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3話:偵察

 百聞は一見にしかず。

 とはよく言うものの、事前情報、前情報というものは、その対象のイメージをするのに役立つものだ。取捨選択する必要はあるけども、完全に断ち切って集める必要はないということにはならない。

 だから、俺は事前に妹に、香夜ちゃんのことを聞いてみたわけだ。どんな子なのかを。

 だが、妹は妹だった。全く使えなかった。せいぜいわかったのが、所属クラスぐらいだ。


「で、お前さんのお目当という子はどの子だ?」


「別に告白しようとかそういうことで調べるわけじゃないからな?」


「え?違うのかよ」


「妹の友達なんだが、なんでうちの妹と友達になったのか。それを今も続けてるのか。それは並大抵ことではないと思うんだ。だから、その強靭なる精神がどのようにして育まれたのかを調べる」


「お前の妹を逆に見てみたくなってきたんだが、このクラスにいる?」


「いない。別クラス」


「んだよ」


「ちなみに俺の妹は駄妹でどうしようもないポンコツだが、目に入れても痛くない可愛さだ。見ればすぐわかる」


「お前は大概シスコンなあ」


 ただの事実である。

 そして、さっきから一緒に一年生のクラスを覗き込んでいる、怪しい人物は初神はつかみ はじめ。まあ、変態だ。


「お前は自分の今やっている行動を全部俺に押し付ける気か」


「ああ、そのつもりだ」


「どれだけお前の友人やってると思ってんだよ!」


「たかだか一年あるかないかだろ。高校からなのに」


「それもそうだな……ってそんなんで納得するか!」


「じゃあ、どうすれば納得するんだよ」


「お前のお目当の子を教えてくれれば手を打とう」


「え〜」


「じゃあ、妹」


「だるい」


「お前は本当に友達がいがないな。しかし、こうして見てるだけで人となりが分かるものか?」


「……それもそうだな。一理ある。ならば呼んでみるか」


 覗き込んでいたが、向こうが気づく様子もなく、かといってその扉をくぐっていく他の人たちが邪険にするわけでもないのでずっとここにいたわけだ。

 うちの制服はブレザーなわけだが、学年ごとでネクタイが色分けされている。だから、俺たちが先輩であるということが分かったのであろう。

 要するに敬遠されてるわけだ。

 さすがに、ここから大声出して呼ぶのもいささか気が引けるし、向こうにも迷惑だろうということで、その辺の適当に出てきた1人を捕まえて呼んでもらうことにした。


「何しに来たんですか」


「まあ、そうツンケンしないでくれ。デートに行こう」


「お断りします」


「飯は全部俺のおごりだ」


「喜んでいきましょう」


「すげえ現金な子だな、おい。そして、お前は颯爽とデートに誘うのかよ」


「この人は?」


「俺の友人らしき人」


「友人じゃないんですね」


「友人だよ!お前は何なんだよ!人をいない人扱いすんな!」


「いや、正直邪魔だし、なんでついてきたの?っていう感じだし。お前だって色眼鏡で付いてきただけだろ」


「それは否めないな」


「というわけで帰れ。今から話すことあるから」


「……仕方ねえな……もう少し物色してから帰らあ」


 このクラスは一通り見ただろうし、他のクラスでも行くのだろう。

 あいつは放っておくとして。


「ここではなんですので、場所変えましょう」


「そうだな」


 ーーーーーーーーーーーーー


「この学校、屋上空いてるんですね。安全管理とかどうしてるんですか?」


「屋上使ってる部活もあるかならとかなんとか。こうやってベンチとか置いてある時点で使ってくださいって言ってるようなものだろう」


「はあ。そういうものですか」


 あまり立ってはいたくないのか、そそくさとそのベンチをめがけて歩いていった。

 そして、座ったのちに振り返って俺を手招きする。


「先輩も早く来てください。1人で座っててバカみたいじゃないですか」


「学校じゃお兄さんって呼んでくれないんだな。少し寂しい」


「あれは便宜上そう呼んだだけで特に呼ぶ理由もないですし。先輩で十分でしょう?」


「まあ、後輩の女の子からそう呼ばれることには少し憧れてた」


「夢叶ってよかったですね」


「ああ」


「…………」


「…………」


「会話をやめないでください。私に用があったんでしょう?」


「そうだそうだ。デートだな」


「脈絡ないせいでどうしてそうなったのかよく分からないんですけど」


「香夜ちゃんのことを知っておこうと思ってな」


 そう言うと、香夜ちゃんは俺から身を引き、身構え始めた。


「さらっとそういうこと言わないでください。何が目的ですか?身体は渡しませんよ」


「そんなつもりはないが……。協力してもらうにあたって、俺は香夜ちゃんのことをほとんど知らないことに気づいてだな。お互いのことをどんな人かわかっておけば、今後どういった計画を立てていくかがやりやすいと思うんだ」


「先輩はとりあえず言葉足らずな変態だとわかったので十分です。各々やりましょう」


「協力はどうなった」


「先輩から邪な気持ちしか見られないので」


「あるうぇ〜?」


 とんだ評価をされていた。百歩譲って元が変態だとしても俺を変態扱いするのはよろしくない。


「そもそもあんなところでずっと見てて自分だけ変態じゃないと言い張るのも恥ずかしい言い訳ですよ」


「いや、見ていたことは認めよう。だけど、決してやましい気持ちからではない」


「じゃあ、なんですか」


「香夜ちゃんの偵察」


「……………」


「……………」


「話しても無駄でした。帰ります。デートの話はなかったことに」


「待て待て待て。いや、すいません待ってください。誠意は見せますんで付き合ってください」


「後輩の女子に情けないとは思わないんですか」


「妹の現状を打破できるのならば、プライドなんて捨てましょう」


「めぐちゃん、愛されてますね……愛され方が歪んでるような気もしますけど。仕方ないですね。さすがに、変態というレッテルを私が貼ったままでは私も協力しにくいので付き合ってあげますよ」


「ありがとうございます」


「それで、いつします?」


「香夜ちゃんは部活とかやる気ないのか?」


「……先輩と同じ部活なら入ってもいいですよ」


「なら、デートの時に教えてやろう」


「意地が悪いですね」


「まあ、その時までに調べるのもよし、考えるのもよしだ。話のタネぐらいにはなるだろ」


「微妙に姑息な気もしますけど……。まあ、誘うぐらいですからデートプランぐらいは考えておいてください」


「ああ、任せとけ。だが、俺は一度もデートというものはしたことないから確実に楽しめるかどうかは保証できん」


「別に期待はしてないです。私のために考えるということが大切ですから」


 昼放課の終了の予鈴が鳴る。

「さて」と香夜ちゃんは立ち上がって先に戻ると告げていった。

 一緒に戻るのも面倒な話だろう。

 俺は少し遅れていくとするか。

 えっと、次の授業は……古文か。ダルいな。

 だが、俺はいい子なのでちゃんと授業には出席して惰眠をむさぼることに……じゃなくて、睡眠学習をするとしよう。



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