冗談です。見た目はそうですね……レバニラ?」
「なぜ疑問系な上にレバニラというチョイスなのか謎なんだが」
「あ、ああすいません。ニラが本当にニラかと思って。レバーを使ってるところは見てたんですけど」
要するにニラだと思われるものは焦げてるということか?
根本的にどんな味付けをしてるかもわからんが、うちの妹は自分で味見というものをしなかったのか?
「私は食べる気はないですので先輩完食お願いしますね」
「いや……あの……」
すでに香夜ちゃんから箸が差し出されていた。
それを横たわったまま拒むことも出来ないのでそのまま口に運ばれた。
うん。とりあえず言えることは新しい生贄を用意することだと思った。




