32話:宣戦布告
「お兄ちゃんの人権を賭けて勝負だよ!」
「めぐちゃんにできるんですかね。精々足掻いてください」
「むきー!吠え面かかせてやるんだからー!」
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以上微笑ましい宣戦布告の一部始終を送りしました。
さて、何故賭けの対象が俺の人権なんでしょう。まだ取られてないよ。一学期の間はまだ大丈夫だぞ恵。
まあ、戦争の規模はかくして狭いも狭い。猫の縄張り争いみたいなもんだから。まあ、本人にとっては一大事みたいなそんなもの。
それと一つ言いたいが、香夜ちゃんに俺の人権を握られてるのは何故ですか?美沙輝が託したのか?
まあ、香夜ちゃんにあれこれ命令されるぐらいなら悪くはないかもしれない。
こんなこと考えてる時点で俺はだいぶ末期なのだろうが香夜ちゃんへの愛が歪んだ結果です。ちっちゃい子が「あれやってください」「これはダメです」とか想像してるだけで萌える。そして、俺の秘蔵品は燃えていく。
「ということを阻止するためにも頑張るんだ恵」
「お兄ちゃんが自分本位すぎて私はやる気がストップ安だよ」
「どうしたらやる気が上がる?マイプリティシスター」
「お兄ちゃんが私の目の前で香夜ちゃんに告白してくれたらかなあ」
「それはお前が俺たちが目をかけなくても自立できた時だぞ」
「今のところパーセントで言えばどんな感じ?」
「……1000%で5%くらい?」
「お兄ちゃんは私の成長を見てないのか!」
「というか、一ヶ月そこらで成長できるならみんなしとるわ。お前の長年培ってきた残念な部分を色々試行錯誤してどうにかしようって話なんだから時間はかかる」
「私が……培ったもの?自慢じゃないけど何も培った記憶がない」
「それを自負するのか。まあ、いいから手を動かして頭働かせろ」
「香夜ちゃん何やってるかな?」
「香夜ちゃんは努力するうさぎだからな」
「お兄ちゃんうさぎ派?」
「いや、うさぎとかめの話ぐらい知ってるだろ」
「えっと、どっちが早く目的地に着くか競争しようってやつだよね」
「そう。もちろん脚はうさぎのほうが速い。だが、そのうさぎは慢心王でした」
「調子に乗った挙句負けるんだね。どこかの金ピカの王様かな」
「その金ピカの王様は慢心がなければ負けないはずなのにな。なぜ防具を捨てて戦闘してるんだという話だ。と、まあそんなこんなでかめの方が勝つというわけだ」
「この話は何を伝えたかったの?」
「才能があっても怠れば堕ちるし、歩みが遅くとも努力をすれば才能にも勝てる見込みはありますよってこったな」
「才能がある人が努力したら?」
「諦めるこったな。人間、挫折を繰り返すことで自分というものを作っていくんだ」
「自慢じゃないけど挫折はしたことありません!」
「じゃあお前が香夜ちゃんになれるか?」
「うっ……無理です」
「だろ?そういうこった。理想を追ったところでそれは劣化コピーにしかならんからな。オリジナルを作らないといけないな」
「オリジナルかぁ」
「例えば、現段階でなら香夜ちゃんに勝ってるところを伸ばすとかな」
「私が勝ってるところって?」
「……………………」
「とっさに出てこないぐらいならいいよ!」
拗ねてしまった。
悪い恵。身長とか胸の大きさとかそんなんしか出てこなかった。それは俺がどうこう言ったところで伸びるもんでも膨らむもんでもあるまい。しかし、香夜ちゃんはここから成長しても恵の背は超えなさそうだが。
どこからか、そんなことないです、と声が聞こえてきそうだ。香夜ちゃん。君はそのままが可愛いからそのままでいてください。貰い手は俺が真っ先に手をあげるから。
恵は拗ねたと言っても、教科書と向き合っていた。
勉強癖をつければ、したくなくとも勉強しないと落ち着かないという状態を作らせることが可能だ。
まあ、元々そんな癖はなく五分で集中の切れるこいつがこうして勉強するようになったのは成長なんだろう。
まだ、こうして俺や香夜ちゃん、もしくは美沙輝が見てないとやらないのかもしれないが、こうして教科書と向き合ってる妹を見ていると感慨深い。
が、すぐにうつらうつらと舟を漕ぎ始めた。
「寝んな」
「はえ」
目が潰れる寸前だ。寝るなと言ったものの、この状態では頭に入るものも入らないだろう。
「一回風呂入ってこい。一時間ぐらいは目は覚めるだろ」
「ん~……おにぃちゃん連れてって……」
「甘えるな」
「く~」
アカン。こいつはガチで寝に入ってやがる。
明日も学校なので流石に風呂に入らないまま寝かせるわけにもいかん。花の女子高生の名が廃るぞ。
何度こいつをおんぶしなきゃいけないんだ、と思いつつも、こうやって俺を頼っておんぶをしてあげられるのも何度あるんだろうと考えていた。
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「あと一時間だけ頑張るのでお兄ちゃんよろしくだよ」
「やる気は買ってやるが、勝負の条件は一科目でもいいから勝てばいいのだ。他の科目がいかにひどい点数であろうともな」
「それはそれで香夜ちゃんに申し訳立たない」
俺にはいいんですかね?
「まあ、ある程度……そうだな、60〜70ぐらいがラインか。一科目だけ100点目指して頑張れ。俺の人権かかってるから」
「お兄ちゃんと美沙輝さんは何を張り合ってるの?」
「どちらの指導力が上かという事だな。美沙輝に取っては勝てば利益、負けても損はないから飲んだだけだぞ」
「そうなのかなあ」
「何が言いたいんだ」
「理由にかこつけてお兄ちゃんと一緒にいたんじゃないかなって私は思ってるよ」
「あいつが?まさか」
おたまでボコスカ殴るのが日常茶飯事なあいつが俺といたいねえ。精々、ストレス発散器具が関の山だと思われる。
正直、俺が知る女子では一番乙女であると思うのだが、リアリストでもあるので、俺の前でそれがうまいこと調和されて出てくることはほとんどない。
んー、今思えばあいつなりにアプローチしてんのか?いつも、牽制してもかわされるし、挙句ため息つかれて諭されるし。
「俺はどうでもいいんだよ。ほら、早よ手動かせ。俺は数学が得意だから数学だけ100点取る方法を教えてやる」
「え?そんな方法あるの⁉︎」
「簡単だ。ここに過去問がある。どうせこれ以上のものはどうせうちの教師にはできん。どこまで進んでるのか知らんが去年と変わりはしないだろう。さすがに香夜ちゃんがやった範囲を隠すわけないしな。数I.Aで間違いないよな?」
「実はですね。Aのほうは香夜ちゃんからしか教えてもらってないのです」
「……たぶん、香夜ちゃんは……」
ある一つの香夜ちゃんの思惑を思いついた。だけど、それは香夜ちゃんにしか利益はない。まあ、心の中だけで愉悦に浸るだけなのだろうけど。
「いや、何でもない」
「なんなの?」
「お前にはちと頭が面倒なことになる話だ」
「ならいいや」
うちの妹の諦めの良さに脱帽する。
頭を使うと言った途端にこれだ。今までが、どれだけ使ってなかったのかうかがえる。
でも、余計に使わせるべきではないのは確かな話であるので、首を突っ込んでこないのはよかった。
「……惠、お前香夜ちゃん以外に友達いるのか?」
「なんなの急に。そりゃ、お兄ちゃんは香夜ちゃんといるところしか見てないかもしれないけど、私にだってちゃんと友達はいるもん」
「そうか。ならいいが」
「お兄ちゃん、何か心配なの?」
「いや、俺もあまり友達が多いとは言えない人種だからな。まあ、友達はその場その場を楽しむための便利ツールだよな」
「友達を道具扱いするのはお兄ちゃんぐらいだと思うよ。……お兄ちゃん、美沙輝さんや香夜ちゃんまでそう思ってるの?」
「いやあいつらは……」
その場凌ぎで終わるような関係ではない。しかし、ずっとその関係が続いていくのかは分からない。結果、高校を卒業後してしまえば、この街から出ていく可能性だって考えられるんだ。
誰が?
そんなのは、俺や美沙輝、先に天王洲先輩だって国立医大を目指しているのなら出ていく可能性は高いだろう。
周りに頼れる、頼りたい人がいなくなって恵は一人でやっていけるのだろうか。
成長することは知ってるし、いつまでも子供じゃないってそんなこともわかってるが、どうしても不安はぬぐえない。
自分が、こいつのお兄ちゃんだからなのか。
言いよどんでる間に、恵はすでに机の上に頭が乗っかっていた。限界がきたのだろう。
「ったく、風邪ひくぞ」
ただ、まだ俺も恵もお互いがお互いを構わなくなることは当分ないのだろうと感じた。




