22話:甘い誘惑(2)
駅までは迎えに来てくれると言っていたが、あいつの家一駅跨がないといけないのか?
聞いた住所だとそこの駅が一番近い。が、別に自転車で行って遠いという距離でもない。
だから恵に提案したわけだが。
「お兄ちゃんが後ろに乗っけてくれるなら自転車で行く」
とのことなので、随分重くなった妹を後ろに乗っけて自転車を漕いだ。
休みなのになんで俺は労働を課されているんだろうか。バイトでもしてた方が金が入って有意義なんだけど。
して、30分ぐらい恵を後ろに乗せたまま交代することなく目的の駅へとたどり着いた。
ゴールデンウィークとあってか、中高生ぐらいが駅周りだとウヨウヨしてる。
言い方悪いけど他に妥当な形容の仕方もない。
しかし、こんな人混みで見つかるだろうか。
「あ、いたよお兄ちゃん」
「お前の目はどうなってるんだ。マサイ族か?」
「視力ってAまでしか計れないのか難点だよね。1以上あればAなんだよ?Sを作ってくれてもいい気がする」
基準を定めるのが面倒なんじゃないですかね?もしくは機械に限界があるとか。
視力検査にケチつけても変わるわけでもないので恵の案内で矢作の元へとたどり着いた。
「そしてお前は俺の顔を見てゲンナリするな。失礼だろ」
「普段から失礼な奴に言われたくない」
はて、なんのことだろう。俺は可愛い女の子に優しく、妹及びその友人に近づく男に容赦がないだけです。
「しかし、この駅なんか嫌な予感がすんな」
「なんかあったのか?」
「いや気のせいだろ。早くお前の家に案内してくれ。もう疲労困憊だ」
「別に家に行かなくてもいいだろ。気分転換なんだし。むしろ外の方がよくね?」
「いや、昨日な……」
「俺を蹴り飛ばしてくれたんだよなあ」
やっぱり。
「誰この人」
「自己紹介したじゃねえか。俺が昨日蹴り飛ばした人」
「ああ、女の子ナンパしてお兄ちゃんが蹴り飛ばしたっていうカッパさん」
この妹は塩塗りつけるんじゃないよ。
「今日は単独行動か?」
「結局俺だけ事情聴取取らされたんだよ!」
「御付きの二人に先に言えよ。俺はあの子助けただけだし」
「しかもこっちの子お兄ちゃんって言ったよな?なんだ?妹が二人いんのかお前は」
「あっちは彼女。こっちが本当の妹」
「まあそれはいいや。面貸せや」
「それでノコノコついていくやつがこの時世にいると思って?」
しかし、ナンパなんてしてるぐらいだからよほど相手がいないのかね?面が悪いのは同情するが俺に言われても困る。
「俺、こいつと約束してるんだけど」
「こいつ借りてくぞ」
「どうぞどうぞ」
あ、てめえ。友人売るな。恵だけいればいいと思ってやがるな?
「恵に手出すんじゃねえぞーー…………」
俺は連行されました。
なんでやねん。女の子助けて何があかんねん。
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ズコッー
盛大に音を鳴らしてドリンクを飲み干した。奢るというので甘えさせてもらおう。
「で、何用で?あ、すいませんこのパフェ一つ」
ついでに店員さんを呼び止めてパフェをご所望。
「お前は自分が払わないことにかこつけて好き勝手頼むな」
「大丈夫だ。まだ1500円以内」
「普通は遠慮して1000円ぐらいで収めてくれるもんじゃねえのかな」
「お前の常識でこちらのものさしを計られても困るぜ」
「……お前は俺の風貌見ても何も言わないんだな」
「人の容姿にケチつけんなって友人にキレられてね。まあ、遅かれ早かれ男なんて遺伝的にハゲるんだから気にすんな。俺もいつかハゲるかもな」
「なんの慰めにもなってねえんだけど。しかもこれは剃ってるんだよ」
「なんだ?家が寺だったりすんのか?」
「まあ……その通りだ」
「ふーん。その寺の坊っちゃんが幼気な女の子連れ込もうとしたわけ?」
「そういう言い方はしてくれるな……長男だから坊さんになるからって20歳まで彼女はおろか女の子の友達を作ることも禁止されててよお。こんな面だから、話しかけようにも怖がらせて意味がねえ。それでも、なんとかって思って相談したわけだよ」
「そこでお前好みの子でも適当に見つけて話し掛けろ。後は俺たちがなんとかしてやるとか言われたわけだな」
「よ、よく分かるな」
「あいにくここの出来はいいんでね。で、選んだのが香夜ちゃんか……いいセンスだ、とは言いたいが、お前ロリコンか」
「人のことカッパ呼ばわりしたり、自分の彼女指してロリコンってすごいなお前」
「性格が悪いだとかイカれてるだとか、変態だとかいろんな評価をされるな。言っとくけどあの子も大概だぞ」
「そんな子には見えなかったけどな」
「俺が余計なこと言った後だったからな。ちょっと落ち込んでたんだろ。まあ、お前の好みはわかった、ロリコン」
「ロリコン言うんじゃねえよ!ちゃんと名前はあるからよ!」
「え?河童さん?」
「今漢字でカッパ書いただろ!」
「まあ、怒るな怒るな。実はこのファミレス前にも騒いで白い目で見られたところだ」
「何をしてるんだお前は……見かけによらず」
「して本名は?」
「千種空だ」
「名前だけめちゃくちゃ爽やかだな。詐欺だろ」
「ちゃんと由来はある」
「かの有名な歴史人物の空海さん?」
「他にいねえ……だからこそ無性に腹立たしい。もっとこう、空のように心が広いとかでも十分だから……!」
「切実なようだが、人の名前でどうこういうやつを相手にすんな。俺なんか育也だぞ。後進の育成をしろって。俺長男だけど。下に兄弟ができるとは限らねえだろ。生まれた当初から何かを育てることを背負わせるなよ」
「なんか理不尽だな……」
「だから歴史人物になぞらえられてる分お前の方がマシだ」
「なんか妙な説得力だが違う気がする」
「気にすんな。俺が変なこと言ってんのは平常運転だから。で、頼みは?」
「……女の子と友達になる方法でも教えてもらいたな、と。好みが近いみたいだし」
「いや、ロリコンとは言ったが、別にお前の好みを把握したわけではない。それに好きになるなら何かしらの理由があるはずだ」
「理由か……強いて言うならガタイはいいから周りから怖がられても近所の小さい子とかは結構寄り付いてくれんだ。兄弟とかいないからさ。小さい子って癒されるなって……ってなんで泣いてるんだよ」
「邪な理由ですいません」
思った以上にこいつは純粋なやつだ。風貌で絶対勘違いされやつだが。心が汚いと評される俺なんかよりよっぽどいい奴そうです。
実家寺だし。関係ないか?
「理想とするような子はいるか?」
「お前の彼女はだいぶ理想に近かったんだけどな……もっと言えば、図書館にいるような大人しめの子とか」
「童貞か貴様ー!昨今なかなかいないわそんな女子!会いたいならば自分の学校の図書室行くか図書館に行け!」
「声がデカイ。そりゃ、妄想の産物だってのもわかってるけどよ、夢は見たいだろ」
「でも寺の坊っちゃんともなればお見合いとかの話も持ちかけられんじゃね?」
「親が選んだ相手なん嫌だっつの。俺の直感で選びたい」
「まあ、その相手が付き合ってくれるかは知らんが」
「お前はたいがい夢を壊してくるな」
「現実を見せてやってるのだ」
「キメ顔で言うな。腹が立つ」
「一つ言えることは女っ気のないところにいても出会いはないから、適当に文化部入るとかでもいいんじゃね?力仕事ができる奴は頼りにされるぞ」
俺は下っ端で部長にアゴで使われてますけどね。部長さん、俺のこと嫌いですかね?
「部活か……。運動部ぐらいしか頭になかったな。それはいい案かもしれない」
「……一つ聞きたい」
「なんだ?」
「お前、どこの学校の何年だ?」
「俺はこの駅の近くの高校の1年」
「……俺は2年なんだがな。高校は違うが、お前はまず礼儀を弁えてから来やがれ!」
腕ひしぎをして千種がギブをしたところで退出をした。
もう一杯ぐらいパフェを注文しとけばよかったな。
「あ、あのお客様!お会計は」
「あそこのツレがはら……う、って香夜ちゃん?」
「せ、先輩?」




