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26話:流れ星に願いを

 6時。目を覚ました。

 なるべく早く出られるように目覚ましをセットしておいたのだ。理由としては、香夜ちゃんがいつ来るか分からないので、店が開くより前にもう家を出てしまえという寸法だ。

 結局恵はそのまま寝てしまったし、いつ来るのか全然把握できていない。香夜ちゃんも不躾な子じゃないし、そんなに早くは来ないとは思うけど。

 しかし、休みとあって両親はどちらも起きてなかったみたく朝食は自分で作ることにした。こうして俺のスキルは高められていくんですね、分かります。

 さっさと朝食を食べ、身支度を整えて、玄関を出たところで気づいた。


「財布忘れた……」


 お金がなければ何も買えない。俺にクレジットカードなんて洒落たもんがあれば別だが、根本的に俺自身で管理している通帳などない。

 俺は靴まで履いて出てきたのに、再び部屋に戻って机の上に放置してあった財布をポケットに入れて部屋を出た。

 が、そこで会うはずのない人物がいた。


「か、香夜ちゃん?なんで家に……」


「実はですね、先輩が送り届けた後、必要最低限の荷物を持って、お邪魔しました。ご両親には了解とってますし、昨日はずっとめぐちゃんの部屋にいたのであしからず」


 だからなんで俺だけそういうこと言わないの?俺だけハブにして楽しいですか。俺をいじめて楽しいですか。


「ついでにスタンバって、先輩の財布を抜き取って再び机の上に置くという二度手間をしたのも私です」


「本当に余計な手間だよ……」


「おかげで目を覚ます時間をいただきました」


 たかだか2、3分ぐらいの話なんですけど。


「して、先輩はどうしてこんな早く外出しようと?」


 現時刻は7時半ぐらいだろうか。確かに学校に行くでもないのに出て行くのは早すぎる時間だ。

 それもこれも目の前のこの子ためなんだが、それではサプライズにはならない。


「と、とりあえず入り用なんだ。恵のことは頼んだぞ」


「そうですか……先輩、私のこと置いていくんですね。せっかく、先輩が好きそうなパジャマを着て恥ずかしいけどこうして前に出てきたっていうのに……」


「いや、それ恵のやつだろ。見たことある」


 というか、そんな潤んだ目で俺を見ないでもらいたい。寝起きのせいかもしれないが、香夜ちゃんにそんな目をされたらノーと言えなくなる。悲しき俺の性。

 しかし、香夜ちゃんのパジャマ姿というだけでくるものがある。先日まで下手なことされたら困るとの理由でジャージを寝巻き代わりにしていたぐらいだ。俺に心を開いてくれているということだ。

 まあ、このまま確かに放置していくわけにはいかないので、朝ごはんを作ってあげて、連れて行くことにした。

 恵は……まあ、美沙輝に頼むとするか。

 送った結果10時から来てもらえることになったが、二学期間は奴隷となることが確定した。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「それでこんな早く出てどうするんです?まだファストフードかコンビニ程度しか空いてないですよ?」


「いや、俺は香夜ちゃんが起きる前に食べたから。どれだけ食うと思われてんだ」


「まあ、私だけに出すのは不自然でしたけど、私に甘いだけかと」


 確かに甘いですよ。ええ、その通りです。

 しかし、こうして一緒に出たのはいいが一緒に行くプランなど立てていない。

 出来る限り時間を引き延ばして、今日ならうまいこと二人が引き留めてくれるだろうから夕方ぐらいに帰る予定だったのだが。


「そういえば、今日星を見に行くんですよね。どこに行くんですか?」


 情報は筒抜けか。サプライズも何もあったもんじゃないよ。余計なことばっかり話すな妹よ。


「それがな……頼りにしていた天文部部長が今日は予定があるとかで無理っぽくてどうしたもんかと」


「……そうですか。でも、その部長さんよりも詳しそうな人ならいるじゃないですか」


「誰だ?俺には心当たりはないぞ」


「心当たりがないというか、ないように思ってると言った方が最適解な気もしますが」


「それで……誰だ?」


「あの人です……天王洲先輩」


「あの人か……俺は連絡先は知らん。起きてるか分からんが恵に連絡しておくように頼もう」


「まあ、来てもらえるかはともかく」


「あの人、恵の言うことならホイホイ聞きそうだからなあ」


「正直どんな人かはまだ私は不透明ですけど」


 知らなくていいよ。香夜ちゃんまでターゲットにされることはない。

 一応、確定ではないがあの人は男より女の子の方が好きだろう絶対。しかもなぜだか妹という存在に固執している。

 まあ、香夜ちゃんは俺にとっては妹のようなそれ以上のようなよくわからない関係の子だが、一人っ子なのだからよほどターゲットになることはないのではないだろう。初見で妹でないのが残念だとまで言っていたからな。

 そういや、会ってるといえば会ってるのか。


「香夜ちゃんは渡さん!」


「いや、先輩のものでもないですけど。別に危惧することでもないですよ。結局、私はツルッとぺったんこな特定需要しかないのです」


「俺にはストライク!」


「……今からでも遅くありません交番に行きましょう。犯罪は起こる前から撲滅するべきです」


 なんでフォローしたのに犯罪者予備軍扱い?俺、香夜ちゃん好きだよ?香夜ちゃんは特定需要なんかじゃないよ。

 そうだ。せっかく、本人がいるんだ。妄想だけで終わらすんじゃなく、実現させよう。


「香夜ちゃん。一緒に来てもらったからにはやってほしいことがある」


「すいません。急用思い出しました。帰ります」


「まあ、そう言わずに」


 本当に俺のこと好きなの?疑わしくなってくるよ。

 ふむ、なるほど。


「何を頷いんたんですか」


「今はムチの状態なんだな、と」


「……9:1でいいなら」


 どっちが9なんですか。

 言うまでもありませんね。俺に自重しろと言いたいんでしょうか。しかし、距離感がわからなくなった。もう、何も知らない状態ではない。が、何も分かってない状態でもある。精々知ってるのは誕生日ぐらいだ。


「先輩。……私が言うのもなんですが今日、私の誕生日なんです。めぐちゃんから聞いたと思いますけど。だから、わざわざ隠そうとしなくてもいいです」


「まあ、流石にバレバレか」


「めぐちゃんが話したって言ってたから……どうせ、昨日の今日知ったってことで今日、私に会わないうちに買いに行こうとかそんなこと考えてたんでしょう?」


「全部正解。敵わないな」


「でも、今日だからって諦めずに買いに行こうとしてくれたのは評価します。それで、何を買おうと思ったんですか?」


「そう。それを付き合ってもらおうって話だ」


「……そうですか。身構えて損しました。それで、何を買いに行くんです?」


「香夜ちゃんの服」


「なんか執着しすぎじゃないですか?最終的に先輩コーディネートで私を着飾るつもりですか」


「それもいいかもしれんが、今日はスカートだ」


「もうすぐ夏なので夏物出てるはずです。買いに行きましょう」


 それ高くない?俺の財布の心配はなしですか?

 意外にウキウキに見えるのはちょっと興味を持ったのだろうか。いいことである。女の子は可愛くしないとな。

 今でも十分可愛いけどな。


「先輩。目が犯罪者です。自重してください」


「目が犯罪者って俺、第六感とか開眼してないから目を閉じて歩けないぞ」


「その時は介護してあげますので」


「前提条件が厳しいですけど」


「隻眼の佐原にしませんか?」


「どこの厨二病患者だ。そんな痛々しいキャラにはならんぞ」


「なら隻腕に……」


「どこのシャンクスさんですか。麦わら帽子プレゼントしねえし、4皇とか呼ばれてねえよ」


「……先輩、私麦わら帽子欲しいです。ついでに服も」


 服の方がついでですか?


「ちょっと憧れてたんです麦わら帽子。でも、男の子が被るようなものの気がして、実際こんな体ですから下手をすると男に間違われかねません」


「可愛いと思うけどな。ワンピースで麦わら帽子を被ってるのなんか鉄板な感じがする」


「はい。私もそれに憧れてました。ということで、買ってください」


「よし、可愛い妹のために買っちゃうぞ」


「先輩の妹じゃないです。後輩です」


 可愛いの所を否定しないのな。

 まあ、どこかを否定すればどこかが蔑ろになるのは仕方ない。

 しかし、買うと言ったもののまだ時間がある。あと、ざっと2時間程度だ。

 まだ夏前とはいえ、5月に入ると日差しは暖かいというより暑く感じる時もある。


「先輩」


「ん?」


「歩いてどこまで行くつもりですか。学校じゃないんですからもっと遠いでしょう」


「そうですね。何も考えてませんでした」


「ここからなら私の家がまだ近いです。自転車使ってください。一つしかないので先輩が漕いでください」


「流石に香夜ちゃんに漕がせてまで二人乗りしようとか言わねえよ」


「捕まったら先輩を置いて逃げます」


 薄情な後輩だった。

 自転車登録君の名前だからどっちにしろ香夜ちゃんの方に行っちゃうよ。


「まあ、こんな朝っぱらの休みから目を光らせてなんていないだろ。とりあえず香夜ちゃんの家に行こうか」


「こっちです。ついてきてください」


 自然と香夜ちゃんは俺の手をとって引いていた。

 随分と小さな手だ。

 最初に会った時の拒否られようからだいぶ進歩したように思える。

 どうかしましたか?と香夜ちゃんから聞かれたが、何でもない、と返答し香夜ちゃんの家へと向かった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 残念ながら家の中に上げてもらえるということはなかった。確かに自転車取りに来ただけだし、上がる必要も香夜ちゃんにとって上がらせる必要性もない。まあ、楽しみは後にとっておけってやつですな。それはいつ頃になるのでしょうか。上げてもらえないということはまだ信頼が足りてないということですか。

 愚痴っていても上げてもらえなかった事実は変わらないので、香夜ちゃんを後ろに乗せてえっちらこっちら自転車を漕いで行く。にしても、本当に軽いな。この子の将来が心配になるぜ。


「香夜ちゃん。食べるのは好きか?」


「? そりゃ食べなければ生きていけないから必要なことではありますが、先輩ほど執着してませんけど。私が重いと言いたいんですか」


「逆だ逆。軽すぎて不安なんだよ」


「小さいからということにしておいてください。どうせ145しかないんです。頑張ったところで150には到底届かないと思います。私の身長は中学の時に止まったんです。あとは横に成長しすぎないように節制してるんです」


 世の中にはBMIなる太ってるか痩せているかを簡易的にみる指標がある。

 運動を習慣的にしている人はそこに漏れないが、香夜ちゃんが特に何か運動をしていたという話は聞かない。


「なあ、香夜ちゃん。中学って何部入ってたんだ?」


「……私、陸上部だったんです。短距離の選手でした。結構速くて割と注目されたりもしてたんですけど、中学一緒だったのに先輩知らなかったんですね……」


「さすがに同級生ならいざ知らず、下ってなるとあまり目が向かなくて……」


「まあ、いいんですけどね。今でこそ部活には入りませんでしたけど、できる限り朝走ってるんですよ。習慣みたいになってるので」


「今朝は?」


「先輩に甘えます」


「こういう時だけ使い方がうまいんだからなあ」


 そんなことを話してる間に目的地のショッピングモールに到着した。一応、映画館と食品売り場は開いてるようだが、肝心の服屋、まあ今時はブティックとでも言うのか知らんがそこらへんは開いてない。


「食品売り場でも行きますか」


「映画館の選択肢がない時点でお金がないことがわかりますね」


「何買うか分からんから中途半端にお金がかかる映画に使うわけにはいかん」


「私も見たいものがあるわけでもないのでいいですけど。でも、食品売り場で何をするんですか?」


「新婚さんごっこ」


「先輩一人でやっててください。確か近くにめぐちゃんが好きなものを取り扱ってるお店があると聞いたのでそっちに一人で行きます」


「俺を置いていかないで。だいたいそこだって10時ぐらいにならないと開かないだろ」


「じゃあ、お菓子売り場で粘りますので付き合ってください」


「嫌な客だな」


「レジでギャーギャー騒いだり、精算途中に商品追加したり、列に割り込んでくるオバさんとか、騒いでる子供を放置する親とか、買わずに商品を開封する外国人とか子供とかよりよっぽどマシです」


 スーパー事情に地味に詳しい女子高生がいます。きっと後半は子供というより大人に怒ってますね。気持ちはわかります。

 ただ、真剣にお菓子が並んでる棚をかがんで選んでる彼女は子供っぽくて可愛らしい。


「先輩、これ美味しそうじゃないですか?」


 デカデカと新商品!書かれたとこから取り出して見せたが、何だろこれ。チョコって書いてあるのにマグロ味って見えるんだけど。チョコにどうやってマグロ要素混ぜたんだよ。せめて、魚の形にできる程度だろ。


「先輩、マグロ味じゃないです。マグロアジです」


「マグロ味だろ?」


「いいえマグロ味ではなく、味は魚のアジです」


「ますます意味がわからん!」


「ちょっと買ってみましょう。何事も冒険です。普段こんなの買いませんけど」


 もっと普通のでいいじゃない。ポテチとかそんなので。

 結局買ったわけだけども。ただ、お菓子業界も何を考えてこんなもんを販売したんだろうか。その辺りの真意を問いたい。

 ショッピングモールなのでベンチがそこかしこに置いてある。適当なとこで腰をかけて早速封を解いてみた。


「真面目に……なんだこれ」


「見た目は普通ですね。魚の形してますけど」


「これだけ見せられてマグロ!って看破できるやつはいるんだろうか。それと、マグロアジってなんだ」


「パッケージの後ろにありました。マスコットキャラみたいですね」


「ああ……これ自体はただのチョコみたいね」


「美味しいです」


 先に食べられていた。買ったの俺だよ?いいんだけどさ。

 甘いもの食べて上機嫌になったようなので、少しベンチでまったりすることにする。


「先輩。なくなっちゃいますよ?」


「んー?ああいいよ。食べちゃって」


「チョコ……嫌いでしたか?」


「いや、香夜ちゃんが嬉しそうに食べてたから。なんかそれ見てたらお腹いっぱいになっちまったよ」


「先輩、なんかおじさん臭いです」


「え?加齢臭はしてないと思うけど……」


「体臭の話じゃないです。……そろそろ10時ですね。行きましょう。最後の一粒は先輩にあげます」


 それ、ゴミを片付けろって暗に言ってませんかね?

 俺が勘ぐりすぎなのか?

 まあ、香夜ちゃんはその辺りが打算的というか、本当に善意からなのかが分からない。


「なあ、香夜ちゃん」


「なんですか?」


「今日、流れ星を見るつもりなんだ。何か、願い事とかあるのか?」


「願い事……ですか」


「いや、ないならいいし、言いたくないならそれでいいんだけど」


「そうですね。では、ある、とだけ言っておきます。内容は言いませんけど」


「……そっか。叶うといいな」


「ええ。まずは流れ星を見つけることからですけどね。私、運がないようですし」


「そうなのか?」


「こんな先輩を掴まされるぐらいですので」


「俺が厄病神だとでも言いたいのか」


「ええ。周りの子たちからヒソヒソ噂されるんですよ。先輩が奇行に走るから。せめて、まともなことをして目立ってください。そうすればまだ周りの目も変わると言うのに」


「入学して奇行に走る先輩が近くにいれば香夜ちゃんに唾をつける奴がいなくなるということを考えればいい話だよな」


「先輩にとってだけじゃないですか。私だって女の子の友達が欲しいです」


「恵がいるだろ」


「クラス違いますし」


「そう心配しなくても友達なんて時間が経てば勝手にできるものだろ」


「男子はそれでいいかもしれませんけどね。女子は潜在的に自分の中で上下関係を作りたい生き物なんです。一度下に見られたら、這い上がるのはまず不可能ですね」


「こえーな女子」


「ですから、現段階で付き合ってないとしても上級生の男の先輩が付きまとっていれば私は……言わなくてもわかりますよね?私の口から言わなせないでください」


「なるほど。香夜ちゃんの言動に関わらず、レッテルを貼られるわけだな」


「だからと言って先輩が私のところに来ない理由にはなりません。私に手出しをしようとなれば、先輩が何をしでかすか分からないという裏にもなります」


「結局、現段階の香夜ちゃんの立ち位置がわからないんだが」


「言っちゃえば腫れものですよ。下手に手出しできない。だから、遠巻きに見てるしかない。まあ、前に言ったかもしれないですけど、私は基本的には喋らない子なんです。喋りかけようとしない子なんです。一人の方が好きな子なんです」


「……それでも友達は欲しいって思うんだな」


「一人、喋れる子がいればいいんです。それだけで変わるものなんです」


「GW明ければいるかもしんねえぞ。話しかけてくるやつ」


「女子だったらいいんですけどね」


「男子なら俺が取っては投げてやる」


「……聞きますけど、私に男子の友人がいた場合は?」


「俺経由のみなら許可します」


「先輩は私のお兄ちゃんですか」


「お兄ちゃんです」


「…………」


「…………」


「行きましょうか。ありますかね?ワンピース」


 流された。まだまだお兄ちゃんと認める気は無いようです。たぶん、永遠に認められることは無いでしょう。


「香夜ちゃん。スカートあまり好きじゃなかったんじゃないのか?」


「言ったじゃないですか。先輩がその方が好きなら先輩のために着てあげますって」


「にしても、女の子の服の専門か俺めっちゃ浮くやん」


「こういう時ぐらいは彼氏面しててください。その方が浮かなくて済みます。あと、私もこういうお店は入らないので、ちょっと浮き足立ってます」


 確かにそわそわしてる。俺以上だ。

 しかし、なんか見覚えのある服がチラホラ見えるような……。


「この店……」


「どうしたんですか?」


「母さんのデザインした服ばかりだ……」


「え?お母さんデザイナーだったんですか?」


「ああ。だから恵の服はだいたいその試作品だ」


「めぐちゃんの服が妙に可愛いのが多いのはきっと、お母さんがめぐちゃんを想定して作ってるからなんでしょうか」


 きっとそうなんでしょうね。うちの母はファッションデザイナーなのだが、女の子向けの服をデザインしている。

 だからというわけでもないのだが、恵はその被験体になることが多く、対して俺に関しては適当である。

 母さん曰く『男が着飾るな』とのことです。


「ちょっとぐらいはキメてもいいのに」


「俺のシンプル好きは母さんのせいだ」


「……今度でいいなら私が見立てましょうか?」


「多分、香夜ちゃんが見立てても結局こんな感じに落ち着くからやるだけ無駄だと思うよ」


「先輩は服に何か恨みでもあるんですか」


「単にファッションという業界に俺が身を置きたくないだけかと」


「そのくせ、私には何か着させようとするんですね」


「母さんに毒されてんだ」


「先輩。女の子のファッションに詳しかったりします?」


「それに関しては恵の方がよっぽど知ってる。が、男目線からの感想を寄越せってことで恵の試着には付き合われることは多々ある」


「それで、先輩のお母さんがデザインしたのというのは」


「見たところ……九割母さんのデザインだ」


「適当に選んでも当たるってどんな確率ですか」


「別に母さんはゴテゴテしたものは好まないからな。シンプルでかつ可愛く見えるようにデザインしたがるから。香夜ちゃん好みのものもあると思うぜ」


 恵の服を見て可愛いと思うなら、センスは似通ってると考えていいだろう。

 母さんか原宿系のファッションデザイナーじゃなくてよかったです。


「しかし……私のサイズがあるでしょうか……あ、これ可愛いです」


 早速一つ手に取っていた。


「じゃあ、適当に見てきていいぞ。決まったらまた声かけてくれ」


「あ、はい。……ちゃんと見てくださいね」


「もちろんだ。今日は香夜ちゃんの誕生日だからな」


「……はい」


 少し照れ臭そうに香夜ちゃんは選んでいたワンピースで顔を隠して俺に背を向けた。

 さて、恵に起きてるかどうか連絡を取るとするか。これからの予定を立てる必要がある。

 俺は……何を願おうか。


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