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21話:甘い誘惑

 ノートにペンを走らす音が部屋に響いている。

 俺も課題は出されているのでやらないわけにもいかず、一緒になってやっているわけだ。

 ちなみに美沙輝さんは恵の面倒を見てるついでに終わらせたらしいです。俺が香夜ちゃんとチュッチュしてる間に。

 とか俺から言ったら殴られるので、香夜ちゃんからうまく説明してもらっておいた。香夜ちゃんから頼んだということを言っておけば、精々とばっちり程度で被害は抑えられる。

 どっちにしろ、被害を受けることが確定してるのはイヤな話だけど。

 始めてから1時間ぐらい経ったあたりで恵が音を上げた。


「疲れた~。頭痛い……」


「そろそろ休憩するか」


 最初の頃は始めて5分と経たないうちにギブアップしていたものだが一時間もつようになったのだ。相当な進歩である。やはり習慣付けさせることが大事だな。

 ちなみ俺と香夜ちゃんで課した課題は、恵の能力であっても1日3時間はやればゴールデンウィーク中に終わる算段のものだ。まあ、それ以上に昨日やっているのならば最終日ぐらいは空くのではないのだろうか。昨日も頑張ってたとのことだったので進行具合はあまり聞かなかったけど。


「恵。今終わってる分でいいから課題見せてみろ」


「今やってたのは学校から出されたやつだよ」


「お前のクラスでも出されるのか」


「長期の休みは出すんだって。数学ぐらいだけど」


「それ出来なかったら俺は別に言わんけど香夜ちゃんから雷落ちるぞ」


「香夜ちゃんのためにも頑張らないと~。そうだ、香夜ちゃんといえば」


「なんかあったのか?」


「なんかすごい嬉しそうだった」


「あんまり表情変えない子なはずなんだけど」


 言葉はあるけど、基本的には淡々と話す子だからな。表情の変化とかはあまり分からない。

 だからこそ、昨日泣いてたのは驚いたぐらいだ。

 まあ、何を言われたかまでは聞かなかった。それは、彼女の胸にしまっておくことで、俺がそれをほじくり返す権利などない。

 しかし、嬉しそうだったねえ……。


「親友の私には分かるのです」


「別のクラスに間違えて行くまで忘れてたやつが親友ヅラすんなや」


「親友に期間は関係ないよ!今私が親友だと感じていれば香夜ちゃんが親友なの!」


「じゃあ聞いてみろよ」


「よーし。えっと、私は香夜ちゃんにとってのなんですか?と」


 意味深すぎる。何があったか聴きたくなるレベルだ。

 香夜ちゃんはこれに上手く返信するのだろうか。

 さすがに女の子といったところか返信も早かった。これを見る限りそんな考えなくても出てくる答えだったのか?


「私にとってのアイドルだって!えへへ~照れるな~香夜ちゃんったら~」


 こいつはとても分かりやすい。ころころ表情に出る。不満な時もよく出る。だからこそ、取るべき対応が分かりやすいのだが。

 そして、もう一件来たようだ。


「あと、妹だって」


「まあ、お前が香夜ちゃんの上に立てることはまずないな」


「ですよね~」


 それは認めるのか。学校で一番になるという目標はどうした。

 容姿で言えば、明らかに香夜ちゃんが妹だが、立場は圧倒的に香夜ちゃんがお姉さんである。

 そして、さらに上に立つのが美沙輝である。

 俺?恵より上、香夜ちゃん以下だ。

 あれ?香夜ちゃんのほうがお姉さんじゃん。おかしな図式になってしまった。気にしない方向で行こう。


「昨日デートでなんかあったの?」


「告白された」


「誰に⁉︎」


「香夜ちゃんしかいないだろうに……デートしてて他の子に告白されたらビックリ仰天だっつの」


「香夜ちゃんとお兄ちゃんがお付き合い?そうすると本当に私は香夜ちゃんの妹になっちゃうよ」


「いや、別に付き合うとかそういう話じゃない」


「違うの?相思相愛でしょ?」


「お前はいつからそんな難しい四字熟語を使えるようになったんだ」


「お兄ちゃんはいつまでも私のことをバカにしすぎなんだよ!私だって成長するの!ちゃんと漢字も書けるんだから!」


「まあ、お前の実力は中間テストで見るとして。今、香夜ちゃんと付き合うのは香夜ちゃんが望まなかったからな。それだけ 」


「そうなの?香夜ちゃんか美沙輝さんならお兄ちゃんあげてもいいけど」


「逆パターンは存在しないぞ」


「お兄ちゃんは私をお嫁に行かせないつもりなの⁉︎」


「俺の終身栄誉嫁候補にする」


「いや、妹を嫁候補にしなくても相手いそうだからいいじゃん」


「お前は誰かいるのか?」


「先輩が……」


 先輩?矢作か?


「天王洲先輩が私の貞操を狙ってそうで……」


「なんでそっちなんだよ!あの先輩女だろ!」


 いや、もしかしなくともなんとなく狙ってるような気はあったような気がするが。


「でも、すごく優していい先輩だよ。時折不穏当だけど、みんな尊敬してるよ」


 尊敬ではなく、畏怖だと思うし、尊敬しているではなく、させられているのではないかと思う。矢作の様子を見る限り。あいつだけオモチャにされてるのかもしれないけど。


「俺の友人の矢作君はどうなってる?」


「最近見ないなぁ。見ても部室の端っこにいるから。声かけても目が虚だったりするし」


「本格的に引きこもりそうだな……ゴールデンウィーク明けたら来ないとかやめてほしいぜ」


「じゃあ会いに行く?どうせ予定ないでしょ」


「先輩のために動いてくれる献身的な後輩がいてくれるとは、あいついれたりつくせりだな」


「なんか同じような状態でほぼ恋人同然のような付き合いをしてる人たちがいたような……」


 さて、どこの誰でしょうか。


「恵はそれ終わったのか?」


 広げた数学のノートを指して言う。

 ノート自体はかなり埋まってるようだしやってはいるようだが。


「課題は5分の1といったところでしょうか。残りがどんな問題かわからないけど」


「貸してみろ。今日の夜だけで終わりそうなら俺が見てやるから」


「はい。ページは飛び飛びだけど、二つの項目の総まとめってとこやってこいって。もうあと二つ目の残り3問ぐらい」


 大問で三つということだろう。まあ、これぐらいなら終わるか。というか、簡単だなこれ。俺たちが出した課題のほうがよっぽと難しいだろ。


「よし、これなら俺が見てやる。行くか」


「レッツゴーなのです!……先輩の家知らないよ?」


「安心しろ。……俺も知らん」


「友達がいの無い友達だね」


「元のほうはよく付き合ってんだけどなあ。あいつは同じクラスというだけであまり関わりがないのだ」


「話したことあるけど大した関係ではないということですか。お兄ちゃん」


「まあ、それでも妹の所属する部活の部長だ。手荒く扱ってやろう」


「なんで手荒くするのかな……?」


 男には拳で語らなければいけない時がある。

 本当に語る必要があるのかともかく、最近のあいつは日に日に萎れて行ってるからな。学年上がる頃におじいちゃんになってそうだ。

 まずは活気を取り戻させてやろう。話はそれからだ。


「あ〜もしもし?矢作か?俺、俺だけど」


 切られた。おかしいな。


「オレオレ詐欺と思われたんじゃない?」


「今時そんな古臭い手口でしかも男子高校生に電話する奴がいるかよ」


「じゃあ私がかける」


「まあ、いいけど」


 二つ返事で了承されたようだ。俺との扱いの差はなんだろう。


「これが可愛い後輩のなせる技です」


「いいもん。俺にも可愛い後輩いるから」


「香夜ちゃん成分が足りない……」


 なんでこいつの方が香夜ちゃんを求めてるんだよ。

 昨日あったことがあったことなので心の整理がしたいと今日も休みにしたのだ。さすがに、昨日みたいに急な訪問はまたとなかった。

 確かに友達というより姉妹みたいな感じに見えなくもない。だけど、姉妹ならこんな感じではきっとないと思います。ゆりゆりしてる分にはこちらも目の保養となるので一向に構いません。


「まあ、恵をエサに入れ食いになったから矢作の家へと行くか」


「今度こそレッツゴーなのです!」


 昨日は監視下だったので出かけることができなかったと思うが、外に出られるとあって恵も嬉しいのだろう。

 理由が俺の友人の介護だというのがなんとも言えないところだが。

 さっさと終わらせることにしよう。必要以上に元気にさせることはない。

 俺はシャーペンを机に転がし外へと出た。

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